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- Youngju Kim
- @fjvbn20031
- はじめに
- 敬語の三種類
- 尊敬語 — 相手を高める
- 謙譲語 — 自分を低める
- 丁寧語 — 文を丁寧に
- おとごの使い分け
- 謙譲語の二種類(発展)
- ビジネスの実戦表現
- 過剰敬語の落とし穴
- 韓国語の敬語との比較
- 主要動詞の三種敬語の総合表
- 実戦: メールと電話
- 学習順序の提案
- 尊敬・謙譲の混同 自己点検
- おわりに
- 参考資料
はじめに
日本語をある程度学んだ人でも、敬語(けいご)の前では自信をなくします。敬語の発達した韓国語の話者にとっても、日本語の敬語は手ごわいものです。韓国語の敬語と重なる部分もありますが、決定的に異なる点があるからです。
最も大きな違いは「誰を基準に高めるか」です。韓国語は主に「話す相手」と「話題の人物」を高めますが、日本語の敬語にはこれに加えて「自分を低めることで相手を高める」謙譲語という独特の体系があります。また、社外の人に自社の上司の話をするときは、上司に敬語を使わない「ウチ・ソト(内・外)」の概念もあります。
この記事では、日本語の敬語を文法体系として整理します。扱う内容は次のとおりです。
- 敬語の三種類 — 尊敬語・謙譲語・丁寧語の概念と違い
- 三つの敬語を作る規則と特殊形
- 主要動詞の特殊敬語形の表
- お・ご接頭辞の使い方
- ビジネスの実戦表現
- 過剰敬語(二重敬語)の落とし穴
- 韓国語の敬語との比較
敬語は単なる礼儀ではなく、人間関係を言語で表現する精巧な仕組みです。規則を理解すると、かえって明快になります。
敬語の三種類
日本語の敬語は大きく三つに分かれます。近年は丁寧語を「丁寧語」と「美化語」に分けて五分類で説明することもありますが、学習には次の三分類が実用的です。
| 種類 | 名称 | 高める対象 | 核心 |
|---|---|---|---|
| 尊敬語 | そんけいご | 相手・話題の人物の行為・状態 | 相手を直接高める |
| 謙譲語 | けんじょうご | 自分・自分側の行為 | 自分を低めて相手を高める |
| 丁寧語 | ていねいご | 聞き手全般 | です・ますで丁寧に |
核心となる原理を図で表すと次のようになります。
[相手・目上の人]
▲
尊敬語 │ 相手の行為を上に上げる
(行く→いらっしゃる)
│
[話者・自分]────▶ 丁寧語(です/ます)で聞き手に丁寧に
│
謙譲語 ▼ 自分の行為を下に下げる
(行く→まいる)
同じ「行く」という動作でも、相手が行くなら尊敬語「いらっしゃる」、自分が行くなら謙譲語「まいる」、単に丁寧には「行きます」になります。つまり、動作の主体が誰かによって敬語の種類が決まります。
尊敬語 — 相手を高める
尊敬語は相手や話題の中の目上の人の行為・状態を高めます。作り方は三つあります。
1. 特殊尊敬動詞(最も重要)
一部の核心動詞には専用の尊敬形があります。これから覚えるのが効率的です。
行く/来る/いる → いらっしゃる
食べる/飲む → 召し上がる
言う → おっしゃる
見る → ご覧になる
する → なさる
くれる → くださる
知っている → ご存じだ
先生は 明日 いらっしゃいますか。
(先生は明日いらっしゃいますか)
社長が そう おっしゃいました。
(社長がそうおっしゃいました)
2. 「お + ます形の語幹 + になる」パターン
特殊形のない動詞は、このパターンで尊敬語を作ります。
読む → お読みになる
書く → お書きになる
待つ → お待ちになる
3. 受身と同じ「れる・られる」
受身と形が同じ尊敬表現です。やや軽い尊敬で、あまり格式ばらない場面で使われます。
読む → 読まれる
来る → 来られる
三つの方法の尊敬度は、おおむね特殊形とお〜になるが高く、れる・られるがその次という順です。格式のある場面では特殊形とお〜になるを優先します。
謙譲語 — 自分を低める
謙譲語は、自分または自分側(ウチ)の行為を低めることで、結果的に相手を高めます。韓国語にはない独特の概念なので、学習者が最も難しく感じる部分です。
1. 特殊謙譲動詞
行く/来る → まいる / うかがう
いる → おる
食べる/飲む → いただく
言う → 申す / 申し上げる
見る → 拝見する
する → いたす
もらう → いただく
あげる → 差し上げる
聞く/訪ねる → うかがう
会う → お目にかかる
知っている → 存じております
私が ご案内 いたします。
(私がご案内いたします)
明日 3時に うかがいます。
(明日3時にうかがいます)
資料を 拝見しました。
(資料を拝見しました — 自分が見る行為を低める)
2. 「お + ます形の語幹 + する」パターン
特殊形がないとき、このパターンで謙譲語を作ります。
持つ → お持ちする
送る → お送りする
待つ → お待ちする
お荷物を お持ちします。
(お荷物をお持ちします)
謙譲語使用の核心: 主語が自分
尊敬語と謙譲語を混同しない鍵は「動作の主語が誰か」です。
相手が見る → ご覧になる (尊敬語)
自分が見る → 拝見する (謙譲語)
相手が来る → いらっしゃる (尊敬語)
自分が行く → まいる/うかがう (謙譲語)
丁寧語 — 文を丁寧に
丁寧語は特定の人物を高めるのではなく、聞き手に丁寧な態度を示します。です・ます体が代表です。
学生だ → 学生です
行く → 行きます
ある → あります → ございます (より丁寧)
「ございます」は「あります」の丁寧語で、とくに接客・ビジネスでよく使われます。
受付は 2階に ございます。
(受付は2階にございます)
美化語(お・ごを付けた語)
丁寧語の下位分類で、物事にお・ごを付けて言葉を上品にすることを美化語といいます。相手を直接高めるのではなく、話者の言葉遣いを整える機能です。
お茶 お水 ご飯 お金
おとごの使い分け
接頭辞のお・ごは、尊敬・謙譲・美化のすべてに使われます。原則は次のとおりです。
| 接頭辞 | 付く語 | 例 |
|---|---|---|
| お | 和語(訓読み)系 | お名前・お手紙・お茶・お忙しい |
| ご | 漢語(音読み)系 | ご住所・ご連絡・ご家族・ご案内 |
ただし例外が多く、漢語なのに「お」を使う慣用語があります。
お電話 お食事 お時間 お料理 お約束
(漢語だが慣習的に「お」)
注意: 外来語・自然物には付けない
✕ おコーヒー ✕ おビール(ただし接客現場では慣用的に使われることもある)
✕ お空 ✕ お山 (一般的に)
外来語には原則としてお・ごを付けません。また、自分の物や低めるべき対象には付けません。
謙譲語の二種類(発展)
文化庁の指針では、謙譲語を二つに分けます。学習の初期には知らなくてもよいですが、中級以上で正確に使うために知っておくとよいでしょう。
| 区分 | 名称 | 特徴 | 例 |
|---|---|---|---|
| 謙譲語I | 謙譲語I | 相手(向かう対象)がある行為を低める | うかがう・差し上げる・拝見する |
| 謙譲語II | 謙譲語II(丁重語) | 相手がいなくても自分を丁重に表す | まいる・おる・申す・いたす |
違いを例で見ると次のとおりです。
先生のところに うかがいます。 (先生のところにうかがいます)
→ 向かう相手(先生)がいる → 謙譲語I
電車で まいります。 (電車でまいります)
→ 特定の相手がいなくても自分を低める → 謙譲語II
「うかがう」は「誰に向かって」行くかが重要で、「まいる」は単に自分の移動を丁重に言うものです。この区別が分かると、「取引先にうかがう(O)」と「駅にまいる(O)」のニュアンスの違いを理解できます。
ビジネスの実戦表現
実務でとくによく使う敬語表現を整理します。
| 普通の表現 | ビジネス敬語 | 状況 |
|---|---|---|
| どうですか | いかがでしょうか | 意向を尋ねるとき |
| いいですか | よろしいでしょうか | 許可を求めるとき |
| わかりました | 承知いたしました / かしこまりました | 指示を受けるとき |
| すみません | 申し訳ございません | 謝るとき |
| ちょっと待って | 少々お待ちください | 待機の依頼 |
| 見てください | ご覧ください | 確認の依頼 |
| 言ってください | おっしゃってください | 発言の依頼 |
ウチ・ソト(内・外)の原則
日本語の敬語で最も重要な実務概念です。社外の人(ソト)に自社の人(ウチ)の話をするときは、その人がどんなに上司でも敬語を使いません。
社内で上司に:
部長は 今 いらっしゃいますか。 (部長は今いらっしゃいますか → 尊敬語 O)
取引先に自社の部長を言及:
部長の 田中は 席を 外しております。
(部長の田中は席を外しております → 敬称・敬語 X、謙譲語で)
取引先の前では自社の上司を「田中は」のように名前だけで呼び、謙譲語(おります)で低めます。このウチ・ソトの感覚は、韓国語の敬語と大きく異なる部分です。
過剰敬語の落とし穴
敬語を正確に使おうとして、かえって間違うことが多くあります。代表的なのが二重敬語です。
二重敬語
一つの動詞に尊敬の要素を二重に重ねる誤りです。
✕ お読みになられる → 「お〜になる」+「れる」二重
○ お読みになる
✕ ご覧になられる → 「ご覧になる」+「れる」二重
○ ご覧になる
✕ おっしゃられる → 「おっしゃる」+「れる」二重
○ おっしゃる
特殊尊敬動詞(おっしゃる・いらっしゃるなど)はすでにそれ自体で尊敬語なので、そこにさらにれる・られるを付けると二重敬語になります。
バイト敬語(過剰な丁寧)
接客現場で慣用的に使われるものの、文法的には議論のある表現です。
△ こちらが メニューに なります。 (メニューです → なります の誤用)
○ こちらが メニューでございます。
△ 1000円から お預かりします。 (から が不要)
○ 1000円 お預かりします。
こうした表現は現場で広く使われますが、格式のある場面や文書では避けるほうがよいでしょう。
韓国語の敬語との比較
| 項目 | 韓国語 | 日本語 |
|---|---|---|
| 相手を高める | 敬語(-si-、-yo) | 尊敬語 |
| 自分を低める | 謙譲表現(限定的) | 謙譲語(体系的・必須) |
| 聞き手に丁寧 | ヘヨ体/ハプショ体 | 丁寧語(です・ます) |
| 内/外 | 絶対敬語に近い | 相対敬語(ウチ・ソト) |
最も大きな違いは二つです。
第一に、韓国語は絶対敬語に近いことです。上司はいつでも上司なので、社外の人にも「部長は(高めて)」と高めます。一方、日本語は相対敬語なので、取引先の前では自社の部長を低めます。
第二に、日本語の謙譲語は韓国語よりはるかに体系的で必須だということです。韓国語にも「差し上げる・伺う・お目にかかる」に当たる謙譲表現がありますが、日本語はほとんどすべての動作に謙譲形があり、ビジネスで必須として使われます。
主要動詞の三種敬語の総合表
最もよく使う動詞の[普通形 / 尊敬語 / 謙譲語]を一つの表に整理します。この表をセットで覚えることが、敬語学習の近道です。
| 普通形 | 尊敬語 | 謙譲語 |
|---|---|---|
| 行く | いらっしゃる | まいる・うかがう |
| 来る | いらっしゃる・お見えになる | まいる |
| いる | いらっしゃる | おる |
| する | なさる | いたす |
| 言う | おっしゃる | 申す・申し上げる |
| 見る | ご覧になる | 拝見する |
| 食べる | 召し上がる | いただく |
| 聞く | お聞きになる | うかがう |
| 会う | お会いになる | お目にかかる |
| もらう | お受け取りになる | いただく |
| あげる | くださる | 差し上げる |
| 知っている | ご存じだ | 存じ上げる・存じております |
「いらっしゃる」が「行く・来る・いる」の三つの動詞の尊敬語を兼ねるのが特徴です。文脈でどの意味かを判断します。
実戦: メールと電話
敬語はとくに文書と電話で完成度が表れます。よく使う定型表現を整理します。
メールの書き出し・結び
お世話になっております。
(お世話になっております → ビジネスメールの定型あいさつ)
ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
(ご確認のほど、よろしくお願いいたします)
お忙しいところ恐縮ですが、
(お忙しいところ恐縮ですが)
電話応対
ただ今、席を外しております。
(ただ今、席を外しております → おる=いるの謙譲)
少々お待ちいただけますでしょうか。
(少々お待ちいただけますでしょうか)
お電話ありがとうございます。
(お電話ありがとうございます)
こうした表現は丸ごと覚えておくと、実務ですぐに活用できます。敬語は規則の理解と定型句の暗記を並行するのが効果的です。
学習順序の提案
- 丁寧語(です・ます): すべての敬語の基本。まず完全に身につける。
- 特殊尊敬動詞・謙譲動詞: いらっしゃる・まいるなど核心の対応ペアから。
- お〜になる / お〜する パターン: 規則生成。
- お・ご接頭辞: 訓読み/音読みの原則。
- ウチ・ソト: ビジネス必須の感覚。
- 二重敬語の回避: 過剰を削る。
とくに「行く」のように、一つの動詞について[普通形 / 尊敬形 / 謙譲形]をセットで覚えると効率的です。
行く : 行きます / いらっしゃる / まいる・うかがう
言う : 言います / おっしゃる / 申す・申し上げる
見る : 見ます / ご覧になる / 拝見する
尊敬・謙譲の混同 自己点検
最後に、学習者が最もよく間違える尊敬・謙譲の混同を点検表で整理します。左の誤った文がなぜ間違いなのかを自分で説明できれば、敬語の感覚がつかめた証拠です。
| 誤った文 | 問題 | 正しい文 |
|---|---|---|
| 部長、資料を ご覧しました | 自分の行為に尊敬語 | 部長、資料を 拝見しました |
| お客様、こちらで お待ちして ください | 客の行為に謙譲語 | お客様、こちらで お待ちください |
| 私が 召し上がります | 自分の行為に尊敬語 | 私が いただきます |
| 社長が 参られます | 社長の行為に謙譲語+尊敬 | 社長が いらっしゃいます |
| ご遠慮なく いたして ください | 相手の行為に謙譲語 | ご遠慮なく なさって ください |
核心の見分け方は、いつでも「この動作を誰がするか」です。自分がするなら謙譲語(拝見・いただく・いたす)、相手がするなら尊敬語(ご覧になる・召し上がる・なさる)です。
おわりに
敬語は日本語の最高の難関であり、同時に日本社会で信頼を得る鍵です。規則は複雑に見えますが、「誰の行為をどの方向に扱うか」 — 相手の行為は上へ(尊敬語)、自分の行為は下へ(謙譲語)、文全体は丁寧に(丁寧語) — という三つの軸をつかめば、ほとんどの状況に対応できます。
最初から完璧を目指すと、かえって萎縮します。まず丁寧語を確実にし、よく使う特殊敬語動詞を十ほどセットで覚えたうえで、実戦で少しずつ磨いていくのが現実的です。母語話者でも二重敬語をしばしば間違えるほどですから、行きすぎた完璧主義よりも、相手を思いやる心がまえのほうが大切です。