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- 1. 序論:LLM推論の「健忘症」を治療する
- 2. [理由1] RadixAttention:KVキャッシュのパラダイムシフト
- 3. [理由2] 29%の格差:ハイパースペシャライズド設計
- 4. [理由3] 4,000行の奇跡:Python Zero-Overheadスケジューラ
- 5. [理由4] Prefill-Decode Disaggregation:演算の分業
- 6. [理由5] 構造化生成:Compressed FSMの革新
- 7. LLM推論フレームワーク総合比較
- 8. SGLangインストールとクイックスタート
- 9. API使用法とコード例
- 10. 主要設定パラメータガイド
- 11. デプロイメントガイド
- 12. SGLang 2026ロードマップとエコシステム
- 13. 結論:ハードウェアの限界をソフトウェアの知能で突破する
- 14. References
1. 序論:LLM推論の「健忘症」を治療する
1.1 繰り返される演算、無駄になるGPU
2024年後半、LLMベースのエージェントとRAGパイプラインがプロダクション環境に本格投入される中で、ある不都合な真実が浮上した。それが**LLM推論の「健忘症」**問題である。
ユーザーが同じシステムプロンプトとFew-shotの例を繰り返し送信するたびに、サービングエンジンはすでに一度計算したKVキャッシュを破棄し、最初から再計算する。マルチターン会話では前のターンのコンテキストを再利用できず、RAGパイプラインでは共通ドキュメントチャンクのエンコーディングを毎回新たに実行する。H100 GPUの時間あたりコストが3〜4ドルに達する時代に、このような重複演算はコストの直接的な浪費である。
既存の推論エンジンはこの問題を部分的にしか解決できなかった。vLLMのPagedAttentionはKVキャッシュのメモリ管理効率を革命的に改善したが、リクエスト間キャッシュ再利用というより大きな問題を根本的に解決できなかった。TensorRT-LLMはNVIDIAハードウェアで極限のカーネル最適化を提供するが、柔軟なプロンプトプログラミングとの統合に限界があった。
1.2 SGLang:DSL + ランタイム コデザイン
ここで**SGLang(Structured Generation Language)**が登場する。UC BerkeleyのLMSYSチームが主導して開発したSGLangは、単純な推論エンジンではない。**フロントエンド言語(DSL)とバックエンドランタイムを共同設計(co-design)**し、複雑なLLMプログラムを最適に実行する統合システムである。
"SGLang is a system for efficient execution of complex language model programs. It consists of a frontend language and a runtime. The frontend simplifies programming with primitives for generation and parallelism control. The runtime accelerates execution with novel optimizations." — Zheng et al., NeurIPS 2024
SGLangのコア設計哲学を一言でまとめると**「LLM推論オペレーティングシステム」**である。OSがプロセススケジューリング、メモリ管理、I/O最適化を統合するように、SGLangはKVキャッシュ管理(RadixAttention)、CPU-GPUパイプライニング(Zero-Overhead Scheduler)、分散実行(PD Disaggregation)、構造化出力(Compressed FSM)を一つの一貫したアーキテクチャに統合する。
1.3 数字で語るSGLang
論文で報告されたベンチマーク結果は印象的である。
| 指標 | SGLang性能 |
|---|---|
| エージェントタスク | vLLM比最大6.4倍スループット |
| H100トークンスループット | 16,215 tok/s(vLLM: 12,553) |
| マルチターンキャッシュヒット率 | 85-95%(vLLM: 15-25%) |
| JSON構造化デコーディング | 最大3倍速度向上 |
| PD Disaggregation | ノードあたり52.3K input tok/s |
本記事では、SGLangがLLM推論の勢力図を変える5つの核心的理由を技術的に深層分析する。各理由が単なる機能追加ではなく、推論パイプライン全体を再設計するアーキテクチャ的革新であることを明らかにする。
2. [理由1] RadixAttention:KVキャッシュのパラダイムシフト
2.1 PagedAttentionの限界
vLLMが導入したPagedAttentionは、KVキャッシュ管理にOSの仮想メモリ概念を適用し、メモリフラグメンテーション問題を画期的に解決した。固定サイズブロック単位でKVキャッシュを管理し、Internal/External Fragmentationを最小化した。
しかしPagedAttentionには根本的な限界がある。リクエスト間(inter-request)KVキャッシュ共有が困難という点である。
[リクエストA] System Prompt(500 tokens) + User Query A(50 tokens)
[リクエストB] System Prompt(500 tokens) + User Query B(80 tokens)
[リクエストC] System Prompt(500 tokens) + User Query C(30 tokens)
3つのリクエストすべてが同じ500トークンのシステムプロンプトを共有するが、vLLMのデフォルトPagedAttentionは各リクエストごとにシステムプロンプトのKVキャッシュを独立に計算・保存する。これはGPU演算とメモリの両面で莫大な浪費を招く。vLLMもAutomatic Prefix Cachingを導入したが、正確なプロンプト一致に依存し、部分的なプレフィックス共有には限界がある。
2.2 Radix Tree:データ構造の革新
SGLangのRadixAttentionはこの問題を根本的に異なるアプローチで解決する。核心は**Radix Tree(基数木)**データ構造をKVキャッシュ管理に導入したことである。
Radix Tree(Patricia Trieとも呼ばれる)は文字列の共通プレフィックスを圧縮して格納するツリー構造である。ネットワークルーティングテーブル(IPプレフィックスマッチング)や文字列辞書で広く使われるデータ構造をKVキャッシュ管理に適用したのがSGLangの核心的洞察である。
RadixAttention KVキャッシュツリー構造
=================================
[ROOT]
|
+-----------+-----------+
| |
[System Prompt] [Few-shot Prefix]
"You are a helpful "Translate the following
AI assistant..." examples..."
(KV: 500 tokens) (KV: 800 tokens)
| |
+-------+-------+ +-----+-----+
| | | |
[User A] [User B] [Example 1] [Example 2]
"What is "Explain "Hello-> "Good->
Docker?" K8s pods" こんにちは" 良い"
(KV: 50 tok) (KV: 80 tok) (KV: 30 tok) (KV: 25 tok)
| |
[Turn 2-A] [Turn 2-B]
"How to "What about
install?" services?"
(KV: 40 tok) (KV: 60 tok)
|
[Turn 3-A]
"Configure
networking"
(KV: 45 tok)
上の図に示すように、Radix Treeの各ノードはトークンシーケンスとそれに対応するKVキャッシュページを格納する。新しいリクエストが到着すると、ランタイムはツリーを巡回し**最長共通プレフィックス(Longest Common Prefix)**を自動検出する。マッチしたプレフィックスのKVキャッシュは再利用され、マッチしない残りの部分だけが新たに計算される。
2.3 RadixAttentionの動作原理
RadixAttentionのコア動作フローを詳しく見てみよう。
ステップ1:プレフィックスマッチング
新リクエスト:"You are a helpful AI assistant... What is Kubernetes?"
Radix Tree探索:
[ROOT] → [System Prompt] マッチ!(500 tokens再利用)
→ [User A: "What is Docker?"] 不一致
→ [User B: "Explain K8s pods"] 不一致
→ 新しいブランチ作成が必要
結果:500 tokensのKVキャッシュを再利用、残りの50 tokensのみ新規計算
ステップ2:キャッシュ挿入
新たに計算されたKVキャッシュはツリーの適切な位置に挿入される。既存ノードとの共通プレフィックスがあればノードを分割(split)し、なければ新しい子ノードを追加する。
ステップ3:LRU退去 + ツリー剪定
GPUメモリが不足すると、LRU(Least Recently Used)ポリシーとツリー構造を組み合わせたインテリジェントな退去が実行される。
LRU退去プロセス:
=================
メモリ不足発生!
1. リーフノードの中で最も長くアクセスされていないノードを選択
→ [Turn 3-A](最終アクセス:30分前)
2. そのノードのKVキャッシュを解放(45 tokens回収)
3. 親ノード検査:[Turn 2-A]に他の子があるか?
→ なし:親も退去候補に昇格
→ あり:親を維持
4. メモリ十分? → でなければ次のLRUリーフノードで繰り返し
このメカニズムの核心はリーフノードから退去するという点である。ツリーの上位ノード(システムプロンプトなど)はより多くのリクエストに共有されるため自然に保存され、下位の個別ユーザーターンが先に退去される。これはキャッシュ再利用価値の高いノードを自動的に優先保存する効果を生む。
2.4 エージェントワークフローにおける威力
RadixAttentionの威力は急速に台頭しているエージェントワークフローで劇的に現れる。エージェントはツール呼び出し、観察、推論を繰り返し、各ステップで前の会話履歴全体をコンテキストとして送信する。
エージェント実行フロー(10ステップ推論):
================================
[Step 1] System + Tools + Query → 1000 tokens(新規計算)
[Step 2] System + Tools + Query + Obs1 → 1000 再利用 + 200 新規計算
[Step 3] System + Tools + Query + Obs1 + Obs2 → 1200 再利用 + 200 新規計算
...
[Step 10] System + Tools + Query + Obs1~Obs9 → 2800 再利用 + 200 新規計算
RadixAttention:総新規演算 = 1000 + 200*9 = 2,800 tokens
PagedAttention:総新規演算 = 1000 + 1200 + 1400 + ... + 2800 = 19,000 tokens
削減率:約85%
Zheng et al.の論文によると、このようなエージェントシナリオでSGLangはvLLM比最大5倍のスループット向上を達成する。特にFew-shot Learningベンチマークでは、SGLangのキャッシュヒット率は85-95%に達する一方、vLLMは15-25%にとどまる。
2.5 Cache-Aware Load Balancer
SGLang v0.4で導入されたCache-Aware Load Balancerは、RadixAttentionの効果をマルチインスタンス環境に拡張する。複数のSGLangサーバーインスタンスが存在するとき、ロードバランサーは単純なラウンドロビンの代わりに各インスタンスのRadix Tree状態を考慮してリクエストをルーティングする。
Cache-Aware Load Balancing:
リクエスト:"System Prompt A + User Query X"
Instance 1: Radix Treeに"System Prompt A"キャッシュ存在 ← ここにルーティング!
Instance 2: Radix Treeに"System Prompt B"キャッシュ存在
Instance 3: Radix Treeに"System Prompt A"キャッシュなし
結果:キャッシュヒット率最大化 → 1.9倍スループット向上、3.8倍キャッシュヒット率向上
この機能によりSGLangはクラスターレベルでもKVキャッシュ再利用を最大化できる。
3. [理由2] 29%の格差:ハイパースペシャライズド設計
3.1 同じカーネル、異なる性能
LLM推論エンジンの性能を比較する際に見落とされがちな事実がある。SGLangとvLLMは実際のGPU演算で同じFlashInferカーネルを使用しているという点である。FlashInferはFlashAttentionの推論特化バリアントで、Attention演算のGPUカーネル自体は同一である。
しかしH100 GPUでのベンチマーク結果は驚くべき格差を示す。
| エンジン | スループット (tok/s) | 相対性能 |
|---|---|---|
| SGLang | 16,215 | 100% |
| LMDeploy | 16,132 | 99.5% |
| vLLM | 12,553 | 77.4% |
同じGPUカーネルを使用しているのに29%のスループット格差が発生する。この格差はどこから来るのか?
3.2 アーキテクチャ哲学の違い
答えはアーキテクチャ設計哲学の根本的な違いにある。
vLLM:柔軟なプラグインアーキテクチャ
vLLMは多様なハードウェア(NVIDIA、AMD、Intel、TPU)と多様なモデルアーキテクチャをサポートするためにプラグインベースの抽象化レイヤーを厚く設計した。Attention Backend、Executor、Workerなどを交換可能なモジュールとして設計し、拡張性を最大化した。
vLLM Architecture (Simplified):
================================
[Request] → [Scheduler] → [Executor Interface]
↓
[Backend Abstraction Layer]
↓
[Attention Backend Plugin]
↓
[FlashInfer / FlashAttention / ...]
↓
[GPU Kernel]
この設計の利点は明確である。新しいハードウェアサポートの追加、新しいAttentionアルゴリズムの統合、コミュニティ貢献の受け入れが容易である。しかしこれらの抽象化レイヤーは間接呼び出し(indirection)、メモリコピー、型変換などのオーバーヘッドを伴う。各レイヤーのオーバーヘッドは微小だが、Autoregressive Decodingで数千〜数万回繰り返されると蓄積される。
SGLang:ハイパースペシャライズド統合
SGLangは逆のアプローチを取った。サポート範囲を狭める代わりに、サポートするパスの性能を極限まで最適化する戦略である。
SGLang Architecture (Simplified):
=================================
[Request] → [Zero-Overhead Scheduler]
↓
[Direct FlashInfer Integration]
↓
[TMA-Optimized GPU Kernel]
↓
[GPU HBM]
SGLangはFlashInferカーネルを直接統合(direct integration)し、中間の抽象化レイヤーを最小化する。特にNVIDIA Hopperアーキテクチャの**TMA(Tensor Memory Accelerator)**を活用した最適化されたメモリアクセスパターンをカーネルレベルで直接実装する。
3.3 マイクロベンチマーク分析
29%の格差を分解すると以下の構成要素に分かれる。
| オーバーヘッド原因 | 推定寄与度 | 説明 |
|---|---|---|
| スケジューラオーバーヘッド | ~10% | vLLMの複雑なスケジューリングロジック vs SGLangのzero-overheadスケジューラ |
| メモリ管理オーバーヘッド | ~8% | ブロックテーブル管理、メタデータ同期 |
| 抽象化レイヤーコスト | ~6% | Backend dispatch、型変換 |
| キャッシュ管理効率 | ~5% | RadixAttentionのツリーベースアプローチ vs ハッシュベースアプローチ |
各項目は個別には大きくないが、Autoregressive Decodingの数千回の繰り返しで蓄積され、最終的に29%の意味ある格差を形成する。
3.4 実践ベンチマーク:モデル別比較
多様なモデルでのベンチマーク結果を総合すると以下のとおりである。
| モデル | GPU | SGLang (tok/s) | vLLM (tok/s) | TRT-LLM (tok/s) | TGI (tok/s) |
|---|---|---|---|---|---|
| Llama-3.1-8B | 1x H100 | 16,215 | 12,553 | 14,800 | 11,200 |
| Llama-3.1-70B | 4x H100 | 8,500 | 6,800 | 8,200 | 5,900 |
| Mixtral-8x7B | 2x H100 | 12,800 | 10,100 | 11,500 | 8,700 |
| Qwen-2.5-72B | 4x H100 | 7,900 | 6,200 | 7,500 | 5,500 |
| DeepSeek-V3 (EP) | 8x H100 | 6,200 | 4,800 | - | - |
SGLangはほとんどのシナリオで最高スループットを記録し、特にMoE(Mixture of Experts)モデルではExpert Parallelismサポートにより追加的な利点を示す。
4. [理由3] 4,000行の奇跡:Python Zero-Overheadスケジューラ
4.1 "Python Control, Native Compute"パラダイム
LLM推論の隠れたボトルネックはGPUではなくCPUにある。GPUが現在のバッチのForward Passを実行している間、CPUは次のタスクのためのメタデータを準備しなければならない。バッチ構成、メモリ割り当て、プレフィックスマッチング、リクエストキュー管理など、CPUで処理すべきタスクは少なくない。
最適化されていない推論エンジンは全実行時間の最大50%をCPUオーバーヘッドに費やすことがある。この問題を解決するためSGLangは**"Python Control, Native Compute"**パラダイムを採用する。
従来方式(Sequential):
========================
Time → [CPU: Batch N 準備] [GPU: Batch N 演算] [CPU: Batch N+1 準備] [GPU: Batch N+1 演算]
↑ GPU idle ↑ GPU idle
SGLang Zero-Overhead (Pipelined):
==================================
Time → [CPU: Batch N 準備] [CPU: Batch N+1 準備] [CPU: Batch N+2 準備] [CPU: Batch N+3 準備]
[ ] [GPU: Batch N 演算 ] [GPU: Batch N+1 演算] [GPU: Batch N+2 演算]
↑ No GPU idle! ↑ No GPU idle! ↑ No GPU idle!
4.2 非同期CPU-GPUパイプライニング
SGLangのスケジューラはGPUがバッチNを処理している間、CPUがバッチN+1のメタデータを事前に準備する非同期パイプライニングを実装する。
# SGLangスケジューラのコアループ(概念的疑似コード)
class ZeroOverheadScheduler:
def run_event_loop(self):
while True:
# 1. GPUから前のバッチ結果を非同期受信(non-blocking)
completed = self.recv_from_gpu(blocking=False)
if completed:
self.process_completed_tokens(completed)
# 2. 次のバッチ構成(CPUで実行)
next_batch = self.schedule_next_batch()
# 3. Radix Treeでプレフィックスマッチング(CPUで実行)
self.match_prefixes(next_batch)
# 4. GPUメモリ割り当て(CPUで実行)
self.allocate_kv_cache(next_batch)
# 5. GPUにバッチ送信(non-blocking)
self.send_to_gpu(next_batch)
# GPUはこの全プロセスの間、前のバッチを処理中!
核心はすべてのCPU作業がGPU演算と並行して実行されることである。SGLangはforward_streamとcopy_streamを分離し、Forward Pass GPU演算とData-to-Host(D2H)メモリ転送を独立に実行することでオーバーラップを最大化する。
4.3 反復スケジューリング
SGLangのもう一つの革新はIterative Scheduling方式である。従来のバッチスケジューラがバッチ内のすべてのリクエストが完了するまで待つのに対し、SGLangは各Forward Iterationごとにバッチを再構成する。
従来のStatic Batching:
=====================
Batch: [Req A(100 tok), Req B(50 tok), Req C(200 tok)]
Step 1-50: A, B, C すべて処理
Step 51-100: A, C 処理(B完了、スロット浪費)
Step 101-200: Cのみ処理(Aも完了、2スロット浪費)
SGLang Iterative Scheduling:
============================
Step 1-50: [A, B, C] 処理
Step 51: B完了 → 即座に [A, C, D](新リクエストD挿入)
Step 101: A完了 → 即座に [C, D, E, F](新リクエストE, F挿入)
→ GPU活用率最大化!
4.4 コードベースの軽量性
SGLangのコアスケジューラは約4,000行の純粋なPythonコードで実装されている。この数字は意味深い。
| エンジン | スケジューラコード規模 | 言語 |
|---|---|---|
| SGLang | ~4,000 lines | Python |
| vLLM | ~30,000+ lines | Python + C++ |
| TensorRT-LLM | ~50,000+ lines | C++ + Python |
| TGI | ~20,000+ lines | Rust + Python |
Pythonで書かれたスケジューラがC++やRustベースのスケジューラと同等以上の性能を出すことは、アルゴリズム設計が実装言語より重要であることを証明する。SGLangの非同期パイプライニングはCPUスケジューリング時間をGPU演算時間の裏に完全に隠すため、Pythonの相対的な遅さがボトルネックにならない。
この軽量性は実用的な利点も大きい。デバッグ、プロファイリング、カスタムスケジューリングロジックの追加がC++ベースエンジンと比べて圧倒的に容易である。研究者やエンジニアが迅速に実験・貢献できる環境が整い、SGLangの急速な発展の原動力となっている。
4.5 Micro-Batching Event Loop
SGLang v0.4以降に導入されたMicro-Batching Event Loopは、パイプライニングをさらに進化させた。Pipeline Parallelism(PP)環境で非同期P2P(Peer-to-Peer)通信を通じてGPU演算、CPUメタデータ処理、PP通信をすべてオーバーラップする。
Micro-Batching Event Loop (PP=2):
==================================
GPU Stage 0: [Fwd mb0] [Fwd mb2] [Fwd mb4] ...
GPU Stage 1: [Fwd mb0] [Fwd mb2] [Fwd mb4] ...
P2P Comm: [Send mb0→S1] [Send mb2→S1] ...
CPU: [Sched mb2] [Sched mb4] [Sched mb6] ...
mb = micro-batch, S = Stage, Fwd = Forward Pass
→ すべてのリソースが同時にアクティブ!
この設計によりSGLangはPipeline Parallelism環境でもバブル(bubble)を最小化し、大規模モデルのマルチノードサービングでも高い効率を維持する。
5. [理由4] Prefill-Decode Disaggregation:演算の分業
5.1 PrefillとDecodeの根本的違い
LLM推論の2つのフェーズであるPrefillとDecodeはまったく異なるハードウェア要件を持つ。
| 特性 | Prefillフェーズ | Decodeフェーズ |
|---|---|---|
| 演算タイプ | Compute-Bound | Memory-Bound |
| ボトルネック | GPU FLOPS | GPUメモリ帯域幅 |
| バッチ特性 | 大きな入力、並列処理 | トークン1個、逐次処理 |
| GPU活用率 | 高い(60-80%) | 低い(10-30%) |
| 最適ハードウェア | 高FLOPS | 高HBM帯域幅 |
| レイテンシ影響 | TTFT | TPOT |
既存の推論エンジンは2つのフェーズを同じGPUでタイムシェアリングで処理する。Continuous Batchingなどの技法である程度最適化できるが、根本的に異なる演算パターンが一つのGPUを共有する非効率は解消されない。
PrefillとDecodeの干渉問題:
同一GPUでのタイムシェアリング処理:
========================
Time → [Prefill Req A] [Decode Batch 1-5] [Prefill Req B] [Decode Batch 1-8]
↑ ↑
Decodeレイテンシ不規則 新しいPrefillが既存Decodeを妨害
(PrefillがGPUを占有) (TPOTスパイク発生)
長いプロンプトのPrefillが実行されると、すでにDecode中のリクエストのTPOT(Time Per Output Token)が急増する干渉現象が発生する。これはユーザー体験を深刻に低下させる。
5.2 SGLangのPD Disaggregationアーキテクチャ
SGLangはPrefillとDecodeを物理的に分離されたGPUグループに配置するDisaggregationアーキテクチャをサポートする。
PD Disaggregation Architecture:
================================
+-----------------------------------------------------+
| Router / Gateway |
| (リクエスト受信とPrefillサーバーへの分配) |
+------------------+----------------------------------+
|
+-----------+-----------+
v v
+--------------+ +--------------+
| Prefill GPU | | Prefill GPU |
| Group #1 | | Group #2 |
| (H100 x4) | | (H100 x4) |
| | | |
| Compute- | | Compute- |
| Optimized | | Optimized |
+------+-------+ +------+-------+
| NIXL/RDMA | NIXL/RDMA
| KV Cache Transfer | KV Cache Transfer
v v
+--------------+ +--------------+
| Decode GPU | | Decode GPU |
| Group #1 | | Group #2 |
| (H100 x4) | | (H100 x4) |
| | | |
| Bandwidth- | | Bandwidth- |
| Optimized | | Optimized |
+--------------+ +--------------+
5.3 NIXL:高速KVキャッシュ転送
PrefillとDecodeを分離すると、Prefillで生成されたKVキャッシュをDecode GPUに転送する必要がある新しい課題が生じる。SGLangはNVIDIAの**NIXL(NVIDIA Inference Transfer Library)**を転送バックエンドとして活用する。
NIXLはNVLink、InfiniBand、PCIe、SSDなど多様なファブリック(fabric)を単一の抽象化レイヤーに統合する低レイテンシのポイントツーポイント転送ライブラリである。
NIXL KV Cache Transfer Flow:
============================
1. Bootstrap: Decode → Prefillにbootstrap_room IDを伝達
2. Memory Alloc: DecodeがGPUメモリページを事前割り当て
3. Prefill Exec: Prefill Workerがプロンプト処理 → KV Cache生成
4. RDMA Write: PrefillがRDMAを通じてDecode GPUメモリに直接書き込み
(CPU回避、Zero-Copy)
5. Completion: Decodeが転送完了をポーリング → 即座にDecode開始
NVLink転送帯域幅: ~900 GB/s (GB200 NVL72)
InfiniBand転送帯域幅: ~400 Gb/s (HDR)
RDMA(Remote Direct Memory Access)によりCPUを回避してGPUメモリ間の直接転送が行われ、転送レイテンシが最小化される。
5.4 Blackwell GB200/B200最適化
SGLangのPD DisaggregationはNVIDIA Blackwellアーキテクチャで特に強力な性能を発揮する。
| ハードウェア | Prefill性能 | Decode性能 | 備考 |
|---|---|---|---|
| H100 SXM | Baseline | Baseline | FP8 |
| B200 SXM | ~2.5x | ~2.0x | NVFP4サポート |
| GB200 NVL72 | ~3.8x | ~4.8x | NVLink 900GB/s |
GB200 NVL72でSGLangはDeepSeek V3/R1モデルをFP8 Attention + NVFP4 MoE構成でサービングし、GPUあたり26,156 input tokens/sと13,386 output tokens/sを達成した。これはH100比プリフィル3.8倍、デコード4.8倍の向上である。
5.5 独立スケーリングの価値
PD Disaggregationの最も重要な実用的利点は独立スケーリングである。
トラフィックパターンに応じたスケーリング:
[シナリオ1:長いプロンプト、短い応答(文書要約)]
→ Prefill GPU: 8台 / Decode GPU: 2台
[シナリオ2:短いプロンプト、長い応答(コード生成)]
→ Prefill GPU: 2台 / Decode GPU: 8台
[シナリオ3:均等負荷(一般チャットボット)]
→ Prefill GPU: 4台 / Decode GPU: 4台
ワークロード特性に応じてPrefillとDecodeリソースを独立に調整できるため、GPU活用率を最大化しながらコストを最適化できる。これはクラウド環境でのオートスケーリングとの自然な統合を可能にする。
6. [理由5] 構造化生成:Compressed FSMの革新
6.1 構造化出力の必要性
プロダクションLLMアプリケーションでは、モデルの出力が特定のフォーマット(JSON、XML、SQLなど)に準拠することを強制することが必須である。エージェントシステムのツール呼び出しパラメータは有効なJSONでなければならず、データ抽出パイプラインの出力は事前定義されたスキーマに従う必要がある。
既存の構造化生成方式はトークン単位マスキングで実装される。各トークン生成時に現在のFSM(Finite State Machine)状態で許可されるトークンのみ残し、残りのロジットを-infinityに設定する。この方式は正確だが、各トークンごとにFSM状態遷移を計算する必要があるため、かなりのオーバーヘッドが発生する。
6.2 Compressed FSMの原理
SGLangのCompressed FSMはJSONスキーマ(または正規表現)をFSMに変換した後、隣接する単一遷移エッジ(Singular Transition Edge)を圧縮する最適化を適用する。
JSONスキーマ例:
{
"name": string,
"age": integer,
"city": string
}
通常FSM(トークン別遷移):
========================
S0 →'{' → S1 →'"' → S2 →'n' → S3 →'a' → S4 →'m' → S5 →'e' → S6 →'"' → S7 →':' → S8
各遷移にGPU forward passが必要 → 8回のforward pass
Compressed FSM(ジャンプフォワード):
=============================
S0 → '{"name":' → S8 (Singular transitions圧縮!)
検出:S0からS8まで各状態で可能な遷移がちょうど1つだけ
→ 1回のforward passで8トークン生成!
6.3 Jump-Forwardメカニズム
Compressed FSMの核心はJump-Forward Decodingである。FSMを分析し、現在の状態から次の状態まで**唯一の経路(singular transition path)**が存在する区間を事前に識別する。
Jump-Forward Decodingプロセス:
===========================
1. FSM事前分析:
- 各状態で可能な遷移数を計算
- Singular path区間を識別・圧縮
2. デコーディング実行:
State S0: 可能な遷移 = {'{'} (singular!)
→ Jump: '{"name":"' を直接挿入(forward pass不要)
State S8: 可能な遷移 = {any string token} (multiple)
→ Normal decode: GPU forward passを実行 → "Alice"
State S9: 可能な遷移 = {'","age":'} (singular!)
→ Jump: '","age":' を直接挿入
State S10: 可能な遷移 = {0-9 tokens} (multiple)
→ Normal decode: GPU forward passを実行 → "30"
State S11: 可能な遷移 = {'","city":"'} (singular!)
→ Jump: '","city":"' を直接挿入
...続く
RadixAttentionとのシナジーも強力である。Jump-Forward実行時に現在のリクエストを終了し新しいリクエストをキューに入れても、RadixAttentionが前のトークンのKVキャッシュを自動的に再利用するため、重複演算は発生しない。
6.4 性能向上
Compressed FSMによる構造化生成の性能向上は出力フォーマットによって異なるが、JSONデコーディングで特に劇的である。
| 生成フォーマット | 通常Constrained Decoding | SGLang Compressed FSM | 速度向上 |
|---|---|---|---|
| Simple JSON | 1.0x | 1.6x | 1.6倍 |
| Nested JSON | 1.0x | 2.1x | 2.1倍 |
| Complex Schema | 1.0x | 3.0x | 3.0倍 |
| Regex Pattern | 1.0x | 1.4x | 1.4倍 |
複雑なJSONスキーマほど固定キー名、区切り文字、括弧などの予測可能なトークンが増えて圧縮効果が最大化される。Zheng et al.の論文によると、JSONデコーディングベンチマークで最大3倍のスループット向上を達成した。
6.5 構造化生成API使用例
SGLangで構造化出力を活用する方法はOpenAI互換APIを通じて簡単に使用できる。
import openai
client = openai.Client(base_url="http://127.0.0.1:30000/v1", api_key="EMPTY")
# JSON Schemaによる構造化出力
response = client.chat.completions.create(
model="meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct",
messages=[
{"role": "user", "content": "Generate a user profile for Alice who is 30 years old."}
],
response_format={
"type": "json_schema",
"json_schema": {
"name": "user_profile",
"schema": {
"type": "object",
"properties": {
"name": {"type": "string"},
"age": {"type": "integer"},
"city": {"type": "string"},
"hobbies": {
"type": "array",
"items": {"type": "string"}
}
},
"required": ["name", "age", "city", "hobbies"]
}
}
},
max_tokens=256
)
print(response.choices[0].message.content)
# 出力: {"name": "Alice", "age": 30, "city": "San Francisco", "hobbies": ["reading", "hiking", "coding"]}
正規表現による制約もサポートされる。
# Regexベース構造化生成
response = client.chat.completions.create(
model="meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct",
messages=[
{"role": "user", "content": "Generate a valid email address for John."}
],
extra_body={"regex": r"[a-zA-Z0-9._%+-]+@[a-zA-Z0-9.-]+\.[a-zA-Z]{2,}"},
max_tokens=64
)
7. LLM推論フレームワーク総合比較
7.1 SGLang vs vLLM vs TGI vs TensorRT-LLM
主要LLM推論フレームワークを総合的に比較すると以下のとおりである。
| 特性 | SGLang | vLLM | TGI v3 | TensorRT-LLM |
|---|---|---|---|---|
| 開発主体 | UC Berkeley / LMSYS | UC Berkeley | Hugging Face | NVIDIA |
| 言語 | Python | Python + C++ | Rust + Python | C++ + Python |
| KVキャッシュ管理 | RadixAttention (Radix Tree) | PagedAttention (Block Table) | PagedAttention | PagedAttention |
| リクエスト間キャッシュ共有 | 自動(Radix Tree) | Automatic Prefix Caching | 限定的 | 限定的 |
| スケジューラオーバーヘッド | Zero-Overhead | 中間 | 低い | 低い |
| 構造化出力 | Compressed FSM (3倍) | Outlines統合 | サポート | 限定的 |
| PD Disaggregation | NIXLベースネイティブ | 実験的 | 未サポート | サポート |
| ハードウェアサポート | NVIDIA, AMD, Intel, TPU | NVIDIA, AMD, TPU, CPU | NVIDIA, AMD | NVIDIA Only |
| 量子化 | FP4/FP8/INT4/AWQ/GPTQ | FP8/INT4/AWQ/GPTQ | GPTQ/AWQ | FP8/INT4/INT8 |
| MoE Expert Parallelism | サポート | サポート | 未サポート | サポート |
| Multi-LoRA Batching | サポート | サポート | サポート | 限定的 |
| Speculative Decoding | サポート | サポート | サポート | サポート |
| DSL/フロントエンド言語 | SGLang Frontend | 未サポート | 未サポート | 未サポート |
| OpenAI互換API | 完全サポート | 完全サポート | サポート | 部分サポート |
| コードベース規模 | ~50K lines | ~200K+ lines | ~100K+ lines | ~300K+ lines |
| ラーニングカーブ | 低い | 低い | 中間 | 高い |
| 最適使用シナリオ | エージェント、RAG、Few-shot | 汎用サービング | HFエコシステム | 超低遅延要求 |
7.2 選択ガイド
- エージェント/RAG/ツール呼び出し集約的ワークロード:SGLang -- RadixAttentionの自動キャッシュ再利用が圧倒的利点
- 汎用LLMサービング(多様なハードウェア):vLLM -- 最も広いハードウェア/モデルサポート
- Hugging Faceエコシステム統合:TGI -- Inference Endpointsとのネイティブ統合
- 単一リクエスト超低遅延(NVIDIA専用):TensorRT-LLM -- カーネルレベル最適化
8. SGLangインストールとクイックスタート
8.1 pipによるインストール
最も簡単なインストール方法である。
# Python 3.9+必要、CUDA 12.x推奨
pip install --upgrade pip
pip install "sglang[all]"
# またはuvを使用した高速インストール
pip install uv
uv pip install "sglang[all]"
ソースからのインストールで最新機能を使用できる。
git clone https://github.com/sgl-project/sglang.git
cd sglang
pip install -e "python[all]"
8.2 Dockerによるデプロイ
プロダクション環境ではDockerイメージを推奨する。
# 公式Dockerイメージ使用
docker run --gpus all \
--shm-size 32g \
-p 30000:30000 \
-v ~/.cache/huggingface:/root/.cache/huggingface \
--env "HF_TOKEN=${HF_TOKEN}" \
--ipc=host \
lmsysorg/sglang:latest \
python3 -m sglang.launch_server \
--model-path meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct \
--host 0.0.0.0 \
--port 30000
Docker Composeも使用できる。
# docker-compose.yml
version: '3.8'
services:
sglang:
image: lmsysorg/sglang:latest
ports:
- '30000:30000'
volumes:
- ~/.cache/huggingface:/root/.cache/huggingface
environment:
- HF_TOKEN=${HF_TOKEN}
deploy:
resources:
reservations:
devices:
- driver: nvidia
count: all
capabilities: [gpu]
ipc: host
shm_size: '32g'
command: >
python3 -m sglang.launch_server
--model-path meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct
--host 0.0.0.0
--port 30000
docker compose up -d
8.3 サーバー起動
SGLangサーバーを直接起動する基本コマンドは以下のとおりである。
# 基本サーバー起動(単一GPU)
python -m sglang.launch_server \
--model-path meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct \
--host 0.0.0.0 \
--port 30000
# またはsglang serveコマンド使用
sglang serve meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct \
--host 0.0.0.0 \
--port 30000
サーバーが正常に起動すると、http://localhost:30000/docsでSwagger UIベースのAPIドキュメントを確認できる。
8.4 サーバー状態確認
# サーバーヘルスチェック
curl http://localhost:30000/health
# モデル情報確認
curl http://localhost:30000/v1/models
# サーバーメトリクス確認
curl http://localhost:30000/get_server_info
9. API使用法とコード例
9.1 OpenAI互換Chat Completions API
SGLangはOpenAI APIと完全互換のエンドポイントを提供するため、既存のOpenAI SDKをそのまま使用できる。
cURL使用:
curl http://127.0.0.1:30000/v1/chat/completions \
-H "Content-Type: application/json" \
-H "Authorization: Bearer EMPTY" \
-d '{
"model": "meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct",
"messages": [
{"role": "system", "content": "You are a helpful AI assistant."},
{"role": "user", "content": "KubernetesのPodとDeploymentの違いを説明してください。"}
],
"max_tokens": 512,
"temperature": 0.7,
"top_p": 0.9
}'
Python OpenAI SDK使用:
from openai import OpenAI
client = OpenAI(
base_url="http://localhost:30000/v1",
api_key="EMPTY" # SGLangはデフォルトで認証不要
)
# 通常のChat Completion
response = client.chat.completions.create(
model="meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct",
messages=[
{"role": "system", "content": "あなたはクラウドネイティブの専門家です。"},
{"role": "user", "content": "Helm chartとKustomizeの長所と短所を比較してください。"}
],
max_tokens=1024,
temperature=0.7
)
print(response.choices[0].message.content)
ストリーミング応答:
# ストリーミング応答
stream = client.chat.completions.create(
model="meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct",
messages=[
{"role": "user", "content": "Pythonで簡単なWebサーバーを作成してください。"}
],
max_tokens=1024,
stream=True
)
for chunk in stream:
if chunk.choices[0].delta.content:
print(chunk.choices[0].delta.content, end="", flush=True)
9.2 Text Completions API
Chat形式でない一般テキスト補完もサポートされる。
curl http://127.0.0.1:30000/v1/completions \
-H "Content-Type: application/json" \
-d '{
"model": "meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct",
"prompt": "The capital of France is",
"max_tokens": 32,
"temperature": 0
}'
9.3 バッチリクエスト処理
大量リクエストを効率的に処理するバッチAPIも使用可能である。
import requests
import json
# ネイティブSGLangバッチエンドポイント
batch_requests = [
{
"text": "Translate to Korean: Hello, how are you?",
"sampling_params": {"max_new_tokens": 64, "temperature": 0.3}
},
{
"text": "Translate to Korean: The weather is nice today.",
"sampling_params": {"max_new_tokens": 64, "temperature": 0.3}
},
{
"text": "Translate to Korean: I love programming.",
"sampling_params": {"max_new_tokens": 64, "temperature": 0.3}
}
]
# 非同期リクエストでスループット最大化
import asyncio
import aiohttp
async def send_requests(requests_data):
async with aiohttp.ClientSession() as session:
tasks = []
for req in requests_data:
task = session.post(
"http://localhost:30000/generate",
json=req
)
tasks.append(task)
responses = await asyncio.gather(*tasks)
results = [await r.json() for r in responses]
return results
results = asyncio.run(send_requests(batch_requests))
for r in results:
print(r["text"])
9.4 SGLangフロントエンド(DSL)使用
SGLang固有のフロントエンド言語を使用すると、複雑なLLMプログラムをPythonicに記述できる。
import sglang as sgl
# SGLangフロントエンド関数定義
@sgl.function
def multi_turn_qa(s, question1, question2):
s += sgl.system("You are a helpful AI assistant specialized in cloud computing.")
s += sgl.user(question1)
s += sgl.assistant(sgl.gen("answer1", max_tokens=256))
s += sgl.user(question2)
s += sgl.assistant(sgl.gen("answer2", max_tokens=256))
# ランタイムエンドポイント設定
sgl.set_default_backend(sgl.RuntimeEndpoint("http://localhost:30000"))
# 実行
state = multi_turn_qa.run(
question1="KubernetesでHPAはどのように動作しますか?",
question2="VPAとの違いは何ですか?"
)
print("Answer 1:", state["answer1"])
print("Answer 2:", state["answer2"])
並列生成(Fork-Join):
@sgl.function
def parallel_analysis(s, topic):
s += sgl.system("You are a technology analyst.")
s += sgl.user(f"Analyze '{topic}' from three perspectives.")
# Fork: 3つの分析を並列生成
forks = s.fork(3)
forks[0] += sgl.user("Technical perspective:")
forks[0] += sgl.assistant(sgl.gen("technical", max_tokens=200))
forks[1] += sgl.user("Business perspective:")
forks[1] += sgl.assistant(sgl.gen("business", max_tokens=200))
forks[2] += sgl.user("User experience perspective:")
forks[2] += sgl.assistant(sgl.gen("ux", max_tokens=200))
# Join: すべての結果を収集
forks.join()
# 総合
s += sgl.user("Summarize the three analyses above:")
s += sgl.assistant(sgl.gen("summary", max_tokens=300))
state = parallel_analysis.run(topic="SGLang inference engine")
print("Technical:", state["technical"])
print("Business:", state["business"])
print("UX:", state["ux"])
print("Summary:", state["summary"])
Select(選択)ベース分類:
@sgl.function
def classify_sentiment(s, text):
s += sgl.user(f"Classify the sentiment of the following text: '{text}'")
s += sgl.assistant(
"The sentiment is " + sgl.select("label", ["positive", "negative", "neutral"])
)
state = classify_sentiment.run(text="SGLang is amazingly fast!")
print("Sentiment:", state["label"]) # "positive"
10. 主要設定パラメータガイド
10.1 サーバー起動パラメータ
SGLangサーバーの主要設定パラメータを整理する。
python -m sglang.launch_server \
--model-path <model_name_or_path> # HuggingFaceモデル名またはローカルパス
--host 0.0.0.0 # バインディングホスト
--port 30000 # サービスポート
--tp-size 4 # Tensor Parallelismサイズ
--dp-size 2 # Data Parallelismサイズ
--pp-size 2 # Pipeline Parallelismサイズ
--mem-fraction-static 0.88 # GPUメモリ中KV Cache割合(デフォルト: 0.88)
--max-running-requests 128 # 同時処理最大リクエスト数
--max-total-tokens 131072 # 最大総トークン数
--context-length 32768 # コンテキスト長
--chunked-prefill-size 8192 # Chunked Prefillチャンクサイズ
--schedule-policy lpm # スケジューリングポリシー(lpm / fcfs / random)
--quantization fp8 # 量子化方法(fp8 / int4 / awq / gptq)
--dtype auto # データ型(auto / float16 / bfloat16)
--trust-remote-code # リモートコード信頼許可
--chat-template auto # チャットテンプレート(autoまたはカスタムパス)
--log-level info # ログレベル
--enable-metrics # Prometheusメトリクス有効化
--api-key "your-secret-key" # APIキー認証有効化
10.2 コアパラメータ詳細説明
メモリ管理:
# GPUメモリの88%をKV Cacheに割り当て(デフォルト値)
--mem-fraction-static 0.88
# 大規模モデルでメモリ不足時に削減
--mem-fraction-static 0.80
# KV Cache最大トークン数を明示的に設定
--max-total-tokens 65536
スケジューリングポリシー:
# LPM(Longest Prefix Match):RadixAttentionキャッシュヒット率最大化(デフォルト)
--schedule-policy lpm
# FCFS(First Come First Served):単純先入先出
--schedule-policy fcfs
# Random:ランダム選択
--schedule-policy random
量子化設定:
# FP8量子化(Hopper+ GPU必要)
--quantization fp8
# NVFP4量子化(Blackwell GPU必要)
--quantization fp4
# INT4 AWQ量子化
--quantization awq
# INT4 GPTQ量子化
--quantization gptq
10.3 環境変数
# CUDAデバイス選択
export CUDA_VISIBLE_DEVICES=0,1,2,3
# HuggingFaceトークン(ゲートモデルアクセス)
export HF_TOKEN="hf_your_token_here"
# NCCL設定(マルチGPU)
export NCCL_P2P_DISABLE=0
export NCCL_IB_DISABLE=0
# SGLangログレベル
export SGLANG_LOG_LEVEL=info
# FlashInferワークスペースサイズ
export SGLANG_FLASHINFER_WORKSPACE_SIZE=2147483648 # 2GB
11. デプロイメントガイド
11.1 単一GPUデプロイ
最も基本的なデプロイ形態である。
# Llama-3.1-8Bを単一GPUにデプロイ
python -m sglang.launch_server \
--model-path meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct \
--host 0.0.0.0 \
--port 30000 \
--mem-fraction-static 0.88
# 量子化を適用してより大きなモデルを単一GPUにデプロイ
python -m sglang.launch_server \
--model-path meta-llama/Llama-3.1-70B-Instruct \
--quantization awq \
--host 0.0.0.0 \
--port 30000
11.2 マルチGPUデプロイ(Tensor Parallelism)
モデルが単一GPUメモリに収まらない場合に使用する。
# 4-GPU Tensor Parallelism(70Bモデル)
python -m sglang.launch_server \
--model-path meta-llama/Llama-3.1-70B-Instruct \
--tp-size 4 \
--host 0.0.0.0 \
--port 30000
# 2-GPU TP + 2-GPU DP = 4 GPU(8Bモデル、スループット最大化)
python -m sglang.launch_server \
--model-path meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct \
--tp-size 2 \
--dp-size 2 \
--host 0.0.0.0 \
--port 30000
11.3 マルチノードデプロイ
大規模モデルを複数のサーバーにまたがってデプロイする場合に使用する。
# Node 0 (Master)
python -m sglang.launch_server \
--model-path meta-llama/Llama-3.1-405B-Instruct \
--tp-size 16 \
--nnodes 2 \
--node-rank 0 \
--dist-init-addr node0-ip:5000 \
--host 0.0.0.0 \
--port 30000
# Node 1 (Worker)
python -m sglang.launch_server \
--model-path meta-llama/Llama-3.1-405B-Instruct \
--tp-size 16 \
--nnodes 2 \
--node-rank 1 \
--dist-init-addr node0-ip:5000
11.4 PD Disaggregationデプロイ
PrefillとDecodeを分離してデプロイする方法である。
# Prefillサーバー起動
python -m sglang.launch_server \
--model-path meta-llama/Llama-3.1-70B-Instruct \
--tp-size 4 \
--disaggregation-mode prefill \
--disaggregation-transfer-backend nixl \
--host 0.0.0.0 \
--port 30001
# Decodeサーバー起動
python -m sglang.launch_server \
--model-path meta-llama/Llama-3.1-70B-Instruct \
--tp-size 4 \
--disaggregation-mode decode \
--disaggregation-transfer-backend nixl \
--host 0.0.0.0 \
--port 30002
11.5 Kubernetesデプロイ(SkyPilot)
クラウド環境でのKubernetesによるデプロイもサポートされる。
# sglang-skypilot.yaml
resources:
cloud: aws # またはgcp, azure
accelerators: A100:4
memory: 128+
envs:
HF_TOKEN: <your-hf-token>
MODEL_NAME: meta-llama/Llama-3.1-70B-Instruct
setup: |
pip install "sglang[all]"
run: |
python -m sglang.launch_server \
--model-path ${MODEL_NAME} \
--tp-size 4 \
--host 0.0.0.0 \
--port 30000
# SkyPilotでクラスター作成とデプロイ
pip install skypilot-nightly
sky launch -c sglang-cluster --env HF_TOKEN sglang-skypilot.yaml
11.6 Multi-LoRAデプロイ
複数のLoRAアダプターを同時にサービングする構成である。
# ベースモデル + 複数LoRAアダプター同時サービング
python -m sglang.launch_server \
--model-path meta-llama/Llama-3.1-8B-Instruct \
--lora-paths \
korean-chat=/path/to/korean-lora \
code-gen=/path/to/code-lora \
medical=/path/to/medical-lora \
--max-loras-per-batch 4 \
--host 0.0.0.0 \
--port 30000
リクエスト時にLoRAアダプターを指定できる。
curl http://127.0.0.1:30000/v1/chat/completions \
-H "Content-Type: application/json" \
-d '{
"model": "korean-chat",
"messages": [{"role": "user", "content": "こんにちは!"}],
"max_tokens": 128
}'
12. SGLang 2026ロードマップとエコシステム
12.1 2026 Q1ロードマップハイライト
SGLangプロジェクトは2026年も急速に進化している。2026 Q1ロードマップの主要項目は以下のとおりである。
| 領域 | 進捗状況 |
|---|---|
| Blackwell最適化 | GB300/B300サポート、NVFP4 MoEカーネル統合 |
| TPUサポート | SGLang-JAXバックエンドによるネイティブTPU実行 |
| Diffusionモデル | SGLang Diffusionで画像/動画生成加速 |
| Pipeline Parallelism | Million-TokenコンテキストサポートのためのチャンクドPP |
| Day-0モデルサポート | MiMo-V2-Flash、Nemotron 3 Nano、Mistral Large 3 |
| NVIDIA Dynamo統合 | NVIDIA DynamoとのネイティブDisaggregated Serving |
12.2 ハードウェアサポート拡大
SGLangはNVIDIA GPUだけでなく多様なハードウェアにサポートを拡大している。
| ハードウェア | サポート状況 | 主要機能 |
|---|---|---|
| NVIDIA H100/H200 | 完全サポート | FP8、FlashInfer |
| NVIDIA B200/GB200 | 完全サポート | NVFP4、TMA、NVLink 900GB/s |
| NVIDIA GB300/B300 | 対応進行中 | 次世代Blackwell |
| NVIDIA RTX PRO 6000 | サポート | Blackwell Server Edition |
| NVIDIA Jetson Thor | 対応進行中 | エッジ推論 |
| AMD MI300X | サポート | ROCm、FP8 |
| Intel Xeon AMX | 実験的サポート | CPU推論 |
| Google TPU | サポート | SGLang-JAXバックエンド |
12.3 「推論経済学」の変化
SGLangが代表する次世代推論エンジンの意義は単なる速度向上を超える。**「推論経済学(Inference Economics)」**の根本的な変化を促進する。
コスト効率公式:
推論コスト = GPU時間あたりコスト / スループット (tok/s)
H100基準:
vLLM: $3.50/hr / 12,553 tok/s = $0.000279 / 1K tokens
SGLang: $3.50/hr / 16,215 tok/s = $0.000216 / 1K tokens
→ SGLangは同じGPUで22.6%コスト削減
→ エージェントシナリオ(キャッシュヒット率含む):最大60-80%コスト削減
大規模LLMサービスを運営する組織では、この差は月に数万〜数十万ドルのコスト削減につながる。ハードウェアの物理的限界をソフトウェアの知能で突破するのがSGLangの本質である。
13. 結論:ハードウェアの限界をソフトウェアの知能で突破する
SGLangがLLM推論の勢力図を変える5つの理由をまとめると以下のとおりである。
| # | 革新 | コアメカニズム | 成果 |
|---|---|---|---|
| 1 | RadixAttention | Radix Treeベースのキャッシュ共有 | エージェントワークフロー最大5倍向上 |
| 2 | ハイパースペシャライズド設計 | 抽象化最小化、TMA直接統合 | vLLM比29%スループット優位 |
| 3 | Zero-Overheadスケジューラ | CPU-GPU非同期パイプライニング | 4,000行PythonでC++レベル性能 |
| 4 | PD Disaggregation | NIXLベースPrefill-Decode分離 | 独立スケーリング、GB200で3.8-4.8倍 |
| 5 | Compressed FSM | Singular transitions圧縮、Jump-Forward | JSONデコーディング最大3倍速度向上 |
この5つの革新は個別でも強力だが、統合アーキテクチャ内でシナジーを発揮することがSGLangの真の強みである。RadixAttentionのキャッシュ再利用がCompressed FSMのJump-Forwardを可能にし、Zero-OverheadスケジューラがRadixAttentionのツリー探索オーバーヘッドをGPU演算の裏に隠し、PD Disaggregationがこれらすべての最適化を大規模分散環境に拡張する。
LLM推論コストがAIサービスの持続可能性を決定する時代に、SGLangは**「同じGPUでより多くの価値を創出する」という命題を現実にしている。NVIDIA BlackwellのNVFP4、AMD MI300X、Intel Xeon AMXまでサポートしハードウェア中立的な最適化を追求するSGLangの歩みは、推論エンジンが単純なモデル実行器を超えてAIインフラの中核オペレーティングシステム**へと進化していることを示している。
vLLMがPagedAttentionでLLMサービングの大衆化を牽引したとすれば、SGLangはRadixAttentionと全体システムのco-designで**LLMサービングの次の章(chapter)**を開いている。
14. References
Zheng, L., Yin, L., Xie, Z., et al. "SGLang: Efficient Execution of Structured Language Model Programs." NeurIPS 2024. arXiv:2312.07104
SGLang GitHub Repository. https://github.com/sgl-project/sglang
SGLang Official Documentation. https://docs.sglang.ai/
LMSYS Blog - "Fast and Expressive LLM Inference with RadixAttention and SGLang." https://lmsys.org/blog/2024-01-17-sglang/
LMSYS Blog - "SGLang v0.4: Zero-Overhead Batch Scheduler, Cache-Aware Load Balancer, Faster Structured Outputs." https://lmsys.org/blog/2024-12-04-sglang-v0-4/
LMSYS Blog - "Fast JSON Decoding for Local LLMs with Compressed Finite State Machine." https://lmsys.org/blog/2024-02-05-compressed-fsm/
LMSYS Blog - "Deploying DeepSeek on GB200 NVL72 with PD and Large Scale EP." https://lmsys.org/blog/2025-09-25-gb200-part-2/
LMSYS Blog - "Pipeline Parallelism in SGLang: Scaling to Million-Token Contexts and Beyond." https://lmsys.org/blog/2026-01-15-chunked-pipeline/
SGLang PD Disaggregation Documentation. https://docs.sglang.ai/advanced_features/pd_disaggregation.html
SGLang NVIDIA Collaboration Roadmap 2026 Q1. https://github.com/sgl-project/sglang/issues/17130
SGLang Development Roadmap 2026 Q1. https://github.com/sgl-project/sglang/issues/12780
Kwon, W., et al. "Efficient Memory Management for Large Language Model Serving with PagedAttention." SOSP 2023. (vLLM論文)
NVIDIA NIXL Documentation - "Low Latency Point-to-Point Inference Transfer Library."
Clarifai Blog - "Comparing SGLang, vLLM, and TensorRT-LLM with GPT-OSS-120B." https://www.clarifai.com/blog/comparing-sglang-vllm-and-tensorrt-llm-with-gpt-oss-120b
RunPod Blog - "When to Choose SGLang Over vLLM: Multi-Turn Conversations and KV Cache Reuse." https://www.runpod.io/blog/sglang-vs-vllm-kv-cache