Skip to content
Published on

ニッチなモダンプログラミング言語2026完全ガイド - Crystal・Pony・Mojo・Carbon・Hare・Roc・Vale・Virgil 徹底解剖

Authors

プロローグ — 2026年、「ニッチ言語」がふたたび面白くなった

2010年代後半の言語風景は単調だった。Python・JavaScript・Java・Go・Rust・C++・TypeScript——事実上この7つで産業の90%を占め、それ以外は「趣味」に分類されていた。

2026年の風景はもっと厚みがある。

  • Mojo 25.x が一部オープンソース化され、MLインフラの「本気の候補」として入ってきた。Modular MAX推論エンジンが実戦ワークロードで検証されている。
  • Carbon Language がGoogle内部でC++マイグレーションの候補として実験されている。Successor language という明快な座標。
  • Roc 0.x がRichard Feldman主導で、関数型と高速コンパイル、Elm 風のエラーメッセージを持ち込んだ。
  • Crystal 1.14+ はManas Tecnologíaと一部スタートアップで本番運用されている。Ruby 構文に静的型。
  • Pony 0.59+ のactor モデルとcapabilities は安全な並行性の生きたリファレンスだ。
  • Hare 0.25+ はDrew DeVaultが作るミニマルなシステム言語。Cと同じ領域、違う美意識。
  • Vale・Hylo・Austral のようなメモリモデル実験言語が「Rust の向こう側」を探している。
  • Odin・Jai・Beef のようなゲーム言語はインディーシーンで実際にゲームを出荷している。
  • Gleam 1.x はBEAM(Erlang VM) の上に型安全な関数型を載せ、本番採用を増やしている。

「なぜわざわざニッチ言語を使うのか」はもはや愚問ではない。ドメイン適合性、学習価値、性能特性、コミュニティ——理屈の通る根拠が増えた。本稿はその地形全体を一気に整理する。

一行要約: 「この言語は何を上手くこなすか、誰がすでに使っているか、1年後も生き残っているか。」 この3つの問いがニッチ言語選択の90%を決める。


第1章 · なぜニッチ言語を見るのか — 学習・ドメイン・好奇心の三角形

ニッチ言語を本気で見る理由はだいたい3つに収まる。

  1. 学習 — 別のパラダイムに触れるとメイン言語の腕が上がる。Haskell を一学期やった人は Python でも良いコードを書く。Pony を触ったことがある人は Go のチャネルをより批判的に見る。
  2. ドメイン適合性 — Mojo は ML インフラ、Crystal は高速 Web サービス、Carbon は C++ マイグレーション、Odin はゲーム。ドメインさえ合えば、ニッチ言語はメインストリームより生産的だ。
  3. 好奇心・性能特性 — GC なし、低レイテンシ、capabilities、value semantics のような特定の性質が必要なシステム。

逆に避けるべき理由もはっきりしている。

  • 「クールに見えるから」— 半年後にメンテナが見つからない。
  • 「速そうだから」— 同じアルゴリズムなら、メインの言語との差は大したことがない場合がほとんど。
  • 「最新トレンドだから」— トレンドは進行中であって到着点ではない。

ニッチ言語の真の価値は「メイン言語では見えなかった視野」を与えてくれることだ。その視野はコードを書くたびに積み重なる。


第2章 · Crystal — Ruby の美意識に静的型とネイティブコンパイル

Crystal 1.14+ (2014年〜、Manas Tecnología) の設計命題はシンプルだ。「Ruby のように見えて、C のように走る。」Ruby 構文に慣れていれば、初めて見る Crystal コードもすぐ読める。

# Crystal: 静的型 + 型推論
def fib(n : Int32) : Int64
  return n.to_i64 if n < 2
  fib(n - 1) + fib(n - 2)
end

puts fib(30)

主な特徴:

  • 静的型 + 強力な型推論 — 明示せずともコンパイル時に決まる。
  • LLVM バックエンド — ネイティブバイナリ。Ruby 比で 10~100 倍のベンチマーク差はよくある。
  • Fiber ベースの並行性 — Go の goroutine に似たモデル。
  • マクロシステム — コンパイル時メタプログラミング。
  • Shards — gem のようなパッケージマネージャ。

本番運用:

  • Manas Tecnología — 創始者の会社。自社サービスで運用。
  • Heroku 系の一部スタートアップ — Ruby から Crystal への部分的な移行。
  • KemalLucky といった Web フレームワークが本番運用されている。

2026 年の Crystal は「Ruby の代替」ではなく「Ruby の視野を保ったまま性能が欲しい時」の選択肢だ。Rails 全体を Crystal に置き換えるシナリオは珍しく、ホットスポットなサービスだけ切り出して移植するパターンが一般的。


第3章 · Pony — Actor モデルと capabilities が作る安全な並行性

Pony 0.59+ のデザインは、他の言語が本格的に取り入れていない領域にある。reference capabilities というシステムで、データ競合がコンパイル時に不可能になる。

// Pony: actor モデル
actor Counter
  var _count: U64 = 0

  be increment() =>
    _count = _count + 1

  be report(env: Env) =>
    env.out.print("count: " + _count.string())

主な特徴:

  • Actor モデル — Erlang/Elixir に近いが静的型。
  • Reference capabilitiesisovalrefboxtagtrn の 6 つの capability がオブジェクト共有のあり方をコンパイル時に保証する。
  • No data races — capability システムが保証。
  • No deadlocks — actor 間にロックがない。
  • Per-actor GC — actor 単位で分離されたガーベジコレクション。

本番運用:

  • Wallaroo Labs — ストリーミングデータ処理。買収と整理の後、Pony 最大の production user が消えた。
  • 現在は学術・小規模システム中心。

Pony は production 採用としては小さいが、「並行性の安全性を型システムでどう表現するか」の生きたリファレンスだ。Rust の Send/Sync 以前の世代のアイデアが、より精緻な形で Pony にある。


第4章 · Mojo — Python superset で SIMD・GPU まで

Mojo 25.x (2023年〜、Modular、Chris Lattner) は最新の注目株だ。スローガンは明快。「Python の構文で、C++ の性能と SIMD/GPU まで。」

# Mojo: Python superset
fn fib(n: Int) -> Int:
    if n < 2:
        return n
    return fib(n - 1) + fib(n - 2)

fn main():
    print(fib(30))

主な特徴:

  • Python superset — 既存の Python コードがほぼそのまま動く。
  • MLIR ベース — コンパイラ基盤が Chris Lattner の LLVM・Swift・MLIR の系譜。
  • SIMD/GPU が一級市民 — ベクトル演算が言語レベル。
  • Ownership — Rust 風のメモリ安全 + 値セマンティクス。
  • Modular MAX — Mojo 自身で実装された推論エンジン。PyTorch/TF 互換。

2025 年のオープンソース化:

  • Modular が一部コンポーネントを MIT ライセンスで公開。標準ライブラリと一部のランタイム。
  • コンパイラ本体には依然として closed source の部分がある。
  • コミュニティの期待と批判が併存。

本番運用:

  • Modular MAX — Modular の推論エンジン。Mojo 自身で実装。
  • ML インフラ系スタートアップで部分採用。

2026 年の Mojo は「Python のように書きたいが PyTorch より速いインフラが必要な時」の候補だ。一般的なバックエンド言語としての Mojo はまだ珍しい。


第5章 · Carbon — C++ 後継候補、Google の実験

Carbon Language (2022年〜、Google、experimental) は明確な座標を持つ。C++ successor language。Rust や Go ではなく、「C++ のコードを徐々に移行できる言語」が目標。

// Carbon: C++ 後継候補
package Sample api;

fn Fib(n: i32) -> i64 {
  if (n < 2) { return n as i64; }
  return Fib(n - 1) + Fib(n - 2);
}

fn Main() -> i32 {
  Print("{0}", Fib(30));
  return 0;
}

主な特徴:

  • C++ interop — C++ コードと双方向で相互運用。1 つのプロジェクトに 2 言語が同居する。
  • Memory safety roadmap — メモリ安全性をオプションで段階導入。
  • Modern syntax — C++ の歴史的な重荷を取り除く。
  • No backwards compat guarantee — C++ のように 35 年間の互換性負担がない。

2026 年の現状:

  • 依然として experimental。本番採用は推奨されていない。
  • Google 内部での toolchain 実験。
  • 標準というより「C++ の方向性についての思考実験」に近い。

Rust が「C++ とは違う言語で一から書き直そう」なら、Carbon は「C++ のコードベースを残したまま、徐々に後継言語へ移行しよう」だ。同じ問題に対する違う答え。


第6章 · Hare — Drew DeVault のミニマルなシステム言語

Hare 0.25+ (2022年〜、Drew DeVault ほか) は明らかに小さな言語だ。C と同じ領域、違う美意識。

// Hare: ミニマルなシステム言語
use fmt;

export fn main() void = {
    fmt::println("Hello, world!")!;
};

主な特徴:

  • No GC — 手動メモリ管理。
  • No generics — 意図的に抜いた機能。シンプルさを優先。
  • Small standard library — 明示的かつ小さい。
  • QBE backend — LLVM ではなく QBE コンパイラバックエンド。ビルドが速く toolchain が小さい。
  • AGPL/MPL ライセンス — 自由ソフトウェアの倫理。

設計思想:

  • 「C が 50 年も生きているのは良いことだ。ただ、その 50 年の間違いは繰り返さない。」
  • Generics がないのはバグではなく機能。シンプルさと可読性を優先。
  • 標準ライブラリが小さいのも機能。依存爆発を防ぐ。

2026 年の Hare は本番運用よりも、「C の精神を別のやり方で受け継ぐ言語」の生きた例だ。Drew DeVault の他のプロジェクト(sourcehut、wlroots) と趣旨を共有する。


第7章 · Roc — Elm の影響を受けた関数型、高速コンパイル

Roc (2020年〜、Richard Feldman) は関数型陣営の野心作だ。スローガンは「fast, friendly, functional」。

# Roc: Elm の影響を受けた関数型
app "fib"
    packages { pf: "platform/main.roc" }
    imports [pf.Stdout]
    provides [main] to pf

fib = \n ->
    if n < 2 then n
    else (fib (n - 1)) + (fib (n - 2))

main = Stdout.line (Num.toStr (fib 30))

主な特徴:

  • Purely functional — Elm のように純粋関数型。
  • Static types + 強い推論 — 明示しなくてもほぼ全てが推論される。
  • Friendly error messages — Elm 風のコンパイラエラー。
  • Platforms — platform (host) が I/O と effects を担い、Roc コードは純粋を保つ。
  • No null、no exceptions — 明示的な Result と Task。
  • Fast compile — コンパイル速度が設計目標。

本番運用:

  • 小規模だが成長中。
  • Web サーバ、CLI ツール。
  • platform モデルにより様々な host に埋め込める。

Roc は「関数型がまっとうな選択肢になる一つの道」のケーススタディだ。Elm の美意識を Web を超えてシステム領域に持ち込んだ実験。


第8章 · Vale — gen+region メモリ、no GC、no borrow checker

Vale はメモリモデル実験の最前線にある言語だ。Generational referencesregion-based memory で、GC なしでも borrow checker の学習曲線を避ける。

// Vale: generational references
exported func main() {
  println("Hello, Vale!");
}

主な特徴:

  • Generational references — ポインタに generation 番号を付け、use-after-free を実行時に防ぐ。
  • Regions — メモリ領域単位で GC・manual・arena を選べる。
  • No borrow checker — Rust の lifetimes のようなコンパイル時制約がない。
  • No GC — デフォルトでガーベジコレクションなし。
  • Linear types オプション — リソース追跡が必要なら明示的に選択。

設計思想:

  • 「Rust 並みに速く、Java 並みに書きやすく。」
  • borrow checker の学習コストを generational references で迂回。
  • region でメモリ戦略をコード単位で選べる。

Vale は本番運用というより「メモリ安全性を別の解法で解いたら」の研究室だ。アイデア自体が他言語へ波及する可能性が高い。


第9章 · Virgil — Google Research の研究言語

Virgil (Ben L. Titzer、Google) は研究言語陣営のベテランだ。組み込みとシステムの間に座標を置く。

// Virgil: 研究言語
def main() {
  System.puts("Hello, Virgil!\n");
}

主な特徴:

  • AOT コンパイル — Ahead-of-time コンパイル。
  • No GC — 静的メモリモデル。
  • Tiny runtime — 組み込みフレンドリー。
  • Compile-time initialization — 初期化をコンパイル時に処理。
  • WebAssembly バックエンド にも対応。

Virgil は「組み込みと WASM の間で小さなランタイムを保ちつつモダンな言語機能を持つ道」の研究事例だ。直接本番で採用することは稀でも、アイデアが他所へ流れていく。


第10章 · Gleam — BEAM の上の型安全な関数型

Gleam 1.x (Louis Pilfold) ははっきりした価値提案を持つ。Erlang VM (BEAM) の上に型安全な関数型を載せた言語。

// Gleam: BEAM 上の型安全な関数型
import gleam/io

pub fn main() {
  io.println("Hello, Gleam!")
}

主な特徴:

  • Strong static typing — すべての型がコンパイル時に決まる。
  • Erlang interop — Erlang/Elixir ライブラリをそのまま呼べる。
  • JS target — JavaScript にもコンパイル。
  • Friendly syntax — Rust と Elm の影響を感じる。
  • Production users が増加中

Gleam は「Erlang/Elixir の actor・OTP の堅牢さ」と「静的型の安全性」の両方を欲しい人の答えだ。2026 年は本番採用が急速に増えている。


第11章 · Grain — 型付き関数型、WebAssembly 優先

Grain は最初から WebAssembly ターゲットを前提に設計された関数型言語だ。

// Grain: WASM 優先の関数型
print("Hello, Grain!")

主な特徴:

  • WebAssembly 優先 — 第一ターゲットが WASM。
  • Strong static types — 関数型に馴染む型システム。
  • GC あり — WASM 環境向けの GC。
  • No null — Option・Result で明示的に扱う。

Grain は「WebAssembly がどこでも走る時代」に合う関数型オプションの一つだ。エコシステムはまだ小さいが、WASM が大きくなれば一緒に育つ可能性がある。


第12章 · Chapel — HPC と並列プログラミング

Chapel (Cray/HPE) は HPC (High Performance Computing) 陣営の言語だ。並列・分散プログラミングを明示的に一級市民として扱う。

// Chapel: HPC の並列
forall i in 1..10 do
  writeln("Hello from iteration ", i);

主な特徴:

  • First-class parallelism — 並列ループとタスクが言語レベル。
  • Locality awareness — locale 概念で分散ノードに配分。
  • Productivity + Performance — 両方を狙う。
  • スーパーコンピュータ環境フレンドリー — Cray クラスのマシンでの大規模分散。

Chapel は一般的な Web バックエンド向けの言語ではない。だが numerical computing、scientific HPC では本気の候補だ。Mojo とは別系統の「performance」を狙う。


第13章 · Inko — 並行 OO、owned values

Inko (Yorick Peterse) は owned values と並行性を組み合わせた OO 言語だ。

// Inko: 並行 OO
class async Main {
  fn async main {
    Stdout.new.print('Hello, Inko!')
  }
}

主な特徴:

  • Async-first — actor と軽量プロセス。
  • Owned values — Rust に似た ownership。
  • No null — Option を使う。
  • Pattern matching — 強力なパターンマッチ。
  • Erlang・Pony の影響

Inko は本番採用は小さいが、「OO 言語のモダン化」という座標で意味のある実験だ。


第14章 · Hylo — mutable value semantics

Hylo (formerly Val) (Dave Abrahams ほか) は明示的に mutable value semantics を中核哲学に据えた言語だ。

// Hylo: mutable value semantics (signature 例)
public fun main() {
  print("Hello, Hylo!")
}

主な特徴:

  • Value semantics — すべてが値。参照共有なし。
  • Mutable values — 値を mutate できるが aliasing は発生しない。
  • No borrow checker — value semantics が安全性を自然に与える。
  • Generic programming — C++ template の精神的な後継。

Hylo は Dave Abrahams の C++ generic 作業の延長線にある。C++ committee でできなかったことを一から再設計する。


第15章 · Austral — linear types の実用化

Australlinear types を中核機能に据えたシステム言語だ。

// Austral: linear types
module Main is
  public function Main(): ExitCode is
    return ExitSuccess();
  end
end

主な特徴:

  • Linear types — すべてのリソースがちょうど 1 回消費される。
  • No GC — 手動メモリ。
  • Capability-based security — システムリソースのアクセスに capability が必要。
  • Small specification — 言語仕様を意図的に小さく。

Austral は「linear types を本気で実用言語として持ち込んだらどう見えるか」の答えだ。Rust の affine types より厳しい。


第16章 · Odin — Ginger Bill のゲーム言語

Odin (Ginger Bill、2016年〜) はゲームプログラミングを第一ターゲットにしたシステム言語だ。Pascal の美意識をモダン化した印象。

// Odin: ゲームフレンドリーなシステム言語
package main

import "core:fmt"

main :: proc() {
  fmt.println("Hello, Odin!")
}

主な特徴:

  • No GC, manual memory — ゲームフレンドリー。
  • Custom allocators — メモリ割り当て戦略をコードで選ぶ。
  • Struct-of-arrays フレンドリー — SoA 変換を言語でサポート。
  • Foreign function interface — C との滑らかな相互運用。
  • Vendor library — よく使う OpenGL・Vulkan・SDL2 バインディングを同梱。

本番運用:

  • EmberGen (JangaFX) — VFX シミュレーションツール。
  • 一部のインディーゲーム。
  • Bill 本人のゲーム開発

Odin は「C の精神をゲームに合わせてモダン化した」言語の一つの答えだ。Zig・Jai と領域が被るが美意識が違う。


第17章 · Jai — Jonathan Blow の closed-beta ゲーム言語

Jai (Jonathan Blow、非公開ベータ) は The Witness と Braid の開発者が作るゲーム言語だ。2026 年時点でも closed beta。

主な特徴:

  • No GC — ゲームフレンドリー。
  • Compile-time execution — コンパイル時に任意のコードを実行。metaprogramming の別解。
  • Data-oriented design フレンドリー
  • Fast iteration — コンパイル速度が中核。

2026 年の現状:

  • 依然として非公開ベータ。
  • 映像中心に公開され、本番ゲームの出荷は限定的。
  • コミュニティの一部から「いつ公開されるのか」の期待と懐疑が併存。

Jai は本番として評価するのは難しいが、「compile-time execution を本気で突き詰めたら」の思考実験として価値がある。


第18章 · その他のシステム・ゲーム・実験言語 — V・Wuffs・Mun・Beef・Pinion・Helium

短く触れておくに値する言語たち。

  • V (Volt) — Go と Rust の影響。マーケティングと実際の進捗の差で議論を呼んでいる。それでも、小さなバイナリと速いコンパイルなど明確な魅力点がある。
  • Wuffs — Google。「Safe-by-default subset of C」。画像デコーダや解凍のような領域に特化。Chrome の一部コーデックが Wuffs で書かれている。
  • Mun — ゲームの hot-reload フレンドリーなスクリプティング。小さな組み込み言語。
  • Beef — BeefLang。C# の影響。ゲームフレンドリー。IDE とコンパイラを一緒に開発。
  • PinionHelium — 研究段階の実験言語。

このグループは「本番推奨」というより「アイデア市場」だ。1つ2つがメインストリームに影響を与えるかもしれないし、すべて消えるかもしれない。


第19章 · 意思決定マトリクス — どのドメインにどの言語を見るか

ドメイン別の意思決定ガイド。

ドメイン本気の候補ニッチな候補
C/C++ 置換Rust、Zig、GoCarbon、Hare、Odin
Python 性能Cython、Numba、PyPyMojo
関数型F#、OCaml、HaskellRoc、Gleam、Grain
Erlang/BEAMElixir、ErlangGleam
並行・actorErlang/Elixir、Akka on the JVMPony、Inko
Ruby 代替Ruby + JIT、CrystalCrystal
ゲームC++、Rust + BevyOdin、Jai、Beef
HPCC++、Fortran、JuliaChapel、Mojo
WASM 優先Rust、AssemblyScriptGrain、Virgil
メモリ実験RustVale、Hylo、Austral
組み込みC、Rust embeddedHare、Virgil
画像・コーデックC、RustWuffs

「本気の候補」は本番採用事例が十分にあり、採用市場も存在する。「ニッチな候補」はドメインさえ合えば非常に強力だが、採用・エコシステムのリスクがある。


第20章 · 採用・コミュニティ・韓国・日本 — 現実チェック

ニッチ言語を本気で見るなら、市場の現実も見るべきだ。

  • 採用市場:
    • ほとんどがゼロから極小。Crystal・Gleam・Mojo は時折ジョブ募集が見える。
    • Carbon・Jai・Vale・Hylo はほぼ募集なし。
    • ただし「主力としての採用はないがサイドプロジェクトなら歓迎」する会社は増えた。
  • コミュニティ規模 (GitHub スター、Discord メンバー基準のおおよそ):
    • Mojo: 最大かつ最速で成長。
    • Crystal、Gleam、Roc: 中規模だがアクティブ。
    • Pony、Hare、Vale、Hylo: 小さいが結束力がある。
    • Jai、Carbon: 情報が制限的。
  • 韓国コミュニティ: ほぼすべてのニッチ言語で非常に小さい。Crystal・Mojo の発表資料が一部ある程度。
  • 日本コミュニティ: Crystal Tokyo Meetup、Mojo 関連の日本コミュニティが存在する。日本はニッチ言語に比較的寛容。
  • 学習資料:
    • 公式ドキュメントはどの言語も平均以上。
    • 書籍があるのは Crystal・Mojo 程度。
    • 韓国語・日本語の資料は極めて少ない。

ニッチ言語を会社に導入する際の最大のリスクは「自分が抜けたら誰がメンテするか」だ。この問いに答えが出ないなら本気で再考すべき。


第21章 · 学習パス — 一度に多くを見すぎないこと

ニッチ言語を学ぶ時の推奨パス。

  1. メイン言語 1〜2 個を固める — Python・Rust・Go・TypeScript のうち少なくとも 2 つは本気で。
  2. 別のパラダイムを 1 言語深掘り — 関数型なら OCaml か Haskell を一学期。並行性なら Erlang/Elixir で 1 プロジェクト。
  3. その次にニッチを見る — メインが固まっていれば、ニッチ言語のアイデアが見えやすい。
  4. 小さなプロジェクトから始める — CLI ツール、小さな Web サービス。初日から本番投入は危険。
  5. 公式ドキュメント → 標準ライブラリ → 小さな OSS コード — 書籍はオプション。ドキュメントが最も正確。
  6. コミュニティを 1 年観察 — Discord、GitHub、公式ブログ。半年あれば「死につつある言語 vs 育つ言語」が見える。

覚えておくこと: ニッチ言語に費やした時間はメイン言語の実力に積み重なる。それ自体が報酬だ。


エピローグ — 結論と推奨事項

ニッチ言語の景色を一行で要約するとこうなる。

「メインストリームが 80% の仕事をこなす。ニッチ言語が残りの 20% と、次の 100% の視野をくれる。」

2026 年の推奨事項:

  1. Crystal — Ruby 構文に静的型とネイティブコンパイルが必要なら安全な候補。
  2. Gleam — Erlang/Elixir のモデルが好きで型も欲しいなら本気の選択肢。
  3. Mojo — Python・ML インフラで性能が必要なら見ておく価値あり。
  4. Roc — Elm の美意識をサーバ・CLI 領域に持ち込みたいなら。
  5. Odin — ゲーム・システム領域で C より現代的な美意識が欲しいなら。
  6. その他 (Carbon・Jai・Vale・Hylo・Austral) — 学習・好奇心で推奨。本番導入は慎重に。

ニッチ言語は「道具」というより「視野」だ。その視野はメイン言語に戻っても消えない。

— ニッチモダン言語 2026、了。


References

  1. Manas Tecnología. "Crystal Programming Language." https://crystal-lang.org/
  2. Pony Project. "Pony Programming Language." https://www.ponylang.io/
  3. Modular. "Mojo Programming Language." https://www.modular.com/mojo
  4. Google. "Carbon Language GitHub." https://github.com/carbon-language/carbon-lang
  5. DeVault, D. "Hare Programming Language." https://harelang.org/
  6. Feldman, R. "Roc Programming Language." https://www.roc-lang.org/
  7. Vale Language. "Vale." https://vale.dev/
  8. Titzer, B. L. "Virgil Programming Language." https://github.com/titzer/virgil
  9. Pilfold, L. "Gleam Programming Language." https://gleam.run/
  10. Grain Lang. "Grain Programming Language." https://grain-lang.org/
  11. Cray/HPE. "Chapel Parallel Programming Language." https://chapel-lang.org/
  12. Peterse, Y. "Inko Programming Language." https://inko-lang.org/
  13. Abrahams, D. "Hylo Programming Language." https://www.hylo-lang.org/
  14. Austral Lang. "Austral Programming Language." https://austral-lang.org/
  15. Bill, G. "Odin Programming Language." https://odin-lang.org/
  16. Blow, J. "Jai Programming Language Presentations." https://www.youtube.com/@jblow888
  17. V Project. "V Programming Language." https://vlang.io/
  18. Google. "Wuffs Programming Language." https://github.com/google/wuffs
  19. Mun Lang. "Mun Programming Language." https://mun-lang.org/
  20. Beef Lang. "Beef Programming Language." https://www.beeflang.org/
  21. Lattner, C. "Modular Blog." https://www.modular.com/blog
  22. Feldman, R. "Roc Talks." https://www.youtube.com/@rtfeldman
  23. Crystal Tokyo. "Crystal Tokyo Meetup." https://crystal.tokyo/
  24. Carbon Working Group. "Carbon Language Design Documents." https://github.com/carbon-language/carbon-lang/tree/trunk/docs
  25. Roc Zulip. "Roc Community." https://roc.zulipchat.com/