プロローグ — 2026年、「ニッチ言語」がふたたび面白くなった
2010年代後半の言語風景は単調だった。Python・JavaScript・Java・Go・Rust・C++・TypeScript——事実上この7つで産業の90%を占め、それ以外は「趣味」に分類されていた。
2026年の風景はもっと厚みがある。
- **Mojo 25.x** が一部オープンソース化され、MLインフラの「本気の候補」として入ってきた。Modular MAX推論エンジンが実戦ワークロードで検証されている。
- **Carbon Language** がGoogle内部でC++マイグレーションの候補として実験されている。Successor language という明快な座標。
- **Roc 0.x** がRichard Feldman主導で、関数型と高速コンパイル、Elm 風のエラーメッセージを持ち込んだ。
- **Crystal 1.14+** はManas Tecnologíaと一部スタートアップで本番運用されている。Ruby 構文に静的型。
- **Pony 0.59+** のactor モデルとcapabilities は安全な並行性の生きたリファレンスだ。
- **Hare 0.25+** はDrew DeVaultが作るミニマルなシステム言語。Cと同じ領域、違う美意識。
- **Vale・Hylo・Austral** のようなメモリモデル実験言語が「Rust の向こう側」を探している。
- **Odin・Jai・Beef** のようなゲーム言語はインディーシーンで実際にゲームを出荷している。
- **Gleam 1.x** はBEAM(Erlang VM) の上に型安全な関数型を載せ、本番採用を増やしている。
「なぜわざわざニッチ言語を使うのか」はもはや愚問ではない。ドメイン適合性、学習価値、性能特性、コミュニティ——理屈の通る根拠が増えた。本稿はその地形全体を一気に整理する。
> 一行要約: **「この言語は何を上手くこなすか、誰がすでに使っているか、1年後も生き残っているか。」** この3つの問いがニッチ言語選択の90%を決める。
第1章 · なぜニッチ言語を見るのか — 学習・ドメイン・好奇心の三角形
ニッチ言語を本気で見る理由はだいたい3つに収まる。
1. **学習** — 別のパラダイムに触れるとメイン言語の腕が上がる。Haskell を一学期やった人は Python でも良いコードを書く。Pony を触ったことがある人は Go のチャネルをより批判的に見る。
2. **ドメイン適合性** — Mojo は ML インフラ、Crystal は高速 Web サービス、Carbon は C++ マイグレーション、Odin はゲーム。ドメインさえ合えば、ニッチ言語はメインストリームより生産的だ。
3. **好奇心・性能特性** — GC なし、低レイテンシ、capabilities、value semantics のような特定の性質が必要なシステム。
逆に避けるべき理由もはっきりしている。
- 「クールに見えるから」— 半年後にメンテナが見つからない。
- 「速そうだから」— 同じアルゴリズムなら、メインの言語との差は大したことがない場合がほとんど。
- 「最新トレンドだから」— トレンドは進行中であって到着点ではない。
ニッチ言語の真の価値は「メイン言語では見えなかった視野」を与えてくれることだ。その視野はコードを書くたびに積み重なる。
第2章 · Crystal — Ruby の美意識に静的型とネイティブコンパイル
**Crystal 1.14+** (2014年〜、Manas Tecnología) の設計命題はシンプルだ。「Ruby のように見えて、C のように走る。」Ruby 構文に慣れていれば、初めて見る Crystal コードもすぐ読める。
Crystal: 静的型 + 型推論
def fib(n : Int32) : Int64
return n.to_i64 if n < 2
fib(n - 1) + fib(n - 2)
end
puts fib(30)
主な特徴:
- **静的型 + 強力な型推論** — 明示せずともコンパイル時に決まる。
- **LLVM バックエンド** — ネイティブバイナリ。Ruby 比で 10~100 倍のベンチマーク差はよくある。
- **Fiber ベースの並行性** — Go の goroutine に似たモデル。
- **マクロシステム** — コンパイル時メタプログラミング。
- **Shards** — gem のようなパッケージマネージャ。
本番運用:
- **Manas Tecnología** — 創始者の会社。自社サービスで運用。
- **Heroku 系の一部スタートアップ** — Ruby から Crystal への部分的な移行。
- **Kemal**・**Lucky** といった Web フレームワークが本番運用されている。
2026 年の Crystal は「Ruby の代替」ではなく「Ruby の視野を保ったまま性能が欲しい時」の選択肢だ。Rails 全体を Crystal に置き換えるシナリオは珍しく、ホットスポットなサービスだけ切り出して移植するパターンが一般的。
第3章 · Pony — Actor モデルと capabilities が作る安全な並行性
**Pony 0.59+** のデザインは、他の言語が本格的に取り入れていない領域にある。**reference capabilities** というシステムで、データ競合がコンパイル時に不可能になる。
// Pony: actor モデル
actor Counter
var _count: U64 = 0
be increment() =>
_count = _count + 1
be report(env: Env) =>
env.out.print("count: " + _count.string())
主な特徴:
- **Actor モデル** — Erlang/Elixir に近いが静的型。
- **Reference capabilities** — `iso`、`val`、`ref`、`box`、`tag`、`trn` の 6 つの capability がオブジェクト共有のあり方をコンパイル時に保証する。
- **No data races** — capability システムが保証。
- **No deadlocks** — actor 間にロックがない。
- **Per-actor GC** — actor 単位で分離されたガーベジコレクション。
本番運用:
- **Wallaroo Labs** — ストリーミングデータ処理。買収と整理の後、Pony 最大の production user が消えた。
- 現在は学術・小規模システム中心。
Pony は production 採用としては小さいが、「並行性の安全性を型システムでどう表現するか」の生きたリファレンスだ。Rust の `Send`/`Sync` 以前の世代のアイデアが、より精緻な形で Pony にある。
第4章 · Mojo — Python superset で SIMD・GPU まで
**Mojo 25.x** (2023年〜、Modular、Chris Lattner) は最新の注目株だ。スローガンは明快。「Python の構文で、C++ の性能と SIMD/GPU まで。」
Mojo: Python superset
fn fib(n: Int) -> Int:
if n < 2:
return n
return fib(n - 1) + fib(n - 2)
fn main():
print(fib(30))
主な特徴:
- **Python superset** — 既存の Python コードがほぼそのまま動く。
- **MLIR ベース** — コンパイラ基盤が Chris Lattner の LLVM・Swift・MLIR の系譜。
- **SIMD/GPU が一級市民** — ベクトル演算が言語レベル。
- **Ownership** — Rust 風のメモリ安全 + 値セマンティクス。
- **Modular MAX** — Mojo 自身で実装された推論エンジン。PyTorch/TF 互換。
2025 年のオープンソース化:
- **Modular が一部コンポーネントを MIT ライセンスで公開**。標準ライブラリと一部のランタイム。
- コンパイラ本体には依然として closed source の部分がある。
- コミュニティの期待と批判が併存。
本番運用:
- **Modular MAX** — Modular の推論エンジン。Mojo 自身で実装。
- ML インフラ系スタートアップで部分採用。
2026 年の Mojo は「Python のように書きたいが PyTorch より速いインフラが必要な時」の候補だ。一般的なバックエンド言語としての Mojo はまだ珍しい。
第5章 · Carbon — C++ 後継候補、Google の実験
**Carbon Language** (2022年〜、Google、experimental) は明確な座標を持つ。**C++ successor language**。Rust や Go ではなく、「C++ のコードを徐々に移行できる言語」が目標。
// Carbon: C++ 後継候補
package Sample api;
fn Fib(n: i32) -> i64 {
if (n < 2) { return n as i64; }
return Fib(n - 1) + Fib(n - 2);
}
fn Main() -> i32 {
Print("{0}", Fib(30));
return 0;
}
主な特徴:
- **C++ interop** — C++ コードと双方向で相互運用。1 つのプロジェクトに 2 言語が同居する。
- **Memory safety roadmap** — メモリ安全性をオプションで段階導入。
- **Modern syntax** — C++ の歴史的な重荷を取り除く。
- **No backwards compat guarantee** — C++ のように 35 年間の互換性負担がない。
2026 年の現状:
- 依然として **experimental**。本番採用は推奨されていない。
- Google 内部での toolchain 実験。
- 標準というより「C++ の方向性についての思考実験」に近い。
Rust が「C++ とは違う言語で一から書き直そう」なら、Carbon は「C++ のコードベースを残したまま、徐々に後継言語へ移行しよう」だ。同じ問題に対する違う答え。
第6章 · Hare — Drew DeVault のミニマルなシステム言語
**Hare 0.25+** (2022年〜、Drew DeVault ほか) は明らかに小さな言語だ。**C と同じ領域、違う美意識。**
// Hare: ミニマルなシステム言語
use fmt;
export fn main() void = {
fmt::println("Hello, world!")!;
};
主な特徴:
- **No GC** — 手動メモリ管理。
- **No generics** — 意図的に抜いた機能。シンプルさを優先。
- **Small standard library** — 明示的かつ小さい。
- **QBE backend** — LLVM ではなく QBE コンパイラバックエンド。ビルドが速く toolchain が小さい。
- **AGPL/MPL ライセンス** — 自由ソフトウェアの倫理。
設計思想:
- 「C が 50 年も生きているのは良いことだ。ただ、その 50 年の間違いは繰り返さない。」
- Generics がないのはバグではなく機能。シンプルさと可読性を優先。
- 標準ライブラリが小さいのも機能。依存爆発を防ぐ。
2026 年の Hare は本番運用よりも、「C の精神を別のやり方で受け継ぐ言語」の生きた例だ。Drew DeVault の他のプロジェクト(sourcehut、wlroots) と趣旨を共有する。
第7章 · Roc — Elm の影響を受けた関数型、高速コンパイル
**Roc** (2020年〜、Richard Feldman) は関数型陣営の野心作だ。スローガンは「fast, friendly, functional」。
Roc: Elm の影響を受けた関数型
app "fib"
packages { pf: "platform/main.roc" }
imports [pf.Stdout]
provides [main] to pf
fib = \n ->
if n < 2 then n
else (fib (n - 1)) + (fib (n - 2))
main = Stdout.line (Num.toStr (fib 30))
主な特徴:
- **Purely functional** — Elm のように純粋関数型。
- **Static types + 強い推論** — 明示しなくてもほぼ全てが推論される。
- **Friendly error messages** — Elm 風のコンパイラエラー。
- **Platforms** — platform (host) が I/O と effects を担い、Roc コードは純粋を保つ。
- **No null、no exceptions** — 明示的な Result と Task。
- **Fast compile** — コンパイル速度が設計目標。
本番運用:
- 小規模だが成長中。
- Web サーバ、CLI ツール。
- platform モデルにより様々な host に埋め込める。
Roc は「関数型がまっとうな選択肢になる一つの道」のケーススタディだ。Elm の美意識を Web を超えてシステム領域に持ち込んだ実験。
第8章 · Vale — gen+region メモリ、no GC、no borrow checker
**Vale** はメモリモデル実験の最前線にある言語だ。**Generational references** と **region-based memory** で、GC なしでも borrow checker の学習曲線を避ける。
// Vale: generational references
exported func main() {
println("Hello, Vale!");
}
主な特徴:
- **Generational references** — ポインタに generation 番号を付け、use-after-free を実行時に防ぐ。
- **Regions** — メモリ領域単位で GC・manual・arena を選べる。
- **No borrow checker** — Rust の lifetimes のようなコンパイル時制約がない。
- **No GC** — デフォルトでガーベジコレクションなし。
- **Linear types オプション** — リソース追跡が必要なら明示的に選択。
設計思想:
- 「Rust 並みに速く、Java 並みに書きやすく。」
- borrow checker の学習コストを generational references で迂回。
- region でメモリ戦略をコード単位で選べる。
Vale は本番運用というより「メモリ安全性を別の解法で解いたら」の研究室だ。アイデア自体が他言語へ波及する可能性が高い。
第9章 · Virgil — Google Research の研究言語
**Virgil** (Ben L. Titzer、Google) は研究言語陣営のベテランだ。組み込みとシステムの間に座標を置く。
// Virgil: 研究言語
def main() {
System.puts("Hello, Virgil!\n");
}
主な特徴:
- **AOT コンパイル** — Ahead-of-time コンパイル。
- **No GC** — 静的メモリモデル。
- **Tiny runtime** — 組み込みフレンドリー。
- **Compile-time initialization** — 初期化をコンパイル時に処理。
- **WebAssembly バックエンド** にも対応。
Virgil は「組み込みと WASM の間で小さなランタイムを保ちつつモダンな言語機能を持つ道」の研究事例だ。直接本番で採用することは稀でも、アイデアが他所へ流れていく。
第10章 · Gleam — BEAM の上の型安全な関数型
**Gleam 1.x** (Louis Pilfold) ははっきりした価値提案を持つ。**Erlang VM (BEAM) の上に型安全な関数型を載せた言語。**
// Gleam: BEAM 上の型安全な関数型
pub fn main() {
io.println("Hello, Gleam!")
}
主な特徴:
- **Strong static typing** — すべての型がコンパイル時に決まる。
- **Erlang interop** — Erlang/Elixir ライブラリをそのまま呼べる。
- **JS target** — JavaScript にもコンパイル。
- **Friendly syntax** — Rust と Elm の影響を感じる。
- **Production users が増加中**。
Gleam は「Erlang/Elixir の actor・OTP の堅牢さ」と「静的型の安全性」の両方を欲しい人の答えだ。2026 年は本番採用が急速に増えている。
第11章 · Grain — 型付き関数型、WebAssembly 優先
**Grain** は最初から WebAssembly ターゲットを前提に設計された関数型言語だ。
// Grain: WASM 優先の関数型
print("Hello, Grain!")
主な特徴:
- **WebAssembly 優先** — 第一ターゲットが WASM。
- **Strong static types** — 関数型に馴染む型システム。
- **GC あり** — WASM 環境向けの GC。
- **No null** — Option・Result で明示的に扱う。
Grain は「WebAssembly がどこでも走る時代」に合う関数型オプションの一つだ。エコシステムはまだ小さいが、WASM が大きくなれば一緒に育つ可能性がある。
第12章 · Chapel — HPC と並列プログラミング
**Chapel** (Cray/HPE) は HPC (High Performance Computing) 陣営の言語だ。並列・分散プログラミングを明示的に一級市民として扱う。
// Chapel: HPC の並列
forall i in 1..10 do
writeln("Hello from iteration ", i);
主な特徴:
- **First-class parallelism** — 並列ループとタスクが言語レベル。
- **Locality awareness** — locale 概念で分散ノードに配分。
- **Productivity + Performance** — 両方を狙う。
- **スーパーコンピュータ環境フレンドリー** — Cray クラスのマシンでの大規模分散。
Chapel は一般的な Web バックエンド向けの言語ではない。だが numerical computing、scientific HPC では本気の候補だ。Mojo とは別系統の「performance」を狙う。
第13章 · Inko — 並行 OO、owned values
**Inko** (Yorick Peterse) は owned values と並行性を組み合わせた OO 言語だ。
// Inko: 並行 OO
class async Main {
fn async main {
Stdout.new.print('Hello, Inko!')
}
}
主な特徴:
- **Async-first** — actor と軽量プロセス。
- **Owned values** — Rust に似た ownership。
- **No null** — Option を使う。
- **Pattern matching** — 強力なパターンマッチ。
- **Erlang・Pony の影響**。
Inko は本番採用は小さいが、「OO 言語のモダン化」という座標で意味のある実験だ。
第14章 · Hylo — mutable value semantics
**Hylo (formerly Val)** (Dave Abrahams ほか) は明示的に **mutable value semantics** を中核哲学に据えた言語だ。
// Hylo: mutable value semantics (signature 例)
public fun main() {
print("Hello, Hylo!")
}
主な特徴:
- **Value semantics** — すべてが値。参照共有なし。
- **Mutable values** — 値を mutate できるが aliasing は発生しない。
- **No borrow checker** — value semantics が安全性を自然に与える。
- **Generic programming** — C++ template の精神的な後継。
Hylo は Dave Abrahams の C++ generic 作業の延長線にある。C++ committee でできなかったことを一から再設計する。
第15章 · Austral — linear types の実用化
**Austral** は **linear types** を中核機能に据えたシステム言語だ。
// Austral: linear types
module Main is
public function Main(): ExitCode is
return ExitSuccess();
end
end
主な特徴:
- **Linear types** — すべてのリソースがちょうど 1 回消費される。
- **No GC** — 手動メモリ。
- **Capability-based security** — システムリソースのアクセスに capability が必要。
- **Small specification** — 言語仕様を意図的に小さく。
Austral は「linear types を本気で実用言語として持ち込んだらどう見えるか」の答えだ。Rust の affine types より厳しい。
第16章 · Odin — Ginger Bill のゲーム言語
**Odin** (Ginger Bill、2016年〜) はゲームプログラミングを第一ターゲットにしたシステム言語だ。Pascal の美意識をモダン化した印象。
// Odin: ゲームフレンドリーなシステム言語
package main
main :: proc() {
fmt.println("Hello, Odin!")
}
主な特徴:
- **No GC, manual memory** — ゲームフレンドリー。
- **Custom allocators** — メモリ割り当て戦略をコードで選ぶ。
- **Struct-of-arrays フレンドリー** — SoA 変換を言語でサポート。
- **Foreign function interface** — C との滑らかな相互運用。
- **Vendor library** — よく使う OpenGL・Vulkan・SDL2 バインディングを同梱。
本番運用:
- **EmberGen** (JangaFX) — VFX シミュレーションツール。
- 一部のインディーゲーム。
- **Bill 本人のゲーム開発**。
Odin は「C の精神をゲームに合わせてモダン化した」言語の一つの答えだ。Zig・Jai と領域が被るが美意識が違う。
第17章 · Jai — Jonathan Blow の closed-beta ゲーム言語
**Jai** (Jonathan Blow、非公開ベータ) は The Witness と Braid の開発者が作るゲーム言語だ。2026 年時点でも closed beta。
主な特徴:
- **No GC** — ゲームフレンドリー。
- **Compile-time execution** — コンパイル時に任意のコードを実行。metaprogramming の別解。
- **Data-oriented design フレンドリー**。
- **Fast iteration** — コンパイル速度が中核。
2026 年の現状:
- 依然として非公開ベータ。
- 映像中心に公開され、本番ゲームの出荷は限定的。
- コミュニティの一部から「いつ公開されるのか」の期待と懐疑が併存。
Jai は本番として評価するのは難しいが、「compile-time execution を本気で突き詰めたら」の思考実験として価値がある。
第18章 · その他のシステム・ゲーム・実験言語 — V・Wuffs・Mun・Beef・Pinion・Helium
短く触れておくに値する言語たち。
- **V (Volt)** — Go と Rust の影響。マーケティングと実際の進捗の差で議論を呼んでいる。それでも、小さなバイナリと速いコンパイルなど明確な魅力点がある。
- **Wuffs** — Google。「Safe-by-default subset of C」。画像デコーダや解凍のような領域に特化。Chrome の一部コーデックが Wuffs で書かれている。
- **Mun** — ゲームの hot-reload フレンドリーなスクリプティング。小さな組み込み言語。
- **Beef** — BeefLang。C# の影響。ゲームフレンドリー。IDE とコンパイラを一緒に開発。
- **Pinion**・**Helium** — 研究段階の実験言語。
このグループは「本番推奨」というより「アイデア市場」だ。1つ2つがメインストリームに影響を与えるかもしれないし、すべて消えるかもしれない。
第19章 · 意思決定マトリクス — どのドメインにどの言語を見るか
ドメイン別の意思決定ガイド。
| ドメイン | 本気の候補 | ニッチな候補 |
| --- | --- | --- |
| C/C++ 置換 | Rust、Zig、Go | Carbon、Hare、Odin |
| Python 性能 | Cython、Numba、PyPy | Mojo |
| 関数型 | F#、OCaml、Haskell | Roc、Gleam、Grain |
| Erlang/BEAM | Elixir、Erlang | Gleam |
| 並行・actor | Erlang/Elixir、Akka on the JVM | Pony、Inko |
| Ruby 代替 | Ruby + JIT、Crystal | Crystal |
| ゲーム | C++、Rust + Bevy | Odin、Jai、Beef |
| HPC | C++、Fortran、Julia | Chapel、Mojo |
| WASM 優先 | Rust、AssemblyScript | Grain、Virgil |
| メモリ実験 | Rust | Vale、Hylo、Austral |
| 組み込み | C、Rust embedded | Hare、Virgil |
| 画像・コーデック | C、Rust | Wuffs |
「本気の候補」は本番採用事例が十分にあり、採用市場も存在する。「ニッチな候補」はドメインさえ合えば非常に強力だが、採用・エコシステムのリスクがある。
第20章 · 採用・コミュニティ・韓国・日本 — 現実チェック
ニッチ言語を本気で見るなら、市場の現実も見るべきだ。
- **採用市場**:
- ほとんどがゼロから極小。Crystal・Gleam・Mojo は時折ジョブ募集が見える。
- Carbon・Jai・Vale・Hylo はほぼ募集なし。
- ただし「主力としての採用はないがサイドプロジェクトなら歓迎」する会社は増えた。
- **コミュニティ規模** (GitHub スター、Discord メンバー基準のおおよそ):
- Mojo: 最大かつ最速で成長。
- Crystal、Gleam、Roc: 中規模だがアクティブ。
- Pony、Hare、Vale、Hylo: 小さいが結束力がある。
- Jai、Carbon: 情報が制限的。
- **韓国コミュニティ**: ほぼすべてのニッチ言語で非常に小さい。Crystal・Mojo の発表資料が一部ある程度。
- **日本コミュニティ**: Crystal Tokyo Meetup、Mojo 関連の日本コミュニティが存在する。日本はニッチ言語に比較的寛容。
- **学習資料**:
- 公式ドキュメントはどの言語も平均以上。
- 書籍があるのは Crystal・Mojo 程度。
- 韓国語・日本語の資料は極めて少ない。
ニッチ言語を会社に導入する際の最大のリスクは「自分が抜けたら誰がメンテするか」だ。この問いに答えが出ないなら本気で再考すべき。
第21章 · 学習パス — 一度に多くを見すぎないこと
ニッチ言語を学ぶ時の推奨パス。
1. **メイン言語 1〜2 個を固める** — Python・Rust・Go・TypeScript のうち少なくとも 2 つは本気で。
2. **別のパラダイムを 1 言語深掘り** — 関数型なら OCaml か Haskell を一学期。並行性なら Erlang/Elixir で 1 プロジェクト。
3. **その次にニッチを見る** — メインが固まっていれば、ニッチ言語のアイデアが見えやすい。
4. **小さなプロジェクトから始める** — CLI ツール、小さな Web サービス。初日から本番投入は危険。
5. **公式ドキュメント → 標準ライブラリ → 小さな OSS コード** — 書籍はオプション。ドキュメントが最も正確。
6. **コミュニティを 1 年観察** — Discord、GitHub、公式ブログ。半年あれば「死につつある言語 vs 育つ言語」が見える。
覚えておくこと: ニッチ言語に費やした時間はメイン言語の実力に積み重なる。それ自体が報酬だ。
エピローグ — 結論と推奨事項
ニッチ言語の景色を一行で要約するとこうなる。
> 「メインストリームが 80% の仕事をこなす。ニッチ言語が残りの 20% と、次の 100% の視野をくれる。」
**2026 年の推奨事項**:
1. **Crystal** — Ruby 構文に静的型とネイティブコンパイルが必要なら安全な候補。
2. **Gleam** — Erlang/Elixir のモデルが好きで型も欲しいなら本気の選択肢。
3. **Mojo** — Python・ML インフラで性能が必要なら見ておく価値あり。
4. **Roc** — Elm の美意識をサーバ・CLI 領域に持ち込みたいなら。
5. **Odin** — ゲーム・システム領域で C より現代的な美意識が欲しいなら。
6. **その他 (Carbon・Jai・Vale・Hylo・Austral)** — 学習・好奇心で推奨。本番導入は慎重に。
ニッチ言語は「道具」というより「視野」だ。その視野はメイン言語に戻っても消えない。
— ニッチモダン言語 2026、了。
References
1. Manas Tecnología. "Crystal Programming Language." [https://crystal-lang.org/](https://crystal-lang.org/)
2. Pony Project. "Pony Programming Language." [https://www.ponylang.io/](https://www.ponylang.io/)
3. Modular. "Mojo Programming Language." [https://www.modular.com/mojo](https://www.modular.com/mojo)
4. Google. "Carbon Language GitHub." [https://github.com/carbon-language/carbon-lang](https://github.com/carbon-language/carbon-lang)
5. DeVault, D. "Hare Programming Language." [https://harelang.org/](https://harelang.org/)
6. Feldman, R. "Roc Programming Language." [https://www.roc-lang.org/](https://www.roc-lang.org/)
7. Vale Language. "Vale." [https://vale.dev/](https://vale.dev/)
8. Titzer, B. L. "Virgil Programming Language." [https://github.com/titzer/virgil](https://github.com/titzer/virgil)
9. Pilfold, L. "Gleam Programming Language." [https://gleam.run/](https://gleam.run/)
10. Grain Lang. "Grain Programming Language." [https://grain-lang.org/](https://grain-lang.org/)
11. Cray/HPE. "Chapel Parallel Programming Language." [https://chapel-lang.org/](https://chapel-lang.org/)
12. Peterse, Y. "Inko Programming Language." [https://inko-lang.org/](https://inko-lang.org/)
13. Abrahams, D. "Hylo Programming Language." [https://www.hylo-lang.org/](https://www.hylo-lang.org/)
14. Austral Lang. "Austral Programming Language." [https://austral-lang.org/](https://austral-lang.org/)
15. Bill, G. "Odin Programming Language." [https://odin-lang.org/](https://odin-lang.org/)
16. Blow, J. "Jai Programming Language Presentations." [https://www.youtube.com/@jblow888](https://www.youtube.com/@jblow888)
17. V Project. "V Programming Language." [https://vlang.io/](https://vlang.io/)
18. Google. "Wuffs Programming Language." [https://github.com/google/wuffs](https://github.com/google/wuffs)
19. Mun Lang. "Mun Programming Language." [https://mun-lang.org/](https://mun-lang.org/)
20. Beef Lang. "Beef Programming Language." [https://www.beeflang.org/](https://www.beeflang.org/)
21. Lattner, C. "Modular Blog." [https://www.modular.com/blog](https://www.modular.com/blog)
22. Feldman, R. "Roc Talks." [https://www.youtube.com/@rtfeldman](https://www.youtube.com/@rtfeldman)
23. Crystal Tokyo. "Crystal Tokyo Meetup." [https://crystal.tokyo/](https://crystal.tokyo/)
24. Carbon Working Group. "Carbon Language Design Documents." [https://github.com/carbon-language/carbon-lang/tree/trunk/docs](https://github.com/carbon-language/carbon-lang/tree/trunk/docs)
25. Roc Zulip. "Roc Community." [https://roc.zulipchat.com/](https://roc.zulipchat.com/)
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2010年代後半の言語風景は単調だった。Python・JavaScript・Java・Go・Rust・C++・TypeScript——事実上この7つで産業の90%を占め、それ以外は「趣味」に分類されて...