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AIスマートビル & HVAC自動化 2026 完全ガイド — Niagara Tridium · BrainBox AI · 75F · Cohesion · Johnson Controls OpenBlue · Honeywell Forge · Siemens Desigo · Schneider EcoStruxure · ダイキン · 三菱電機 徹底解説

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プロローグ — ビルがシステムになった時代

2026年5月時点で、世界の建物部門は最終エネルギー消費の約34 %、CO2排出の約37 %を占める。国際エネルギー機関(IEA)の推計だ。他のすべての部門が減少するなかで建物だけが増えた。

理由は単純だ。HVAC、照明、エレベーター、データセンター(ビル内のITルーム)が同時に電力を食う。しかしそのうち30-40 %は「必要のない時間に動いている」というのが1990年代のASHRAE研究以来一貫した結論だ。

問題は運用であって、機器ではない。

ここに二つのことが同時に起こった。

  • 規制の圧力 — EU Energy Performance of Buildings Directive(EPBD)2024年改正、ニューヨーク Local Law 97、カリフォルニア Title 24、日本の省エネ法、韓国の建築物エネルギー効率等級制度がすべて同じ方向を向く。測定可能な炭素削減だ。
  • AI + IoTの成熟 — BACnet/SC(Secure Connect)、Project Haystack、Brick Schemaがビルデータを構造化し、その上でLLMと時系列予測モデルが回り始めた。

2026年5月時点を一文で要約するとこうなる。

  • BAS(ビル自動制御)5強 — Honeywell、Johnson Controls、Siemens、Schneider、Traneが市場の大半を握る。
  • ベンダー中立ミドルウェア — Tridium NiagaraがBASの「Android」として定着した。Honeywell子会社だがマルチベンダー対応。
  • AIスタートアップ — BrainBox AI、75F、Cohesion、PassiveLogicが「自律ビル(Autonomous Building)」を推す。
  • セマンティクス標準 — Project HaystackとBrick Schemaがビルデータのオントロジーを定義する。
  • AIデジタルツイン — NVIDIA Omniverse、Cesium、Autodesk Formaがビル単位のシミュレーションを行う。

本稿はこの30以上のプラットフォームと規制・標準を一つの流れにまとめる。


第1章 · なぜ今AIスマートビルなのか

技術導入の前に需要を押さえる。2026年のビル市場における五つの圧力。

  • 炭素規制 — EU EPBD 2024年改正は2030年までに非住宅建物16 %のエネルギー削減、2033年までに26 %削減を義務化。ニューヨークLL97は2024年から2,500 m²以上の建物にトンあたり268 USDの罰金。
  • オフィス回帰の不確実性 — 米国主要都市のオフィス入居率はコロナ前比50-65 %で停滞。運用は「変動する入居率」に適応する必要がある。
  • 熟練人材不足 — BASエンジニアの平均年齢は米国基準で55歳。今後10年で30-40 %が退職するというASHRAE推計。
  • 電化 — ガスボイラーからヒートポンプへの転換がEU・米国・韓国・日本で同時進行。ヒートポンプはBASとの密な連携が要る。
  • データの爆発 — IoTセンサーが1棟あたり数千個レベルに増えた。人間が全部見られない。

AIの価値の中心は「人間が見えないパターンを見つけて自動調整する」ことだ。オペレーターが9時に出社してオフィス平均温度を確認するのではなく、システムが午前4時から外気温・入居予測・電力価格をもとに予熱・予冷を始める。

[ビル自動化の5層スタック — 2026モデル]
  1. センシング + データ収集    — IoTセンサー、BACnet/Modbusゲートウェイ
  2. 統合ミドルウェア            — Niagara Framework、Brick Schemaタグ付け
  3. 分析 + 可視化               — Cohesion、Verdigris、Honeywell Forgeダッシュボード
  4. AI最適化                    — BrainBox AI、75F、PassiveLogic(自律制御)
  5. 報告 + 規制対応             — Watershed、Persefoni、Salesforce Net Zero

各層で得意なベンダーが異なる。だからNiagara、Haystack、Brickのような標準が大切になる。


第2章 · BAS 5強 — Honeywell · JCI · Siemens · Schneider · Trane

ビル自動制御システム(BAS)市場は約100年の歴史を持ち、事実上5社が世界市場の70 %以上を握る。

  • Honeywell — 1885年創業。本社は米ノースカロライナ州シャーロット。2003年に自動化・制御事業を一つの部門にまとめた。2024年時点でHoneywell Forgeが統合IoTプラットフォーム。
  • Johnson Controls (JCI) — 1885年米ウィスコンシン州ミルウォーキーで創業(現在の本社はアイルランド・コーク)。2017年にTycoと合併。2020年にOpenBlueを発表。
  • Siemens Smart Infrastructure — ドイツ・ミュンヘン。Desigo CCがBAS、Building Xがクラウド、2018年に買収したComfyが利用者向けアプリ。
  • Schneider Electric — フランス・リヨン。EcoStruxure BuildingがBASプラットフォーム。データセンター・産業・ビルすべてを手掛ける。
  • Trane Technologies — 2020年にIngersoll Randから分社。本社はアイルランド・ダブリン。HVAC機器に加えてTrane AI。

5強以外にABB(Cylon、Ability)、Carrier(東芝HVACを買収)、ダイキン(世界最大のHVAC企業、本社日本)がある。


第3章 · Niagara Framework — BASの「Android」

Niagara Framework(tridium.com)は米バージニア州リッチモンド近郊のTridiumが1990年代後半から開発したミドルウェアだ。2005年にHoneywellがTridiumを買収したが、「ベンダー中立」を維持し、マルチベンダーBAS統合の標準として定着した。

  • 2026年5月時点のバージョン — Niagara 4.14。Javaベース。独自のオブジェクトモデル(BACnet、LonWorks、Modbus、OPC UA、MQTT、oBIXを変換)。
  • JACEコントローラー — ビル現場のゲートウェイ装置。Niagaraをファームウェアとして動かし、数百のIoT機器を統合する。
  • エコシステム — 世界で約100万台のJACEが導入されている(Tridium公表値)。
  • オープン + ライセンス — 規格は公開だが、JACEハードウェアとSDKはライセンス制。「オープン」の定義は曖昧。

Niagaraが重要なのは「一社にロックインされずにBASを運用できる」点だ。Honeywellのボイラー、JCIのチラー、Siemensの室内コントローラーを一つの画面で管理できる。


第4章 · BACnet、BACnet/SC、Modbus、OPC UA、MQTT

ビル自動化プロトコルは意外にも1990年代に決まり、それが今も生きている。

  • BACnet — Building Automation and Control Networks。ASHRAE 135規格。1995年に初版。2026年時点で1.20版。
  • BACnet/SC(Secure Connect) — 2020年に追加されたセキュア版。TLS + WebSocket。従来のBACnet/IPの認証不備を解決。
  • Modbus — 1979年にModiconが作ったシリアルプロトコル。RTU(シリアル)とTCPがある。産業・ビル両方で標準。
  • OPC UA — Open Platform Communications Unified Architecture。産業向け中心だがビルでも使用。
  • MQTT — IoT向けの発行・購読プロトコル。クラウド連携で最も普及。
  • KNX — 主に欧州。住宅・小規模商業ビル。
  • LonWorks — 1990年代Echelonの規格。シェア低下中だがレガシーで残存。

Niagaraの価値はこれらを一画面で統合することにある。新築ビルはBACnet/IPかBACnet/SCで標準化が進む。


第5章 · Project Haystack — ビルデータのセマンティックタグ付け

データを集めるだけでは足りない。「このセンサーは23号室の吐出空気温度だ」という意味があって初めて分析できる。

Project Haystack(project-haystack.org)は2011年にJohn Petzeらが始めたオープン標準だ。

  • タグベース — 各データポイントに tempairdischargevav のようなタグを付ける。
  • 2026年5月時点の Haystack 4 — グラフデータモデル。SPARQL風のクエリ。
  • 商用採用 — Honeywell、JCI、Siemens、SchneiderすべてがHaystack互換オプションを提供。

Haystackなしでは、BASデータを分析するには人間が一点ずつラベルを付ける必要がある。5,000点のビル基準でそれだけで数週間かかる。


第6章 · Brick Schema — UC Berkeley・CMU発のビルオントロジー

Haystackと似た目的を持つ学術発の標準がある。Brick Schema(brickschema.org)だ。

  • 発端 — 2016年UC Berkeley、CMU、IBM、UCSDの共同論文。
  • RDF/OWLベース — セマンティックウェブ標準の上にビル領域オントロジーを載せた。
  • クラス + 関係Brick:VAV isFedBy Brick:AHU のようなトリプルでビルを表現。
  • 2026年版 — Brick 1.4。Haystackとマッピング可能。

業界は事実上「BrickかHaystack」に分かれたが、ASHRAE Standard 223Pが2025年に二つの規格を統合する方向で進めている。


第7章 · Honeywell Forge — 統合OT/ITプラットフォーム

Honeywell Forge(honeywell.com/forge)は2019年に発表された統合デジタルプラットフォームだ。Connected Buildings、Connected Industrial、Connected Workerの三本柱。

  • 2026年5月時点の機能 — ビルエネルギー分析、入居分析、FDD(Fault Detection and Diagnostics)。
  • AIモデル — 時系列の異常検知、エネルギー予測、機器故障予測。
  • データレイク — Microsoft Azureベース。HoneywellがAzureをOT向けに深く統合。

Honeywellは2024-2026年Quantinuum(量子計算)とForgeとの連携を強調するが、量子が実際のビル運用に入る時点はもっと先だ。


第8章 · Johnson Controls OpenBlue — Microsoft Azureベース

OpenBlue(johnsoncontrols.com/openblue)はJCIが2020年7月に発表したデジタルプラットフォームだ。Microsoftとの深い提携が特徴。

  • OpenBlue Enterprise Manager — 多棟ポートフォリオの管理。
  • OpenBlue Net Zero Buildings — 炭素排出の追跡と削減提案。
  • OpenBlue Companion — 利用者向けアプリ。
  • AI Hub(2024年拡張) — 機械学習ベースの自律運用モジュール。
  • Glas Smart Thermostat — JCI自社の家庭用デバイス(Microsoft Cortana統合)。

JCIは2024年以降BrainBox AIとも提携関係を結び、「JCI + BrainBox」の選択肢を一部顧客に提供する。


第9章 · Siemens Desigo CC、Building X、Comfy

Siemensのビル戦略は3層構造だ。

  • Desigo CC — 現場BAS統合ワークステーション。1棟から数十棟規模。
  • Building X — クラウドプラットフォーム。ポートフォリオ単位の分析。
  • Comfy — 利用者向けアプリ。2018年にSiemensが買収した米オークランドのスタートアップ。

Comfyは社員が自席の温度・照明をモバイルで調整できる仕組みだ。「オフィス回帰後、社員が何を望むか」のデータを集める入口になる。

Siemensは2023年にSiemensOS(IoT向け産業OS)を発表し、NVIDIA Omniverseとのビルデジタルツイン連携を強化した。


第10章 · Schneider Electric EcoStruxure Building

EcoStruxure Building(se.com)はSchneiderのBASブランドだ。フランス本社の影響でEU市場に強い。

  • EcoStruxure Building Operation — BAS統合コンソール。
  • EcoStruxure Building Advisor — クラウド分析。FDDが中心。
  • EcoStruxure Workplace Advisor — 入居率と空気質を統合。
  • AVEVA統合 — 2018年Schneiderが買収したAVEVAにより、産業・ビル横断のデジタルツインが可能に。

Schneiderの独特な点はビルとデータセンターを一つのプラットフォームで見ることだ。ハイパースケーラー(AWS、Azure、Google)のデータセンターEPMS(Electrical Power Monitoring System)にEcoStruxureが深く入っている。


第11章 · BrainBox AI — Traneと組むカナダの自律ビルAI

BrainBox AI(brainboxai.com)は2017年カナダ・モントリオールで創業されたスタートアップだ。2024年にTrane Technologiesとグローバル提携。

  • 自律HVAC最適化 — BASに接続し、クラウドで制御命令を自動生成。人手の介入なし。
  • 2026年5月時点の導入規模 — 60カ国、5,000棟以上(会社発表)。
  • エネルギー削減効果 — RCTのない実測ケーススタディで平均15-25 %、一部では50 %まで。
  • 炭素測定 — 自社のGHGプロトコルScope 1・2報告モジュール。
  • GPT-4統合(2023年) — 「ARIA」というビル向けLLMアシスタント。

BrainBox AIのメッセージは単純だ。「BASを置き換えるな、その上にAIを載せろ」。既存インフラの上にクラウドで載る形式なので導入障壁が低い。


第12章 · 75F — Acuity Brands傘下の無線BAS

75F(75f.co)は2012年にインド・米国出身の起業家が始めた無線BASスタートアップだ。2024年にAcuity Brands(照明大手)が買収した。

  • 無線IoTセンサー — Zigbeeベース。古いビルにケーブルを敷かずに導入できる。
  • DCV(Demand Control Ventilation) — 入居率ベースの換気。
  • ターゲット — 中小規模商業ビル(2,000-20,000 m²)。5強BASが高価で入れない領域。
  • Acuity買収の効果 — Acuityの nLight 照明 + 75F HVAC + Distech Controlsが一つの家族になった。

75Fは「プラグアンドプレイBAS」というコンセプトで米国中西部・南部の中規模ビルに急速に浸透した。


第13章 · Cohesion — ビルインテリジェンスとテナントアプリ

Cohesion(cohesionib.com)は米シカゴを拠点とするスタートアップだ。運用者とテナント(入居者)を同時に見る。

  • Cohesion Operations — BAS統合分析。
  • Cohesion Experience — テナント向けモバイルアプリ(訪問者管理、会議室予約、食堂メニュー)。
  • 入居データ — VergeSenseやDensityなどのセンサーを統合。
  • オフィス回帰分析 — コロナ後の中心ユースケース。

Cohesionは「ビルはホテルのように運用されるべきだ」というビジョンを掲げ、シカゴのウィリスタワー(旧シアーズタワー)導入事例で有名になった。


第14章 · PassiveLogic、Verdigris、Carbon Lighthouse、GridPoint

AIビルスタートアップをさらに5社挙げる。

  • PassiveLogic — 米ユタ州。2016年創業。「Autonomous Buildings」スローガン。Hiveというデジタルツイン + AI制御プラットフォーム。
  • Verdigris(verdigris.co) — カリフォルニア州。電力負荷分解(NILM風)。分単位のエネルギー可視性。
  • Carbon Lighthouse — 米国。2014年創業。2023年に事業モデルをサービスからSaaSへ転換。
  • GridPoint — 米バージニア州。1,000以上のマルチサイト小売・QSR顧客。分散電源 + 省エネ。
  • BlocPower — ニューヨーク。古い集合住宅のガス→ヒートポンプ転換。AIは補助で、本業は融資と工事。

この5社は5強BASの隙間を埋める位置にいる。強みは「専門特化のAI」だ。


第15章 · スマートサーモスタット — Nest、ecobee、Honeywell T系列

家庭用・小規模商業の入口はスマートサーモスタットだ。

  • Google Nest Learning Thermostat — 2011年にTony Fadellが創業したNestを2014年Googleが買収。第4世代(2024年)。省エネモード「Eco」と入居学習。
  • Nest Renew — 米国限定。再エネ時間帯への自動シフト。
  • ecobee — カナダ・トロント。2021年Generac(発電機メーカー)が買収。SmartThermostatシリーズと補助室内センサー。
  • Honeywell T系列 — T9、T10。複数ゾーン対応。Honeywell Homeブランドは2018年Resideoに分社したが、Honeywellがライセンスを維持。
  • Mysa — カナダ。電気ベースボードヒーター専用。
  • Sensibo — イスラエル。ミニスプリットエアコンのIRリモコン代替。
  • Tado — ドイツ。欧州のラジエーターシステム。

米国・カナダはNestとecobeeが二分し、欧州はTadoとHoneywell、日本はダイキン・三菱の自社アプリが強い。


第16章 · ミニスプリット + ヒートポンプAI — ダイキン、三菱電機、LG、Samsung

電化の中核機器はヒートポンプとミニスプリットだ。日韓メーカーが世界の強者。

  • ダイキン — 大阪。世界HVAC売上1位。VRV(Variable Refrigerant Volume)システムを発明。自社コントローラ + クラウド(Daikin Cloud Service)。
  • 三菱電機 — 東京。ミニスプリット(M系列)、MELCloudアプリ。
  • LG ThinQ Air — 韓国LG電子。家庭用 + 商業用。
  • Samsung Air — 韓国サムスン電子。SmartThings統合。
  • Carrier — 米国。2023年に東芝キヤリアを完全子会社化。
  • Bosch — ドイツ。ヒートポンプ市場に強く参入。

日本メーカーは米国・EUのガスボイラーからヒートポンプへの転換の第一受益者だ。米国IRA補助金とEUグリーンディールがその流れを加速する。


第17章 · エネルギーとESG報告 — Watershed、Persefoni、Sweep、Salesforce Net Zero

ビルデータのもう一つの出口はESG報告だ。この部分は別記事(iter96)で深く扱った。

  • Watershed(watershed.com) — 米国。Stripe・Spotify出身者が創業。ビル + サプライチェーン + Scope 3。
  • Persefoni — 米アリゾナ州。金融・大企業向けに強い。
  • Sweep — フランス・パリ。EU市場。
  • Salesforce Net Zero Cloud — Salesforce Sustainability Cloudの後継。
  • Goby(Conservation Labsが買収) — 不動産ESGに特化。

これらはBASデータをGHGプロトコルScope 1・2(時にScope 3)報告に変換する。EU CSRD、米SEC、韓国ESG開示義務化が需要を作る。


第18章 · ビル情報モデル(BIM) — Autodesk Revit、Forma、Bentley iTwin

BASとは別に設計・施工段階のBIMがある。それが運用段階のデジタルツインの基礎になる。

  • Autodesk Revit — BIMの事実上の標準。2026年版はR2026。
  • Autodesk Forma(2023年〜) — AIベースの初期設計分析(採光、風、入居予測)。
  • Autodesk Tandem — 運用段階デジタルツイン。
  • Bentley iTwin — Bentley Systemsのインフラ・ビルツイン。
  • Trimble — 測量・BIM・施工統合。
  • Graphisoft Archicad — ハンガリー。Revitの代替。

Autodeskは2023-2024年にAI機能をForma・Tandemに集中投入した。NVIDIA OmniverseやCesiumとの提携も強化。


第19章 · 照明AI — Acuity Brands、Signify、Lutron、Helvar

ビルの第二の大型エネルギー消費先は照明だ。AIは入居 + 採光ベースの自動調光に入る。

  • Acuity Brands nLight + Distech Controls — 米国。75F買収によりフルスタックのビル制御企業に変身。
  • Signify Interact — オランダ。旧Philips Lighting。Interact Office、Interact Industry、Interact Cityなど。
  • Lutron Vive — 米国。無線 + クラウド。
  • Helvar — フィンランド。欧州寄り。
  • DALI-2 — Digital Addressable Lighting Interface。照明制御の標準。

LED + 無線 + 入居センサーの統合は新築ビルではほぼ標準だ。古いビルのリトロフィット市場が2026年も大きい。


第20章 · アクセス制御と入居分析 — Brivo、Verkada、VergeSense、Density

ビル運用のもう一つの軸は「誰がいつどこにいるか」だ。

  • HID Global — Assa Abloy傘下。カード・リーダーの標準。
  • Brivo — 米国。クラウドベースのアクセス制御。
  • Genea — 米国。クラウドACS(Access Control System)。
  • Verkada — 米国。CCTV + アクセス制御を統合。2024年シリーズD。
  • VergeSense — 米国。天井のコンピュータビジョンによる入居分析。
  • Density — 米国。レーダーベースの入居カウント。CCTVよりプライバシーで有利。
  • Spaceti — チェコ。入居 + 環境センサー。
  • PointGrab — イスラエル。天井センサー。

コロナ後、「オフィスがどれだけ空いているか」の定量化需要が急増した。VergeSenseとDensityがその波に乗った。


第21章 · ワークプレイス体験 — Robin、Envoy、iOFFICE+SpaceIQ、Comfy

運用者側ではなく社員側のアプリだ。

  • Robin — 米国。デスク・会議室予約。
  • Envoy — 米国。訪問者管理 + デスク予約。
  • iOFFICE+SpaceIQ — 米国。統合ワークプレイス管理(IWMS)。
  • Comfy(Siemens) — 社員主導の自席温度・照明制御。
  • Eden Workplace — 米国。統合ワークプレイス。

「ハイブリッド勤務時代」のオフィス運用ツールだ。不動産資産管理と社員体験が一つのアプリに入る。


第22章 · 韓国スマートビル — サムスンSDS、LG CNS、SK、ポスコICT、現代建設

韓国市場は5強BAS + 国内SI(System Integrator)の二分構造だ。

  • サムスンSDS Brity Cloud Building — サムスン社屋から適用。Niagaraベースのコンサル。
  • LG CNS i.builder — LG社屋の標準BAS。
  • SK Smart Building — SK Telecom・SK C&C協業。板橋(パンギョ)社屋など。
  • ポスコICT — スマートファクトリーとスマートビルの融合。ポスコグループ社屋。
  • 現代建設H-One — 施工 + IoT統合。新築時のBIMから運用までを統合。
  • 韓羅(ハンラ)グループ Visionシリーズ — 機工・建設融合。

韓国市場は5強が機器を供給し、国内SIが統合・運用を担う構造が一般的だ。NiagaraはSI段階で中核となる。

ソウル市の「スマートビル認証制度」(2023年〜)と建築物エネルギー効率等級制度の義務化が市場を引き上げる。


第23章 · 日本のスマートビル — ダイキン、三菱、パナソニック、三井不動産、三菱地所

日本はHVAC製造と不動産運用がどちらも強い市場だ。

  • ダイキン — 世界HVAC1位。自社IoTプラットフォーム Daikin Cloud Service。
  • 三菱電機 — MELCloud + MELSEC iQ-R系列。
  • パナソニック Smart City — Fujisawa SST(サステイナブル・スマートタウン)など。
  • コマツ Smart Construction — 建設 + IoT融合。
  • NTTファシリティーズ — データセンター + 社屋運用。Microsoft Azure提携。
  • 三井不動産 office DX — 東京ミッドタウン、日本橋三井タワー。
  • 三菱地所 マルノウチDX — 丸の内ビル群のデジタル化。

日本市場の特徴は「ビルオーナー自身がデジタル化を主導する」点だ。三井不動産・三菱地所のようなデベロッパーが中核ユーザー。


第24章 · EU・米国の規制 — EPBD、NYC LL97、California Title 24

規制がビルAI市場を引き上げる。

  • EU Energy Performance of Buildings Directive(EPBD) — 2002年初施行、2024年5月改正。2030年までに非住宅16 %エネルギー削減、2050年ZEB義務化。
  • EU Energy Efficiency Directive(EED) — 2023年改正。公共建物に年1.9 %の削減義務。
  • NYC Local Law 97 — 2019年成立、2024年発効。2,500 m²以上の建物にトンあたり268 USDの炭素罰金。
  • California Title 24 — 1978年から更新。2022年版(2023年発効)が強力な電化要求を導入。
  • Boston BERDO 2.0 — ボストン独自の炭素上限。
  • DC Building Energy Performance Standards(BEPS) — ワシントンD.C.。

これらの規制がBrainBox AI、75F、Cohesionなどの市場を作る。「罰金を避けるためにAIを買う」が正直な動機だ。


第25章 · 日韓の規制 — エネルギー効率等級、省エネ法、ZEB

東アジアも規制面で急速に強化される。

  • 建築物エネルギー効率等級(韓国) — 2009年試行、2013年義務化。公共建物は1+++が義務。
  • 緑色建築認証(G-SEED) — 韓国版LEED。
  • 省エネ法(日本) — 1979年初施行、2022年強化。一定規模以上のビルでエネルギー管理が必須。
  • ZEB(Net-Zero Energy Building) — 日本。2030年新築ZEB Ready義務化を検討中。
  • ZEH(Net-Zero Energy House) — 日本の住宅。
  • CASBEE — 日本の建築物環境評価。
  • K-BIM — 韓国BIM標準。2030年公共義務化。

日韓は米国・EUより罰金型の規制は弱いが、「公共発注の義務」で市場を作る。公共建物から先にZEBとBIMが標準になる。


第26章 · サイバーセキュリティ — BASの暗部

ビル自動化はITよりセキュリティが弱い領域として悪名高い。

  • Target侵害(2013年) — HVAC協力会社の認証情報でPOSネットワークに侵入。4,000万枚のカード情報流出。
  • TRITON(2017年) — サウジアラビアの製油所安全システムへの攻撃。産業領域だがBASと同じOTカテゴリ。
  • Verkadaハック(2021年) — 15万台のCCTV映像が流出。
  • Cisco Talos・Clarotyレポート — 2024-2026年でBACnetがインターネット上に数万台公開されている。
  • BACnet/SCの採用 — セキュア版の採用は遅く、新築中心。

ビルサイバーセキュリティは「エアギャップ前提」が崩れた領域だ。クラウドBASの増加がリスクを拡大する。


第27章 · デジタルツイン — NVIDIA Omniverse、Cesium、ArcGIS Indoors

設計・施工のBIMが運用段階のデジタルツインへ広がる。

  • NVIDIA Omniverse — USDベースの産業・ビルシミュレーション。iter71で深く扱った。
  • Cesium — 3D地理空間。都市単位。
  • Esri ArcGIS Indoors — 屋内GIS。
  • Autodesk Tandem — Revitデータを運用段階に持ち込む。
  • Bentley iTwin — インフラ + ビル。
  • Matterport — 3Dスキャン。2022年CoStarが買収。

デジタルツインは「人が仮想ビルを歩いて点検する」道具だ。グローバルポートフォリオを持つ多国籍企業が最も積極的なユーザー。


第28章 · まとめ — 2026年5月の一行結論

5分でまとめる。

  • BAS 5強 — Honeywell、JCI、Siemens、Schneider、Traneが機器と統合を担う。
  • ミドルウェア — Niagaraがベンダー中立の標準。日韓のSIもほぼすべてNiagara認証。
  • セマンティクス — HaystackとBrickがデータの意味を捉える。ASHRAE 223Pが統合を進める。
  • AIスタートアップ — BrainBox AI、75F、Cohesion、PassiveLogicが5強の上にAIを載せる。
  • HVACメーカーのAI — ダイキン、三菱、LG、SamsungがAIを機器側に降ろす。
  • 規制 — EU EPBD、NYC LL97、California Title 24、日本省エネ法、韓国エネルギー効率等級制度が市場を引く。
  • デジタルツイン — NVIDIA OmniverseとAutodesk Tandemが運用 + シミュレーションを結合する。

次回はビルとデータセンターの境界が曖昧になる「AIデータセンターインフラ」の流れを見る。


参考資料