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セルフホスト・メディア & ホームラボ 2026 — Jellyfin / Immich / Navidrome / Audiobookshelf / arr スタック / Tdarr 徹底ガイド

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プロローグ — 2025 年の亀裂、2026 年の再編

2025 年の春、Plex は値上げとリモートストリーミングの有料化を同日に発表した。「自宅のサーバーにある自分のコンテンツを、自分の電話で外から見るのに、なぜ別途お金を払うのか」という問いが r/selfhosted と r/Plex を一週間ほど埋め尽くし、その翌週には Jellyfin の Wiki と GitHub Issue トラッカーが過去最高のトラフィックを記録した。コミュニティはこれを「Plex エクソダス」と呼ぶようになった。

幸運なタイミングで、Jellyfin はちょうど 10.10 リリースを安定段階に押し上げていた。AV1 デコード、Intel Arc / N100 iGPU のハードウェアトランスコード、HDR トーンマッピング、Trickplay サムネイル — Plex が有料機能として抱えていた要素のほとんどが、オープンソース陣営で無料で動き始めた。

本稿はその亀裂を経て、2026 年 5 月時点で形を整えたセルフホスト・メディア・ホームラボの地図を描く。動画(Jellyfin / Plex / Emby)、写真(Immich / Photoprism)、音楽(Navidrome)、オーディオブック(AudioBookshelf)、コミックと電子書籍(Komga / Kavita)、自動化(arr スタック)、トランスコード(Tdarr / Unmanic / FileFlows)、そしてハードウェアとリモートアクセスまで。

読み終わる頃には、N100 ミニ PC 一台でどこまでいけるのか、一台の NAS で家族全体のメディアインフラをどこまで持ち上げられるのか、そしてそのコストが Netflix の年額より安いという事実が見えてくる。


1. 2026 年のセルフホスト地図 — Plex 騒動の後

2026 年 5 月時点で、セルフホスト・メディア・スタックは大まかに次のように整理される。

カテゴリ代表ツールライセンス一言評価
動画サーバJellyfinGPL2026 年の標準。Plex 代替の第一候補
動画サーバPlex商用UX は依然首位、ただし有料化加速
動画サーバEmby一部商用中間地帯、勢いは減退
写真ライブラリImmichAGPLGoogle Photos 代替の事実上の正解
写真ライブラリPhotoprismAGPL静的ギャラリーに強い
音楽NavidromeGPLSubsonic 互換、Spotify ライク
オーディオブックAudioBookshelfGPLオーディオブック + ポッドキャスト
コミックKomgaMITCBZ / CBR 専門、OPDS 対応
コミック + 書籍KavitaGPLコミック + 電子書籍 + マンガを統合
自動化Sonarr / Radarr などGPLメディア自動化の背骨
インデクサProwlarrGPLarr スタックのインデクサ集約点
字幕BazarrGPL字幕の自動取得
リクエストJellyseerrMITJellyfin / Plex 統合リクエスト
リクエストOverseerrMITPlex 専用リクエスト
ダウンロードqBittorrentGPLトレントの事実上の標準
ダウンロードSABnzbd / NZBGetGPLUsenet クライアント
トランスコードTdarr / UnmanicGPLライブラリ一括トランスコード
トランスコードFileFlows一部商用ワークフロー型
整理FileBot商用ファイル名正規化の最右翼
ガイドTRaSH-GuidesCC BY-NC-SAarr 品質プロファイルの聖典

この表だけ見てもひとつの変化が浮かぶ。2026 年のセルフホスト・メディアのほぼすべての中核ツールが、GPL / AGPL / MIT のような強いオープンソースライセンスの下に集まった。 Plex が無料から段階的有料化へ移る間、オープンソース陣営は逆方向に — かつて Plex だけが上手かった領域を追い抜く方向に — 歩を進めた。

2026 年型ミニマム・ホームラボ

部屋を一室占有せずに家族用メディアインフラを回したい人の基本構成は、たいてい次のようになる。

  • N100 または N305 ミニ PC、16 GB RAM、1 TB NVMe + 外付け 8 TB HDD
  • Proxmox VE または Ubuntu 24.04 + Docker Compose
  • Jellyfin + Immich + Navidrome + AudioBookshelf + arr スタック 5 種 + qBittorrent + Tdarr
  • Gluetun コンテナで VPN 分離(Mullvad または ProtonVPN)
  • Tailscale + (任意で) Cloudflare Tunnel でリモートアクセス
  • Borg / Restic で毎日外付け、毎週クラウド(B2 / R2)へ遠隔バックアップ

ハードウェア合計でおよそ 5 万 ~ 7 万円 + ディスク。電気代は N100 で平均 8 ~ 12 W、月数百円程度。Netflix + Disney+ + Apple Music + Audible の合算より安く、1 年で確実に回収できる。


2. Jellyfin 10.10 — ようやく安定したトランスコード

Jellyfin は長らく「理論上は Plex と同等、実運用ではトランスコードで壊れる」と言われてきた。2024 ~ 2025 年の 10.9 / 10.10 系でその評価が反転した。

10.10 が持ち込んだ変化

  • Intel QSV(Quick Sync)の全面刷新。 N100 / N305 / Arc A380 の AV1・HEVC デコードが安定。N100 一台で 1080p H.264 トランスコードを同時 6 ~ 8 ストリーム保持できる。
  • HDR → SDR トーンマッピングの改善。 Dolby Vision Profile 7 BL+EL、HDR10+ が一貫して SDR に落ちる。NVIDIA・Intel・AMD の各加速が動く。
  • Trickplay サムネイル。 タイムラインをホバーするとプレビューが出る、Plex が長らく自慢していた機能。
  • 背景アート・複数カラーテーマ。 ライブラリに入るとシリーズアートが背景に。Plex とのビジュアルギャップが縮まった。
  • SyncPlay の安定化。 友人や家族との同時視聴セッションが切れない。
  • モバイルクライアント。 Android の Findroid、iOS の Swiftfin が公式モバイルアプリの隙を埋める。

Docker Compose 一発で起動

# docker-compose.yml
services:
  jellyfin:
    image: jellyfin/jellyfin:10.10.4
    container_name: jellyfin
    user: '1000:1000'
    network_mode: host
    volumes:
      - ./config:/config
      - ./cache:/cache
      - /mnt/media/movies:/media/movies:ro
      - /mnt/media/tv:/media/tv:ro
      - /mnt/media/music:/media/music:ro
    devices:
      - /dev/dri:/dev/dri # Intel QSV / AMD VAAPI
    restart: unless-stopped
    environment:
      - JELLYFIN_PublishedServerUrl=https://jellyfin.example.com

/dev/dri をコンテナにパススルーする一行が、N100・Arc・iGPU のトランスコードを点灯する。ホストネットワークモードにしているのは DLNA 検出のため。

N100 で並列トランスコードは本当に回るか

ベンチを一息で。1080p H.264 + AAC のダイレクトプレイは無制限。4K HEVC HDR → 1080p H.264 SDR トランスコードは、N100 単体で同時 1.5 ~ 2 ストリームが限界。Arc A380(およそ 1 万 5 千円の外付け GPU)を入れると同時 6 ~ 8 ストリームに跳ねる。4K Dolby Vision Profile 7 は依然厄介なので、クライアント側でダイレクトプレイ可能な形式を選んでおくのが現実解。

Jellyfin がまだ弱いところ

  • 公式モバイル UI は依然 Plex より粗い。Findroid / Swiftfin が埋める。
  • メタデータ照合 は TMDB / TVDB ベースで充分だが、韓国・日本コンテンツでノイズが多い。AniDB プラグインやカスタムマッチャが必要。
  • 公式ライブ TV 統合 は可能だが Plex 並みではない。
  • ペアレンタル / ポリシー は基本機能はあるが、Plex のポリシーエンジンには及ばない。

Plex から Jellyfin へ移行する際のチェックリスト

  • ライブラリのフォルダ構造はそのままマウントし、ファイルを動かさない。
  • ファイル名を TRaSH-Guides 推奨フォーマットに整える。
  • 初回スキャンで TMDB / TVDB メタデータを取り直すので時間がかかる。
  • ユーザーアカウントは手動で再作成。視聴履歴は jellyfin-plex-watched-sync のようなサードパーティで移行可能。
  • 字幕は Bazarr に一度任せ直す方が速い。

3. Plex 2025 騒動の整理 — 何が変わったか

Plex は 2025 年 4 月にふたつのことを同時に発表した。

  1. Plex Pass の値上げ。 月額・年額・買い切りすべてが 30 ~ 50% 上昇。
  2. リモートストリーミングの有料化。 これまで無料だった「自宅サーバへ外部から接続して視聴」する機能が、Plex Pass か新設の Remote Watch Pass のサブスクライバ限定に。

論点の中心は二番目だった。セルフホスト・メディアサーバの存在意義そのものが「自分のデータを自分の端末で、どこからでも」だったのに、その核心にゲートが立てられた。r/selfhosted で最も引用されたコメントはこんな感じだった。

自分の回線、自分の電気、自分のディスク、自分のファイル。その上で外から見るのに Plex に金を払う必要があるのか? それなら最初から Plex である必要がないだろう。

それでも Plex が強いところ

公平を期せば、Plex には今でも光る点がある。

  • 公式モバイル / TV アプリの完成度。 Apple TV、Roku、Fire TV、Tizen、webOS、PlayStation、Xbox — 最も広い公式クライアント網。
  • DVR とライブ TV 連携。 アンテナ + HDHomeRun の組み合わせが最も滑らか。
  • Plex Watch Together と Discover。 Jellyfin にはない社交機能。
  • 多言語のメタデータ照合。 韓国・日本のコンテンツでも安定した結果。

Plex に残るのが合理的な場合

  • 家族の誰かが既に Apple TV / Roku の Plex アプリに慣れていて、Jellyfin の学習曲線を払う気がない。
  • すでに買い切りの Plex Pass を持っていて追加コストがない。
  • DVR / ライブ TV が重要。
  • ライブラリが韓国コンテンツ中心で、メタデータが壊れるのが大きなストレス。

Plex から離れるのが合理的な場合

  • リモートストリーミングが核心なのに、Pass の追加コストを負担したくない。
  • ライセンス管理 / データ主権そのものが目的。
  • N100 / Arc などの最新ハードウェアアクセラレーションを完全に使いたい。
  • クライアント環境がウェブ + モバイル + Android TV で十分。

Emby の立ち位置

Emby は Plex と Jellyfin の間に挟まっている。コアは部分的なオープンソース、主要機能の一部は Emby Premiere の有料購読。2026 年時点で Emby の勢いは明らかに減速し、オープンソース側の新規貢献はほとんど Jellyfin に流れている。既に Emby で快適に動いているサーバの持ち主だけが残るムードだ。


4. Immich — Google Photos 代替の正解

写真は動画とは別カテゴリだ。日々追加されるデータ量、バックアップの切実さ、家族単位の共有、そして — Google Photos の無料時代が終わって以降の — 真剣な代替への需要がすべて重なった。2026 年時点でその座を事実上独占しているのが Immich だ。

Immich が得意なこと

  • iOS / Android 公式アプリの完成度。 自動アップロード、バックグラウンド同期、オリジナル保存、ロックスクリーンウィジェット。
  • 顔認識と機械学習。 人・場所・物体を自動タグ付け。CLIP 埋め込みによる意味検索(「海上の夕日」と入れると本当にそれが出る)。
  • EXIF 保持 + 地図ビュー。 撮影座標が残るので旅のタイムラインが描ける。
  • 共有アルバムと外部ライブラリ。 家族用アルバム、NAS の既存写真フォルダを外部ライブラリとしてマウント。
  • 速度。 Postgres + Redis ベース。5 万枚規模でも滑らかにスクロール。

Compose の抜粋

services:
  immich-server:
    image: ghcr.io/immich-app/immich-server:release
    container_name: immich_server
    volumes:
      - /mnt/photos:/usr/src/app/upload
      - /etc/localtime:/etc/localtime:ro
    env_file: .env
    depends_on:
      - redis
      - database
    ports:
      - '2283:2283'
    restart: always

  immich-machine-learning:
    image: ghcr.io/immich-app/immich-machine-learning:release
    container_name: immich_ml
    volumes:
      - ./model-cache:/cache
    env_file: .env
    restart: always

  redis:
    image: redis:7-alpine
    container_name: immich_redis
    restart: always

  database:
    image: ghcr.io/immich-app/postgres:14-vectorchord0.3.0-pgvectors0.2.0
    container_name: immich_postgres
    env_file: .env
    volumes:
      - ./postgres:/var/lib/postgresql/data
    restart: always

Postgres には pgvector / vectorchord 拡張が同梱されている。これが CLIP 埋め込みのコサイン類似度検索を駆動する部分。

運用上の落とし穴

  • 初回起動で機械学習モデルを数 GB ダウンロードする。 model-cache ボリュームをマウントして再起動時に再取得しないようにする。
  • バックアップは利用者の責任。 Immich は RAID でもバックアップでもない。ライブラリと Postgres の両方を取らないと復旧できない。
  • 顔認識は CPU でも動くが GPU だと 30 ~ 50 倍速い。 N100 で 1 万枚は数日、GPU 付きなら数時間。
  • 外部ライブラリ(read-only)とアップロードライブラリ(read-write)を混ぜない。 意図せず書き込みを許すと EXIF を壊しかねない。

Immich vs Photoprism vs PhotoStructure

項目ImmichPhotoprismPhotoStructure
ライセンスAGPLAGPL商用
モバイル優秀普通弱い
意味検索CLIP、強いTensorFlow、普通弱い
バックエンドPostgres + pgvector + RedisMariaDBSQLite
運用負荷
勢い非常に活発普通減速

Photoprism は「写真をカタログとして眺めたい、モバイル自動バックアップは別ツールで」という人には今も魅力的。PhotoStructure は複数ライブラリのマージに強いが、2026 年時点で勢いは低い。


5. Navidrome / AudioBookshelf — 音楽とオーディオブック

Subsonic API 互換の音楽サーバ。Spotify ライクな UX を自前のライブラリに重ねる。

  • Subsonic 互換 — Substreamer、play:Sub、Symfonium、Sublime Music、DSub など多数のクライアントがそのまま動く。
  • 高品質メタデータ — MusicBrainz Picard で整理したライブラリと相性が良い。
  • スマートプレイリスト — ルールベースの自動生成。
  • Last.fm / ListenBrainz スクロブル — 視聴履歴のバックアップ。
  • 2026 年の更新 — Last.fm / ListenBrainz インポート、トランスコード改善、通知システム。
services:
  navidrome:
    image: deluan/navidrome:latest
    user: 1000:1000
    ports:
      - '4533:4533'
    environment:
      ND_LOGLEVEL: info
      ND_SESSIONTIMEOUT: 24h
      ND_BASEURL: ''
      ND_SCANSCHEDULE: '@every 6h'
      ND_LASTFM_ENABLED: 'true'
    volumes:
      - ./data:/data
      - /mnt/music:/music:ro
    restart: unless-stopped

フォルダ構造は Artist / Album / 01 - Track.flac が最も無難。メタデータを MusicBrainz Picard で一度正規化してから Navidrome に投入すると非常に綺麗にまとまる。

AudioBookshelf

オーディオブックとポッドキャストの統合サーバ。Plexamp が苦手な領域。

  • M4B / MP3 / FLAC のオーディオブックを自動章分け。
  • ポッドキャスト購読 + ダウンロード。
  • ブックマーク、進捗同期、スリープタイマー。
  • iOS / Android 公式アプリ。
  • メタデータ照合 — Audible / Google Books / Audnexus。

オーディオブックはファイルが大きい — 1 タイトルで 1 ~ 2 GB は普通。NAS の専用パスに置いて読み取り専用でマウントする。

services:
  audiobookshelf:
    image: ghcr.io/advplyr/audiobookshelf:latest
    ports:
      - '13378:80'
    volumes:
      - /mnt/audiobooks:/audiobooks
      - /mnt/podcasts:/podcasts
      - ./config:/config
      - ./metadata:/metadata
    environment:
      - TZ=Asia/Tokyo
    restart: unless-stopped

Plexamp / Subsonic の位置

Plex ユーザにとって Plexamp は今でも最上位の体験だ。ただ Navidrome + 良質な Subsonic クライアントの組み合わせがほぼ追いついた、というのが 2026 年時点のコンセンサス。


6. Komga / Kavita — コミックと電子書籍

コミックと電子書籍のセルフホストは、ほぼ二強で分け合っている。

Komga

  • コミック特化 — CBZ / CBR / PDF / EPUB。
  • OPDS 対応 — Panels、Chunky、Paperback などの外部リーダーから接続可能。
  • シリーズメタデータ — ComicVine、Mylar3、GCD と連携。
  • 読書進捗同期。
  • ユーザー / 書籍ごとのアクセス制御。

Kavita

  • コミック + 電子書籍 + マンガを一本化。 Komga がコミック特化なら、Kavita は本・マンガ・学習資料まで広く。
  • OPDS 対応。
  • 読書進捗同期。
  • 複数ライブラリと細かい権限モデル。
  • モバイル向けのウェブリーダー。

選択基準はシンプル。コミック中心なら Komga。コミック + 電子書籍 + 雑誌が混在するなら Kavita。両方を立てて種別ごとにライブラリを分ける人も多い。

services:
  komga:
    image: gotson/komga:latest
    ports:
      - '25600:25600'
    volumes:
      - ./config:/config
      - /mnt/comics:/data
    environment:
      - TZ=Asia/Tokyo
    restart: unless-stopped

  kavita:
    image: jvmilazz0/kavita:latest
    ports:
      - '5000:5000'
    volumes:
      - ./kavita-config:/kavita/config
      - /mnt/books:/books
    environment:
      - TZ=Asia/Tokyo
    restart: unless-stopped

電子書籍の変換と整理

書籍ライブラリではファイル形式が重要。Calibre を別途立てて EPUB 正規化・メタデータ整理・表紙画像の手入れに使う人が多い。さらに Calibre-Web を被せると洗練されたウェブ OPDS が手に入る。


7. arr スタック — Sonarr / Radarr / Lidarr / Readarr / Prowlarr / Bazarr

2026 年でも arr スタックは依然としてメディア自動化の背骨だ。形は同じ、関節がより頑丈になっただけ。

役割分担

ツール担当一言
SonarrTV シリーズ新エピソードの自動追跡とダウンロード
Radarr映画映画コレクションの自動管理
Lidarr音楽アーティストとアルバムの追跡
Readarr電子書籍 + オーディオブック2026 年現在もアクティブな fork が進行中
WhisparrアダルトRadarr の派生
Prowlarrインデクサ集約すべての arr 用インデクサの単一入口
Bazarr字幕の自動取得Sonarr / Radarr のライブラリと同期

全体フロー

リクエストシステムやウィッシュリストに項目を入れる → arr ツールが Prowlarr 経由でインデクサを検索 → ダウンロードクライアント(qBittorrent / SABnzbd)にジョブを投入 → 完了後に正規化された名前で import パスへ → ライブラリリフレッシュ → Bazarr が字幕を取得 → Jellyfin や Plex がメタデータを再読込。

Prowlarr の変革

以前は Sonarr / Radarr / Lidarr のそれぞれにインデクサを別個に登録する必要があった。Prowlarr はそれをひとつのハブに集約する。インデクサを一度追加すれば、すべての arr に自動同期される。パスワード、Cookie、RSS URL を一箇所で管理できる。

Bazarr — 字幕の決定版

Sonarr / Radarr のライブラリに追従し、OpenSubtitles、Subscene、Addic7ed、Subdivx などから字幕を自動取得する。言語優先順位(例: 日本語 → 英語 → 韓国語)、スコア閾値、強制字幕の扱い、同期補正まで — 多言語家族なら事実上必須。

docker-compose の一節

services:
  sonarr:
    image: lscr.io/linuxserver/sonarr:latest
    environment:
      - PUID=1000
      - PGID=1000
      - TZ=Asia/Tokyo
    volumes:
      - ./sonarr/config:/config
      - /mnt/media:/media
      - /mnt/downloads:/downloads
    ports:
      - '8989:8989'
    restart: unless-stopped

  radarr:
    image: lscr.io/linuxserver/radarr:latest
    environment:
      - PUID=1000
      - PGID=1000
      - TZ=Asia/Tokyo
    volumes:
      - ./radarr/config:/config
      - /mnt/media:/media
      - /mnt/downloads:/downloads
    ports:
      - '7878:7878'
    restart: unless-stopped

  prowlarr:
    image: lscr.io/linuxserver/prowlarr:latest
    environment:
      - PUID=1000
      - PGID=1000
      - TZ=Asia/Tokyo
    volumes:
      - ./prowlarr/config:/config
    ports:
      - '9696:9696'
    restart: unless-stopped

  bazarr:
    image: lscr.io/linuxserver/bazarr:latest
    environment:
      - PUID=1000
      - PGID=1000
      - TZ=Asia/Tokyo
    volumes:
      - ./bazarr/config:/config
      - /mnt/media:/media
    ports:
      - '6767:6767'
    restart: unless-stopped

最大の落とし穴 — ハードリンクとフォルダ構造

初めて arr スタックを組む人が最も詰まる箇所だ。ダウンロードフォルダとメディアフォルダが同じファイルシステム上に存在しないとハードリンクが張れず、シードを続けながらライブラリにも同居できなくなる。推奨構造:

  • /data/torrents/movies、/data/torrents/tv、/data/torrents/music
  • /data/media/movies、/data/media/tv、/data/media/music

コンテナには /data 全体をマウントする。/data/torrents と /data/downloads を分けるとハードリンクが切れる。


8. Jellyseerr / Overseerr — リクエストシステム

家族から「この映画を入れて」というリクエストをどこで受けるか。Slack や LINE で受けると忘れる。その隙を埋めるのがリクエストシステム。

Overseerr — Plex 出身

  • TMDB / TVDB 統合検索。
  • Plex ユーザー連携 — 家族全員が自分の Plex アカウントでログイン。
  • Sonarr / Radarr / Lidarr と直接接続 — 承認した瞬間にライブラリへ追加。
  • 通知(Discord、Telegram、Slack、Email、Pushover)。

Jellyseerr — Overseerr の fork、Jellyfin / Emby 対応

  • Overseerr のすべて + Jellyfin / Emby のユーザー認証。
  • 2026 年時点で本家 Overseerr より活発。
  • Jellyfin と Plex のマルチバックエンドを並行運用する人には必須。

運用のコツ

  • 自動承認 vs 手動承認 — 家族単位なら自動で楽。友人にも開けるなら手動。
  • ユーザーごとの quota — 一人がキューを食い尽くさないように。
  • 4K ライブラリは別インスタンスへ — Sonarr-4K / Radarr-4K。ダイレクトプレイ可能な人だけに公開。
  • 通知は Discord の Webhook がいちばん綺麗 — 新規リクエスト、承認、ダウンロード完了まで一チャンネル。

9. qBittorrent / SABnzbd — ダウンロードクライアント

qBittorrent

トレントクライアントの事実上の標準。軽く、カテゴリとタグの仕組みが arr スタックと噛み合い、ウェブ UI がシンプル。

  • カテゴリ = フォルダ = arr の対応付け — sonarr カテゴリは /downloads/sonarr、radarr は /downloads/radarr。
  • シード比率 / 時間の制限。
  • プライベートトラッカーの必須シード時間 — 注意が必要。
  • 帯域スケジュール。
  • ポートフォワード — VPN コンテナ運用時には極めて重要。

Gluetun — VPN コンテナのパターン

services:
  gluetun:
    image: qmcgaw/gluetun
    cap_add:
      - NET_ADMIN
    devices:
      - /dev/net/tun:/dev/net/tun
    environment:
      - VPN_SERVICE_PROVIDER=mullvad
      - VPN_TYPE=wireguard
      - WIREGUARD_PRIVATE_KEY=$$WIREGUARD_PRIVATE_KEY
      - SERVER_CITIES=Stockholm
    ports:
      - '8080:8080' # qBittorrent webui
      - '6881:6881' # torrent traffic
      - '6881:6881/udp'
    restart: unless-stopped

  qbittorrent:
    image: lscr.io/linuxserver/qbittorrent:latest
    network_mode: 'service:gluetun'
    depends_on:
      - gluetun
    environment:
      - PUID=1000
      - PGID=1000
      - WEBUI_PORT=8080
    volumes:
      - ./qbittorrent/config:/config
      - /data/torrents:/data/torrents
    restart: unless-stopped

qBittorrent のすべてのネットワークを Gluetun の VPN トンネルに強制する。Gluetun が落ちると qBittorrent はインターネットを失う — 事実上の Kill Switch。

SABnzbd / NZBGet — Usenet

Usenet はトレントとは別世界だ。インデクサ加入と Usenet プロバイダ加入(SuperNews、Newshosting、Eweka など)が必要だが、回線を埋め切る速度が安定して出る、シード義務がない、追跡リスクがほぼ無いという長所がある。

  • SABnzbd — フレンドリーな UI、後処理が強い。
  • NZBGet — より軽量で速いが UX は粗い(2024 年以降は fork が再び活発)。

10. Tdarr / Unmanic / FileFlows — トランスコード自動化

ライブラリが育つとディスクが悲鳴を上げる。8K Blu-ray リメイク 1 本で 80 GB、シリーズ 1 シーズンで 200 GB。さらに家族の誰かのクライアントが H.264 しか対応していなければリアルタイムトランスコードが CPU を焼く。答えは事前一括トランスコード。

Tdarr

  • ライブラリ全体をスキャンしてポリシーに合わないファイルを抽出。
  • HEVC 変換、AV1 変換、字幕抽出、トラック整理。
  • 分散ノード — 複数マシンに割り振り可能。
  • 強力な統計とダッシュボード。

Unmanic

  • 単一ノード中心のシンプルなツール。
  • ワークフローが直感的。
  • Tdarr より軽量だが分散は弱い。

FileFlows

  • ワークフロー(ノード + エッジ)型 — パイプラインを視覚的に組む。
  • 部分商用(完全無料 + ノード拡張で有料ライセンス)。

ポリシー例 — ライブラリ標準化

  • すべての動画は HEVC 10-bit、AV1 または HEVC のみ保持。
  • 音声トラックは日本語 + 英語のみ、それ以外は削除。
  • 字幕は PGS を OCR で SRT に変換し、ASS はそのまま残す。
  • 結果ファイルが原本より小さいときのみ置換(品質後退の防御)。

これをポリシーとして Tdarr に焼き込めば、5 TB ライブラリが 1 ヶ月で 2.5 TB になる。ただしエンコード = CPU / GPU 時間 = 電気 = 壁時計の日数。N100 単体で 4K HEVC は 1 本数日。NVIDIA NVENC 付き GPU か Arc A380 クラスが必要。

FileBot — 整理の最終兵器

FileBot はエンコーダではなく「ファイル名 / フォルダ構造の正規化」ツール。arr スタックが自動検出できない古いライブラリ、韓国・日本作品のコレクション、家族のホームビデオなどを一気に整える。商用ライセンスだが買い切り。


11. TRaSH-Guides — arr 設定の聖典

TRaSH-Guides(https://trash-guides.info)は arr スタックの品質・命名・フォルダ構造を整理したコミュニティガイドだ。2026 年時点、arr スタックを真剣に運用している人の大半がこのガイドに従っている、と言ってまず差し支えない。

何が整理されているか

  • 品質プロファイル — WEB-DL、BluRay、Remux などのソースをどう優先するか。
  • Custom Format — 日本語字幕、HDR10、Dolby Vision、Atmos などをスコアで扱う。
  • ファイル名フォーマット — Sonarr / Radarr のリネームトークン。
  • フォルダ構造 — ハードリンクが切れないレイアウト。
  • Quality Definitions — 1080p / 4K のサイズ上限・下限。
  • Recyclarr — 上記をコードとして同期するツール。

Recyclarr — arr 設定を YAML で

# recyclarr.yml
sonarr:
  main:
    base_url: http://sonarr:8989
    api_key: !env_var SONARR_API_KEY

    quality_definition:
      type: series

    custom_formats:
      - trash_ids:
          - 9b27ab6498ec0f31a3353992e19434ca # WEB-DL
          - 6a7b462c80caa912f46c8c6e1eb0a31f # Japanese
        quality_profiles:
          - name: WEB-1080p

radarr:
  main:
    base_url: http://radarr:7878
    api_key: !env_var RADARR_API_KEY

    quality_definition:
      type: movie

Recyclarr を cron で毎日回せば、TRaSH-Guides の最新推奨が自動的に arr インスタンスへ反映される。インスタンスが増えるほど価値が増す。

入門者向け 5 ステップ

  1. フォルダ構造を TRaSH 推奨に統一(/data/media、/data/torrents)。
  2. Sonarr / Radarr のファイル名フォーマットを TRaSH に合わせる。
  3. キーになる Custom Format を 1 ~ 2 件追加(例: x265 ペナルティ、日本語、HDR10)。
  4. WEB-1080p または BluRay-2160p などの基本プロファイルからスタート。
  5. Recyclarr を導入して以後の更新を自動化する。

12. ハードウェア — N100 / Synology / UnRAID / TrueNAS Scale / Proxmox

N100 / N305 ミニ PC — 2026 年の標準

Intel N100 / N305 のミニ PC が 2024 ~ 2025 年に爆発的に普及した。Beelink、MINISFORUM、GMKtec、ASUS NUC 11 ~ 14 が主流。

  • 8 ~ 16 GB RAM、512 GB ~ 2 TB NVMe、2.5 GbE。
  • TDP 6 ~ 15 W。フルロードでも 25 W を超えない。
  • iGPU = Intel UHD = QSV。4K HEVC トランスコードが可能。
  • 価格 3 万 ~ 5 万円。

家族用メディアサーバとしては単体で十分。SATA スロットは少ないので、外付け USB HDD か別途 NAS と組み合わせる。

Synology — 依然強いが変化あり

Synology は 2025 年に 7 世代の発表と、一部モデルでの自社 HDD 互換性制限の強化で議論を呼んだ。2026 年時点で:

  • 依然として家庭用 NAS の筆頭 — UX、モバイル、安定性。
  • Container Manager(旧 Docker パッケージ)で arr スタックと Jellyfin を一括収容。
  • 自社 HDD 制限はモデルとファームウェアで挙動が異なる — 購入前に確認必須。
  • DSM 7.x の Active Backup、Hyper Backup は今も強力。

UnRAID — メディアホームラボの事実上の標準

UnRAID は異容量 HDD の混在、ディスク単位のスピンダウン、ZFS オプションまで備えた NAS OS。メディアホームラボで最人気の選択肢。

  • ライセンスは買い切りまたは年額。2024 年の価格改定後も合理的。
  • Docker / VM / プラグインの統合 UI。
  • Community Applications マーケット — arr スタック、Jellyfin、Immich、AudioBookshelf までほぼワンクリック。
  • Tdarr ノード、Plex / Jellyfin の GPU パススルーも UI から設定可能。

TrueNAS Scale — ZFS 陣営の答え

ZFS ベースの NAS OS。データの完全性・スナップショット・レプリケーションに本気の人の選択肢。

  • 2024 年に Core(FreeBSD)から Scale(Linux / Debian 系)へ重心移動。
  • Apps は TrueCharts から自社カタログへ整備。
  • コンテナ + Kubernetes(k3s)ベースでアプリ実行 — UnRAID より学習曲線が高い。
  • メディアよりデータ保全が最優先の人向け。

Proxmox VE — 仮想化の王

メディアよりも「複数の VM とコンテナを 1 ホストに集約したい」場合は Proxmox。

  • KVM + LXC の統合管理。
  • ZFS / Ceph 対応。
  • バックアップ / レプリケーション / HA。
  • NAS + メディアサーバ + Home Assistant を一台にまとめる構成向け。

ディスク — RAID はバックアップではない

これはセルフホストの戒律のひとつ。

  • RAID(または ZFS RAIDZ)は可用性のためであって、バックアップではない。
  • バックアップは別ディスクへ — できれば外付け + クラウドの二重化。
  • Borg / Restic / Kopia のいずれかで毎日増分バックアップ。
  • Backblaze B2、Cloudflare R2 など安価な S3 互換ストレージで遠隔複製。
  • 四半期に一度はリストアの実演をする。

13. リモートアクセス — Tailscale / Cloudflare Tunnel / WireGuard

Tailscale — 最初の選択

9 割の人はここで終わる。

  • すべての端末にクライアントを入れて同じアカウントでログインすると 100.x.y.z の私的 IP が自動で振られる。
  • ポート開放、DDNS、証明書更新がすべて消える。
  • MagicDNS で my-jellyfin.tailnet.ts.net のような名前が使える。
  • Tailscale SSH が SSH 鍵管理まで吸収する。
  • 無料枠は端末 100 台 / ユーザー 3 名(2026 年時点で維持)。

Cloudflare Tunnel — 公開が必要なとき

家族以外の友人に共有する必要があるとき — 例えば友人用の Jellyseerr、公開ブログ。サーバに cloudflared を立てると、Cloudflare がドメインの背後で自宅サーバへ安全にリレーする。

  • ポート開放ゼロ。
  • Cloudflare 側で DDoS 対策、ボット対策、TLS。
  • Access ポリシーで SSO、メール OTP、Google Workspace 認証。

素の WireGuard

最も軽く速い VPN プロトコル。Tailscale も内部で WireGuard を使う。素で運用するなら鍵配布、ハンドシェイク、動的 DNS を自前で背負う必要がある。2026 年時点では大多数のセルフホスタが Tailscale または Netbird へ移行済み。

推奨組み合わせ

  • 自分と家族 — Tailscale のメッシュ VPN。
  • 友人に共有 — Cloudflare Tunnel + Access(メール OTP)。
  • 完全公開(ブログ / Wiki) — Cloudflare Tunnel + WAF。
  • 絶対に公開しない(arr 管理画面 / qBittorrent webui) — Tailscale 内のみ。

14. 韓国 / 日本のホームラボ事情

韓国

  • Synology が強い — DS218+ / DS220+ / DS920+ / DS923+ が家庭用 NAS の中核。
  • N100 ミニ PC の人気が爆発 — 通販で 3 ~ 4 万円台。
  • 外付け HDD + NAS の組み合わせ — Synology にデータ、N100 に Docker + Jellyfin。
  • ギガビットインターネットが標準 — 1 Gbps 対称回線が普通。リモートストリーミングの上り帯域問題は無い。
  • 字幕文化 — 韓国語字幕の照合が難しく、Bazarr に追加の韓国語字幕インデクサが事実上必須。
  • クライアント — Apple TV、Shield TV、Android TV ボックスが主流。LG / Samsung スマート TV 内蔵 Plex / Jellyfin アプリを使う層もいる。

日本

  • QNAP / Synology の二強 + 自作層 — DIY のホームサーバ文化が根強い。
  • Raspberry Pi 5 の復権 — Pi 5 + Pi NVMe HAT で小型メディアサーバが現実的に。
  • アニメ専用ライブラリ — Sonarr の代わりに Sonarr-anime フォーク、Anilist マッチャを使う。
  • メタデータマッチャ — AniDB、AniList プラグインは事実上必須。
  • モバイル / 衛星回線 — 光ファイバ + 5G ルータのテザリングで運用する人もいる。回線自体はボトルネックではない。
  • クライアント — TVer / Abema は独立した生態系。Jellyfin は補助的位置付け。

両国に共通

  • 電気代が米国より高く、N100 級の低消費電力構成が好まれる。
  • 居住空間が狭く、大型 NAS タワーより N100 + 外付け HDD 1 ~ 2 台が現実的。
  • データ主権 / プライバシー意識は米国より低かったが、Google Photos 有料化と Plex 騒動以降で急速に上昇している。

15. セキュリティ / バックアップ / 運用 — 忘れると後悔する 5 つ

  1. VPN コンテナの Kill Switch を検証する。 Gluetun を落としたときに qBittorrent が ISP に漏れないかを月に一度確認。
  2. バックアップ = 3-2-1。 原本 1 + 別ディスク 1 + クラウド 1。四半期に一度はリストア演習。
  3. ログとアラート。 Watchtower によるコンテナ自動更新は危険。Diun で通知だけ受け、手動で確認するのが安全。
  4. 証明書 / トークンの期限。 Bazarr / Sonarr の API キー、Cloudflare API トークン、WireGuard 鍵 — 別個の vault で管理。
  5. 法的なグレーゾーン。 セルフホスト・メディアの一部ワークフロー(特にインデクサとトラッカー)は国ごとに法規が違う。何をどこから取得しているかを自分で正確に把握しておく。

16. 参考 / References