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工業数学シリーズ 第12回:消去法、逆行列、行列式

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工業数学シリーズ 第12回:消去法、逆行列、行列式

線形連立方程式を扱う方法はいくつかありますが、入門段階では3つの視点を区別して理解することが良いです。

  1. 計算手順としての消去法
  2. 概念的表現としての逆行列
  3. 可逆性判定ツールとしての行列式

この3つは互いに結びついていますが、役割は異なります。

ガウス消去法

ガウス消去法は行演算を利用してシステムをより単純な形に変える方法です。実際の計算では最も基本的で実用的な方法です。

例えば

2x+y=5xy=1\begin{aligned} 2x + y &= 5 \\ x - y &= 1 \end{aligned}

で、2番目の式を2倍して1番目の式から引く方式で未知数を一つずつ消去できます。

消去法の長所は計算が体系的で、解が無いか複数あるかも自然とわかる点です。

逆行列

行列AAが可逆であれば

A1A=IA^{-1}A = I

を満たす逆行列が存在します。すると

Ax=bA\mathbf{x} = \mathbf{b}

の解を

x=A1b\mathbf{x} = A^{-1}\mathbf{b}

と書けます。

この式は非常にきれいですが、実際の数値計算では無条件に逆行列を直接求めるのが最善とは限りません。そのため逆行列は計算ツールでもありますが、それ以上に概念的ツールとして理解する方がより重要です。

行列式

行列式は正方行列の可逆性を判定する重要な数です。2次行列では

det(abcd)=adbc\det \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} = ad - bc

です。

行列式が0でなければ可逆で、0なら特異行列です。

det(A)0A1 exists\det(A) \neq 0 \quad \Rightarrow \quad A^{-1} \text{ exists}

手で解く例題

行列

A=(2111)A = \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}

の行列式は

det(A)=2(1)11=3\det(A) = 2(-1) - 1\cdot1 = -3

です。0ではないので可逆です。

連立式

Ax=(51)A\mathbf{x} = \begin{pmatrix} 5 \\ 1 \end{pmatrix}

は唯一の解を持ちます。実際に解くと(x,y)=(2,1)(x, y) = (2, 1)です。

ここで重要なのは数字そのものよりも、行列式が「このシステムが一点に収まるかどうか」を教えてくれるという点です。

工学応用

シミュレーションと数値解析

大きな線形システムはほとんど消去法系列のアルゴリズムで解きます。

ロボット工学とグラフィックス

座標変換行列が可逆かどうかは元の状態の復元が可能かどうかと結びつきます。

データサイエンス

正規方程式や線形回帰を解くときにも行列の条件数と可逆性が非常に重要です。

よくある間違い

逆行列だけを求めようとする

小さな例題では問題ありませんが、実際の計算では消去法や分解法の方が核心です。

行列式を「ただの公式」として暗記する

行列式は単純な計算問題ではなく、変換が空間をどれだけ歪めるかを示す情報です。

行演算の意味を見失う

行演算は式を変えるのではなく、同じ解を持つ同値システムに移っていく過程です。

一行まとめ

消去法は解く方法、逆行列は表現ツール、行列式は可逆性判定ツールと理解すれば構造が整理されます。

次回予告

次の記事では、線形代数で最も重要なアイデアの一つである固有値と固有ベクトルを見ていきます。

参考資料

  • Erwin Kreyszig, Advanced Engineering Mathematics, 10th Edition
  • Gilbert Strang, Introduction to Linear Algebra
  • Lloyd N. Trefethen, David Bau III, Numerical Linear Algebra