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授受動詞を完全マスター — あげる・くれる・もらう

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はじめに

学習者が中級に進むとき、大きく一度壁にぶつかるテーマが授受動詞(授受動詞)、つまり「やりもらいの動詞」です。あげる、くれる、もらうの三つの動詞はいずれも「あげる/もらう」に関わりますが、誰が誰にあげるか、そして話し手がどちらの視点に立つかによって厳密に区別されます。

「あげる」と「もらう」の二つで大部分を済ませられる言語もありますが、日本語は「私が人にあげる(あげる)」と「人が私にくれる(くれる)」を別の動詞で区別します。この方向性の感覚が学習者のいちばん難しく感じる部分です。

この記事では、三つの動詞の基本の方向性から始めて、敬語形(さしあげる・くださる・いただく)、て形 + 授受動詞で恩恵を表す方法、視点の概念、そしてよくある間違いまで表と例文で整理します。


1. 三つの動詞の基本の方向性

1.1 中心となる方向

動詞方向主語意味
あげる内 → 外(または第三者 → 第三者)あげる人(私が人に)あげる
くれる外 → 私(または内側)あげる人(人が私に)くれる
もらう外 → 私(もらう視点)もらう人(私が人から)もらう

ポイントはあげるとくれるの対比です。どちらも「あげる」ですが、あげるは視点があげる人の側にあり、くれるはその恩恵が私(または内側の人)に来ることを強調します。

1.2 方向を図で理解する

  • 私は友達にプレゼントをあげた。(私から外へ、あげる)
  • 友達が私にプレゼントをくれた。(外から私へ、くれる)
  • 私は友達にプレゼントをもらった。(私がもらう視点、もらう)

同じ「友達が私にプレゼント」という状況を、くれる(友達がくれた)でも、もらう(私がもらった)でも言えます。焦点があげる人ならくれる、もらう人ならもらうです。


2. 助詞の整理

授受動詞は助詞がそれぞれ違うので、表で整理しておきます。

動詞文型
あげるあげる人は もらう人に 物を あげる私は妹に本をあげた
くれるくれる人は 私(側)に 物を くれる姉が私に本をくれた
もらうもらう人は くれる人に(から) 物を もらう私は姉に本をもらった
  • あげる・くれる: もらう人に「に」
  • もらう: くれる人に「に」または「から」(人なら「に」、機関なら「から」が自然)

3. 敬語形 — 目上の人とのやりもらい

授受動詞は相手の地位によって敬語形があります。これが授受動詞を難しくする二つ目の層です。

3.1 敬語形の対応表

普通形謙譲/尊敬方向使い方
あげるさしあげる内 → 目上私が目上に差し上げる(謙譲)
くれるくださる目上 → 内目上が私にくださる(尊敬)
もらういただく私が目上から私が目上からいただく(謙譲)

3.2 例文

  • 先生に本をさしあげました。(謙譲、私が目上に)
  • 先生が本をくださいました。(尊敬、目上が私に)
  • 先生に本をいただきました。(謙譲、私がもらう)

注意: くださるは活用が不規則です。丁寧形がくださりますではなくくださいますです。命令・依頼形のください(ください)もここから来ています。


4. て形 + 授受動詞 — 恩恵の表現

授受動詞の本当の核心は、動詞のて形に付いて「行為のやりもらい」を表すことです。物だけでなく「~てあげる/もらう」という恩恵(恩恵)を表します。

4.1 三つの恩恵表現

方向意味
~てあげる内 → 外(私が)~てあげる友達に本を貸してあげた
~てくれる外 → 内(人が私に)~てくれる友達が本を貸してくれた
~てもらうもらう視点(私が人に)~てもらう友達に本を貸してもらった

4.2 例文とニュアンス

  • 私は弟に日本語を教えてあげた。
  • 友達が駅まで送ってくれた。(私に施された恩恵)
  • 私は友達に写真を撮ってもらった。(友達が私のために撮ってくれた)

注意点: ~てあげるは「私が恩恵を施す」というニュアンスがあり、目上やよく知らない人に直接使うと恩着せがましく聞こえることがあります。この場合、謙譲形の~てさしあげるもかえって負担に感じられることがあり、実務では別の丁寧表現に言い換えることが多いです。

4.3 敬語形の恩恵表現

意味
~てくださる~てくださる(尊敬)先生が教えてくださった
~ていただく~ていただく(謙譲)先生に教えていただいた
  • 手伝っていただけますか。(いただくの可能形を使った非常に丁寧な依頼表現で、実務でよく使います。)

5. 視点 — なぜこのように分けるのか

日本語の授受動詞は、話し手の**視点(視点)**を文法に反映します。話し手は常に自分自身や自分の側(内、ウチ)に視点を置き、その反対側(外、ソト)と区別します。

5.1 ウチ・ソトの概念

  • ウチ(内): 私、私の家族、私の親しい人など話し手側の集団
  • ソト(外): その外の人

くれる・くださるは必ず「外からウチへ」向かう行為にのみ使います。ですから「友達が(私の)弟にくれた」も私の弟にくれたのようにくれるを使えます。弟がウチだからです。

5.2 視点固定の例

  • (X) 私が友達にくれた。 — 私があげるのにくれるは使えない
  • (O) 私が友達にあげた。 — 私があげるのはあげる
  • (O) 友達が私にくれた。 — 外から私へはくれる

つまり主語が私(ウチ)のとき「あげる」は必ずあげる、外から私に来る「くれる」は必ずくれるです。


6. 学習者が難しく感じる理由

6.1 「あげる」が二つある不慣れさ

方向に関係なく一つの「あげる」で済む言語では、くれる(人が私にくれる)という概念自体が最初は不慣れで、あげるでまとめてしまいがちです。特に「友達が私にプレゼントをくれた」を移すとき、うっかり友達が私にあげたと言う間違いが非常に多いです。

6.2 て形の恩恵表現の感覚

「友達が送ってくれた」のように「~てくれる」を自由に使う言語もありますが、日本語は方向まで文法で示さなければなりません。送ってくれた(人が私に)と送ってあげた(私が人に)を正確に選ぶ負担があります。

6.3 敬語との結合

そこにさしあげる・くださる・いただくのような敬語形まで重なると、組み合わせが複雑になります。しかし方向性さえ確実につかめば、敬語形はその上に着せる服のようなものです。


7. よくある間違いの整理

状況誤った例正しい例
友達が私にくれる友達が私にあげた (X)友達が私にくれた (O)
くださるの丁寧形くださります (X)くださいます (O)
私が目上からもらう先生にもらいました (△)先生にいただきました (O、より丁寧)
丁寧な依頼手伝ってあげますか (X)手伝っていただけますか (O)

8. 状況別の実践表現

授受動詞は実際の会話で非常によく登場します。状況別に自然な表現を整理します。

8.1 頼む・感謝する

状況表現意味
手伝いを頼むとき手伝ってもらえますか。手伝ってもらえますか
丁寧に頼むとき手伝っていただけますか。手伝っていただけますか
感謝するとき教えてくれてありがとう。教えてくれてありがとう
丁寧に感謝するとき教えていただき、ありがとうございます。教えていただきありがとうございます

日本語で「~てくれてありがとう」はたいてい「~ていただき、ありがとうございます」または「~てくださって、ありがとうございます」で表現します。どちらも自然です。

8.2 提案する・気づかう

  • 荷物を持ってあげましょうか。(直接使うと恩着せがましく聞こえることがあり、実際には持ちましょうかのほうが柔らかいです。)
  • 私が送ってあげる。(親しい間柄では自然)
  • 貸してくれてありがとう。

8.3 第三者間のやりもらい

授受動詞は、自分と無関係な第三者間のやりもらいも表します。

  • 田中さんが佐藤さんにプレゼントをあげた。(どちらも外(ソト)ならあげる)
  • 母が妹におこづかいをくれた。(妹がウチなのでくれるが可能)

9. 総合まとめ表

学んだ内容を一枚に圧縮すると次の通りです。

区分普通形敬語形方向て形の恩恵
私があげるあげるさしあげる内 → 外~てあげる
人が私にくれるくれるくださる外 → 内~てくれる
私がもらうもらういただく外 → 内(もらう視点)~てもらう

この表さえ確実に覚えれば、授受動詞の骨格は完成です。あとは方向性の感覚を実践で磨くことです。


10. おわりに

授受動詞は、日本語が「方向と視点」をいかに細やかに扱う言語かをよく示すテーマです。要点を改めて整理すると次の通りです。

  1. あげるは内(ウチ)→ 外、くれるは外 → 内(ウチ)、もらうはもらう視点。
  2. 敬語形はさしあげる(謙譲)、くださる(尊敬、くださいます)、いただく(謙譲)。
  3. て形 + 授受動詞で「~てあげる/もらう」という恩恵を表し、方向によりてあげる・てくれる・てもらうを選ぶ。
  4. 話し手は常にウチに視点を置くので、私があげればあげる、私に来ればくれるに固定される。

方向性の感覚は一朝一夕には身につきません。実際の状況を思い浮かべて「これは私に来た恩恵だからくれた」「私がしてあげたのだからあげた」と声に出して練習していくうちに、いつの間にか自然に体になじみます。特に~ていただけますかのような丁寧な依頼表現は実務日本語で非常に役立つので、丸ごと覚えておくことをおすすめします。


参考資料