はじめに — わたしたちはみな星の塵です
夜空を見上げたことはありますか。都市の明かりを離れて本当に暗い場所に立つと、頭上に数千もの星が降りそそぐように広がります。その光景の前で、だれもが一度は同じ問いを思い浮かべます。あのすべてはどこから来たのだろう。宇宙はいつ、どのように始まったのだろう。
この問いは、人類が最も古くから抱いてきた問いのひとつです。古代の人々は神話で、哲学者たちは思索で、この問いに答えようとしました。しかしその答えが、神話や思弁ではなく、望遠鏡と観測、そして検証可能な証拠の領域へと入ってきたのは、わずか百年あまり前のことにすぎません。人類の歴史全体から見れば、本当に最近の出来事です。わたしたちは幸運にも、宇宙の始まりを科学として語ることができるようになった、最初の数世代のなかに生きています。
まず、ひとつの驚くべき事実をお伝えしたいと思います。みなさんの体をかたちづくる原子たち、なかでも骨を硬くするカルシウム、血を赤く染める鉄、息を吸うときに取り込む酸素は、すべてはるか昔のある星の中心部でつくられました。わたしたちは文字どおり、星の塵からできた存在なのです。そしてその星をつくった材料、最も軽い水素とヘリウムは、宇宙が生まれた直後、わずか数分のうちにかたちづくられました。
この文章では、人類がどのようにして宇宙の始まりを解き明かしてきたのか、その旅をたどってみたいと思います。望遠鏡の前で夜通し座っていた天文学者たち、偶然とらえた雑音のなかから宇宙のこだまを発見した二人の技術者、そして見えないものに満ちた宇宙の神秘まで。138億年という時間を、一編の物語のように読み解いていきましょう。
あらかじめひとつお約束しておきます。この文章には難しい数式がほとんど登場しません。代わりに、レーズンパン、ふくらむ風船、遠ざかる救急車のサイレンのように、わたしたちが日常で出会う場面をとおして、宇宙の壮大な物語をたどっていきます。宇宙論は人類がつくり出した最も野心的な物語ですが、その核心にあるアイデアたちは驚くほどに単純で美しいのです。ゆっくりと、いっしょに歩いていきましょう。
静止した宇宙という古い信念
長いあいだ、人々は宇宙が変わらないものだと信じていました。星はいつもそこにあり、宇宙は始まりも終わりもなく、永遠にそのままだと。あの偉大なアインシュタインでさえ、はじめはそう考えていました。1915年に一般相対性理論を完成させた彼は、自分の方程式が宇宙は収縮するか膨張しなければならないと告げたとき、戸惑いました。静的な宇宙を保つために、彼は方程式に宇宙定数という項を無理やり付け加えました。
しかし自然は、人間の先入観に合わせてはくれませんでした。1920年代、二人の人物の洞察が、この堅固な信念にひびを入れはじめます。
一人はベルギーの神父であり物理学者でもあったジョルジュ・ルメートルでした。彼は1927年、アインシュタインの方程式を解いて、宇宙は膨張しているかもしれないという結論にたどり着きました。さらに彼は大胆な想像を広げました。宇宙が膨張しているなら、時間を逆に巻き戻したとき、すべてが一点に集まるのではないか。彼はこれを原始原子、あるいは宇宙の卵と呼びました。今日わたしたちがビッグバンと呼ぶ概念の種でした。
ほぼ同じ時期に、ロシアの数学者アレクサンドル・フリードマンもまた、アインシュタインの方程式から膨張する宇宙の解を導き出しました。彼は残念ながら若くして世を去り、自分の洞察が正しかったことを自ら確かめることはできませんでしたが、今日、宇宙の膨張を記述する基本方程式には彼の名がついています。科学はこのように、複数の人々の洞察が時差をおいて集まり、ひとつの大きな絵を完成させていく合唱にも似ています。
興味深いことに、ビッグバンという名前そのものは、この理論を快く思わなかった天文学者フレッド・ホイルが、ラジオ放送でやや皮肉まじりにつけたあだ名に由来すると伝えられています。批判しようとしてつけた名前が、最も有名な科学用語になったわけです。
ここで少し、ルメートルという人物についてもう少し語りたいと思います。カトリックの神父でありながら、同時に最高水準の物理学者でもあった彼は、信仰と科学を混ぜ合わせないよう生涯気をつけていました。彼は、宇宙が一点から始まったという自分の理論が、宗教的な創造の物語とたやすく同一視されることを、むしろ警戒しました。科学は科学の言葉で、信仰は信仰の言葉であつかうべきだという彼の態度は、今日でも科学と世界観の関係を考えるときに、かみしめてみる価値のある姿勢です。一人の頭のなかで、最も冷たい方程式と最も深い畏敬の念とが、衝突することなく共存できたという事実は、それ自体が興味深い物語です。
はじめアインシュタインは、ルメートルの考えをあまり好みませんでした。伝えられる逸話によれば、彼はルメートルに、計算は正しいが物理的直観はひどい、といった調子で言ったそうです。しかし時が流れ、観測の証拠が積み重なるにつれ、アインシュタインは自分が無理やり付け加えた宇宙定数を、生涯最大の過ちだったと後悔したと伝えられています。偉大な科学者でさえ、自然の前では自分の先入観を手放さなければならなかったのです。興味深いことに、宇宙定数はのちに暗黒エネルギーというかたちで、ふたたび舞台の上に戻ってくることになるのですが、この話は後ほどまた出会うことになります。
ハッブル、遠ざかる銀河を見る
理論に決定的な証拠を加えた人物は、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブルでした。今日、宇宙で最も有名な望遠鏡のひとつが、彼の名をとったハッブル宇宙望遠鏡だという事実は、彼が宇宙についての人類の絵を、どれほど大きく塗り替えたかをよく示しています。
1920年代、カリフォルニアのウィルソン山天文台には、当時世界最大の100インチ望遠鏡がありました。ハッブルは冷たい夜になると、その巨大なレンズの前に座り、遠い天体の光を集めました。当時はまだ、人々はわたしたちの天の川銀河が宇宙のすべてだと考えていました。アンドロメダのようなぼんやりした天体は、ただ天の川のなかの星雲にすぎないと見なされていたのです。
ハッブルは、これらの天体のなかにセファイド変光星と呼ばれる特別な星を見つけ出しました。この星は明るさが一定の周期で変わるのですが、その周期を見れば、星が実際にどれほど明るいのかがわかります。実際の明るさと見かけの明るさを比べれば、距離をはかることができるのです。まるで、標準的な明るさの街灯が遠ざかるほど暗く見えることを利用して、距離を推し量るのと同じです。その結果は衝撃的でした。アンドロメダは天の川のなかにあるのではなく、想像することさえ難しいほど遠い距離にある、もうひとつの巨大な銀河だったのです。宇宙は、わたしたちが思っていたよりもはるかに、はるかに大きかったのです。
そして1929年、ハッブルはさらに驚くべきパターンを発見します。銀河の光を分析してみると、ほとんどすべての銀河がわたしたちから遠ざかっていました。しかも遠くにある銀河ほど、より速く遠ざかっていたのです。
この発見の重みを、少し考えてみるとよいと思います。それは単に銀河がいくつか動いているという観察ではなく、宇宙全体が変化しているという宣言でした。永遠にそのままだと信じられていた宇宙が、じつは昨日より今日のほうが大きく、今日より明日のほうがさらに大きくなるという話。これは人類が、自分の位置をもう一度つつましく見つめなおすことになった発見でした。地球が宇宙の中心ではないことをコペルニクスが教えてくれたように、ハッブルの観測は、宇宙すらも固定された舞台ではなく、絶えず変化する生きた存在であることを教えてくれたのです。
光のドップラー効果と赤方偏移
銀河が遠ざかっているということを、どうやって知ることができるのでしょうか。秘密は光の色に隠れています。
救急車が近づくときサイレンの音が高くなり、遠ざかるときに低くなることを経験したことがあるでしょう。音の波が圧縮されたり伸ばされたりするために起こるドップラー効果です。光も波なので、同じことが起こります。星や銀河がわたしたちから遠ざかると、その光の波長が伸びて赤いほうへ偏ります。これを赤方偏移と呼びます。
ハッブルが発見した関係は、簡単な比例式にまとめられます。
遠ざかる速度 = ハッブル定数 かける 距離
記号で書くと: v = H0 かける d
ここで
v : 銀河が遠ざかる速度
d : 銀河までの距離
H0 : ハッブル定数 (現在 およそ毎秒70キロメートル / メガパーセク)
距離が遠いほど遠ざかる速度が速くなるというこの単純な法則は、宇宙がまるごと膨張しているという意味でした。
レーズンパンのたとえ
ここで、よくある誤解をひとつ解いておかなければなりません。すべての銀河がわたしたちから遠ざかるのなら、わたしたちが宇宙の中心にいるということでしょうか。そうではありません。
オーブンのなかでふくらんでいくレーズンパンを想像してみてください。生地がふくらむと、すべてのレーズンがたがいに遠ざかります。どのレーズンの立場から見ても、ほかのすべてのレーズンが遠ざかるように見えるのです。遠くに離れたレーズンほど、より速く遠ざかります。あいだにはさまれた生地が、より多く伸びるからです。
宇宙も同じです。銀河たちが空っぽの空間のなかを飛んでいるのではなく、銀河と銀河のあいだの空間そのものが伸びているのです。だから宇宙には、特別な中心がありません。どの銀河に立っていても、ほかのすべての銀河が自分から遠ざかるように見えます。
言いかえれば、遠くにある銀河の赤方偏移は、その銀河が空間を横切って速く逃げているために生じるのではなく、光がわたしたちに届くあいだに、そのあいだの空間が伸びて、光の波長までいっしょに伸びたために生じます。よく宇宙論的赤方偏移と呼ばれるこの現象は、銀河の運動ではなく、空間そのものの膨張を直接示す証拠です。この微妙ですが重要な違いを理解すると、宇宙の膨張がなぜ特別な中心を持たないのかが、いっそうはっきりしてきます。
このたとえには、もうひとつ深い真実が隠れています。レーズンパンを思い浮かべるとき、わたしたちはパンのふち、つまり生地の端を想像してしまいます。しかし宇宙には、そのようなふちがありません。宇宙が果てしなく広がっていようと、あるいは表面のように湾曲して自分自身へと戻っていようと、どちらにしても、わたしたちがよく思い浮かべるパンの皮のような境界は存在しません。宇宙の膨張は、ある中心から外へと広がっていくのではなく、すべての点が同時にすべての点から遠ざかる、空間そのものの伸びなのです。頭のなかで描くのが難しいのは当然です。わたしたちの直観は、ある空間のなかで育ったものであって、空間そのものが伸びる経験をしたことがないのですから。
ひとつ付け加えると、とても近くにある銀河たちは、この規則にしたがいません。たとえば、わたしたちの天の川銀河とアンドロメダ銀河は、むしろたがいに向かって近づいていて、遠い未来には衝突してひとつに合わさると予想されています。近い距離では、二つの銀河のあいだの重力が、空間の膨張よりも強いからです。宇宙の膨張は、銀河団のように十分に大きな規模で、十分に遠く離れた対象どうしのあいだで、ようやくはっきりと現れる現象なのです。
時間を逆に巻き戻すと — 熱い始まり
宇宙が膨張しているのなら、映画のフィルムを逆に回すように、時間を巻き戻してみましょう。銀河たちがだんだん近づき、宇宙はだんだん小さくなり、そのぶん熱く密になります。十分にさかのぼれば、すべての物質とエネルギーが、想像もできないほど小さく熱いひとつの状態に集まります。まさにビッグバンの瞬間です。
ここで重要な点を押さえておかなければなりません。ビッグバンは、がらんとした空間のどこかで爆弾が破裂した出来事ではありません。爆発が起こる外側の空間が、別にあったわけではないのです。空間と時間そのものが、その瞬間にいっしょに始まりました。ビッグバンは空間のなかで起きた出来事ではなく、空間そのものの始まりだったのです。この点は直観に反していて理解しづらいですが、現代宇宙論の核心です。
それでは、この理論をどうやって信じることができるのでしょうか。138億年前を直接見た人はいないのですから。科学が偉大である理由は、見えない過去についても、検証可能な予測を出して、それを確かめることができるからです。ビッグバン理論には、二つの決定的な証拠があります。
最初の瞬間のドラマ
証拠の話に移る前に、ビッグバン直後の最初の瞬間が、どれほど息もつかせぬものだったのか、少しのぞいてみましょう。宇宙の初期の歴史は、一分、一秒ではなく、それよりはるかに短い、刹那の単位に分けられます。
最も早い瞬間、宇宙は想像することさえ難しいほど熱く密でした。このときは、今日わたしたちが知る四つの基本的な力、すなわち重力と電磁気力、そして二つの核力が、まだひとつにまとまっていたか、順に分かれ出ていく時期だったと考えられています。宇宙が冷えていくにつれ、これらの力がひとつずつ自分の姿を現していきました。まるで水が冷えながら、水蒸気から水へ、水から氷へと姿を変えるように、宇宙も冷えながら段階的に性質が変わっていったのです。
続いて宇宙は、物質をかたちづくる最も小さな粒たちで沸き立つ、熱いスープのような状態になりました。この時期にはクォークと呼ばれる粒子が自由に漂っていましたが、宇宙がさらに冷えると、これらが結びついて陽子と中性子、すなわち原子核の材料がつくられました。そして先ほど見たように、ビッグバン後の数分のうちに、これらの材料が結合して、最も軽い元素の核をかたちづくったのです。わたしたちが138億年を一編の物語として読むとき、その最も劇的な場面はじつは、最初の数分、いや最初の数秒にも満たない短い時間のなかに圧縮されているわけです。
もちろん、最も早い瞬間、ビッグバンのまさにその最初の刹那については、まだわたしたちの物理学は十分に答えられていません。その極端な環境では、とても大きなものをあつかう重力の理論と、とても小さなものをあつかう量子の理論が同時に必要なのですが、この二つをなめらかにつなぐ完成した理論を、人類はまだ持っていません。宇宙の最初の瞬間は、現代物理学が解くべき最も難しい宿題のひとつとして残されています。
第一の証拠 — 宇宙を満たすこだま
ビッグバンが本当に起きたのなら、その熱い初期宇宙が残した痕跡が、今も宇宙全体に残っているはずです。1940年代後半、何人かの物理学者はこう予測しました。宇宙がはじめにそれほど熱かったのなら、そのとき満ちていた光が、宇宙が膨張するにつれて冷え、今日ではとても冷たい電波のかたちで、宇宙のどこにでも広がっているはずだと。これが宇宙マイクロ波背景放射、縮めて宇宙背景放射です。
鳩のフンとノーベル賞
この予測は、最も思いがけない方法で確かめられました。
1964年、アメリカ・ニュージャージーのベル研究所で、二人の技術者アーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンは、電波通信の実験のために巨大な角型のアンテナをあつかっていました。ところがどんなに努力しても消えない雑音がとらえられました。空のどの方向に向けても、夜でも昼でも、季節が変わっても、変わることなく聞こえる、かすかな雑音でした。
二人は原因を見つけようと、ありとあらゆる努力をしました。アンテナのなかに鳩が巣をつくって残した排泄物まで、きれいに拭き取りました。それでも雑音はそのままでした。調べてみると、それは装置の欠陥ではなく、宇宙そのものから来る信号だったのです。ビッグバンの残熱、138億年前に熱かった宇宙が冷えて残したこだまを、彼らは偶然つかまえたのでした。
近くのプリンストン大学では、ちょうど同じ信号をわざわざ探そうと準備していた研究チームがありました。二つのグループが出会ってパズルを合わせたとき、人類はビッグバンの最も強力な証拠を手に入れました。ペンジアスとウィルソンは、この発見で1978年のノーベル物理学賞を受けました。掃除をしていて発見した宇宙の秘密だと言っても、言いすぎではありません。
この話には、科学の本質についての深い教訓が込められています。ペンジアスとウィルソンは、宇宙の起源を明らかにしようとアンテナをつくったのではありませんでした。彼らはただ、電波通信という実用的な仕事をしていただけです。ところが、しつこく残る雑音を無視せず、最後までその原因を掘り下げた誠実さが、人類の歴史に残る発見へとつながりました。科学の偉大な瞬間はしばしばこのように、消えない小さな違和感に目を背けなかった人々からやってきます。もし彼らが雑音をただ装置のせいにして見過ごしていたら、宇宙のこだまはもう少し長く沈黙のなかに埋もれていたかもしれません。
古いテレビを覚えている方なら、放送のないチャンネルで画面がざらざらと映る、白黒の雑音を思い浮かべてみてください。驚くべきことに、その雑音のごく一部は、まさにこの宇宙背景放射から来たものだったのです。138億年前に宇宙が残した光の一部が、わたしたちの居間のテレビのなかでちらついていたわけです。宇宙の始まりは、そんなふうに遠いところにだけあるのではなく、わたしたちの日常のただなかにも、静かにしみ込んでいます。
最も古い光、最も均一な光
この宇宙背景放射は、宇宙でわたしたちが見ることのできる最も古い光です。ビッグバン後およそ38万年が過ぎた瞬間の姿を写しています。それ以前の宇宙は、あまりに熱く密で、光が自由に進むことができず、霧のなかのように閉じこめられていました。宇宙が十分に冷えて原子が安定的につくられたその瞬間、光はようやく自由に解き放たれ、その光が138億年を横切って、今わたしたちに届いているのです。
その後、コービー、ダブリューマップ、プランクといった宇宙望遠鏡が、この光を精密に測定しました。その結果、宇宙背景放射はあらゆる方向で驚くほど均一であることが明らかになりました。温度でいえば、絶対零度よりおよそ2.7度高い、摂氏マイナス270度ほどのとても冷たい光です。それでいて、十万分の一ほどの微細な温度差が存在するのですが、まさにこの小さなむらが、のちに銀河や星、そしてわたしたちが生まれる種となったのです。
この宇宙背景放射の地図は、よく赤ちゃん宇宙の写真と呼ばれます。生まれてまだ38万歳になった宇宙の姿を写しているので、138億歳になった今の宇宙にくらべれば、本当に生まれたばかりの時期の肖像画というわけです。驚くべきことに、この一枚の地図のなかに、宇宙の年齢、構成比、膨張の歴史、そして未来の運命についての手がかりまで、びっしりと詰まっているという点です。科学者たちは、この微細なむらの模様を精密に分析することで、わたしたちがこの文章で語ったほとんどすべての数字を引き出しました。一枚の冷たい光の地図が、宇宙全体の履歴書だったのです。
第二の証拠 — 宇宙がかたちづくった元素たち
ビッグバン理論の第二の強力な証拠は、宇宙に存在する元素たちの比率にあります。
ビッグバン直後の最初の数分のあいだ、宇宙は核融合が起こるほど熱かったのです。この短い時期に、最も軽い元素たちがつくられました。これを原始核合成と呼びます。この時期にかたちづくられたのは、主に水素とヘリウム、そしてほんのわずかなリチウムでした。この核融合の窓は、ほんの一瞬だけ開いて閉じました。宇宙が冷えつづけるにつれ、数分のうちに核融合が止まるほど温度が下がったからです。その短い窓が閉じる前までにつくられた元素たちが、その後の数億年のあいだ、宇宙を満たしたほとんどすべての物質でした。
ビッグバン理論は、この元素たちの比率を正確に予測します。宇宙の通常の物質のうち、およそ4分の3は水素、およそ4分の1はヘリウムでなければならない、というのです。そして実際に、宇宙のあちこちの星やガスを観測してみると、まさにその比率が出てきます。理論が黒板の上で計算した数字と、望遠鏡が測定した数字が一致する瞬間、わたしたちはその理論を信頼するようになります。
それでは、炭素、酸素、鉄のような重い元素は、どこから来たのでしょうか。これらはビッグバンではなく、その後に生まれた星たちの内部で、長い時間をかけてつくられました。星が寿命を終えて超新星として爆発するとき、これらの元素が宇宙にまき散らされ、その残骸が集まって次の世代の星と惑星を、そして結局はわたしたちをつくったのです。冒頭でわたしたちが星の塵と言ったのは、まさにこういう意味です。
この事実をもう一度かみしめてみると、本当に驚くべきことです。みなさんが今吸い込んだ酸素の原子ひとつ、つめのなかのカルシウムひとつ、血液のなかの鉄のひとつひとつは、数十億年前にある巨大な星が死を迎えながら、宇宙へまき散らしたものです。わたしたちの体は、少なくとも一世代以上の星が生き、死んだ歴史を抱いている、歩く宇宙の記録なのです。天文学者カール・セーガンが、わたしたちは星の物質でできていると言ったとき、それは詩的なたとえではなく、文字どおりの科学的事実だったのです。宇宙を見上げるわたしたち自身が、じつは宇宙が自分自身をのぞき込むひとつの方法なのかもしれません。
こうして見ると、ビッグバンの物語は、あの遠い宇宙のよその話ではなく、わたしたち自身の最も古い出生記録です。水素とヘリウムがかたちづくられた最初の数分、最初の星が灯った宇宙の最初の夜明け、重い元素がまき散らされた超新星の爆発、そのすべての場面が次々とつながって、ついに今この文章を読むみなさんに届きました。138億年にわたる長い物語の、最も新しい一行に、わたしたちは生きているのです。
原始核合成の話には、もうひとつ興味深い面があります。理論が予測する軽い元素の比率は、ビッグバン直後の宇宙に通常の物質が正確にどれだけあったかに、非常に敏感に左右されます。したがって、観測された水素、ヘリウム、リチウムの比率を逆にたどれば、宇宙に通常の物質がどれだけ存在するのかを、独立に推定することができます。驚くべきことに、こうして得られた値は、先ほど見た宇宙背景放射の分析から出た値と、見事に一致します。まったく異なる二つの証拠が同じ結論を指し示すとき、科学者たちはようやく、自分たちが正しい道の上にいると確信するようになります。
宇宙のインフレーション — 刹那の爆発的な成長
ビッグバン理論は強力でしたが、解けない疑問も残しました。最も大きな謎のひとつは、宇宙背景放射がなぜそれほどあらゆる方向で均一なのか、ということでした。たがいに正反対の方向にあって、光すら一度も行き来できなかった宇宙の両端が、どうして同じ温度を持つことができるのでしょうか。まるで一度も会ったことのない二人が、まったく同じ体温を持っているのと同じくらい、奇妙なことです。
もう少しほぐしてみましょう。二つの物体が同じ温度になるには、ふつうはたがいに熱をやりとりしながら、つり合いをとらなければなりません。熱いコーヒーに冷たいミルクを注ぐとぬるくなるように、です。ところが宇宙の両端はあまりに遠く離れているため、光でさえも、宇宙の年齢のあいだに一度もそのあいだを行き来できませんでした。一度も接触したことがないのに、どうして同じ温度になったのでしょうか。これを地平線問題と呼びます。ビッグバン理論だけでは、この均一さがうまく説明できず、まさにこの隙間を埋めるために、インフレーションという発想が登場しました。
1980年代、物理学者たちはこの問題を解くために、宇宙のインフレーションという大胆な仮説を打ち出しました。ビッグバン直後の、想像することさえ難しい短い瞬間に、宇宙が光よりも速く、とてつもない比率で膨張したというのです。あまりに速く、あまりに巨大なので、原子よりも小さかった領域が、あっという間にグレープフルーツほどの大きさにふくらんだそうです。
インフレーションは、宇宙が均一である理由を説明してくれます。膨張する前、とても小さくたがいによく混ざり合って同じ温度を持っていた領域が、急激にふくらんで、今日わたしたちが見る巨大な宇宙になったというわけです。小さな風船に描いた点が、風船を大きくふくらませると遠く離れるけれど、もとの模様は保たれるのと似ています。また、インフレーションは初期の微細な量子ゆらぎを宇宙的な規模に拡大させ、のちに銀河が集まる種をまいたと考えます。
インフレーションは、もうひとつの古い謎も解いてくれます。宇宙は巨大な規模で見ると、ほぼ完璧に平らです。宇宙がこれほど精巧に平らであることは、とても特別な条件なのですが、インフレーションが起こると、はじめにどんな形であっても、宇宙が速くふくらみながら伸ばされて、わたしたちの目には平らに見えるようになります。まるで、小さな風船の表面は曲がって見えるけれど、その風船を地球ほどの大きさにふくらませると、わたしたちが立つ場所の表面は平らに感じられるのと同じです。ひとつの仮説が、たがいに無関係に見えたいくつもの謎をいっぺんに説明してくれるとき、科学者たちはその仮説を真剣に受け取りはじめます。
インフレーション理論は、さまざまな観測とよく合っていますが、まだすべての細部が確定したわけではありません。現代宇宙論で活発に研究されている領域として残っています。
インフレーションが残した最も美しい遺産は、宇宙の巨大構造がじつは、ごく小さな量子ゆらぎから生まれたという発想です。量子の世界では、完全にがらんとした空間でさえ、絶えず微細に震えています。インフレーションが起こる前、この震えはあまりに小さくて、何の意味もないように見えたでしょう。ところがインフレーションが、この小さな震えをあっという間に天文学的な規模へと引き伸ばし、あるところはほんの少し密で、あるところはほんの少しまばらな模様が、宇宙に刻まれました。時が流れるにつれ、重力は密なところをさらに密に引き集め、その結果、星が、銀河が、銀河団が育っていったのです。今日、夜空を彩るすべての構造の根が、ビッグバン直後の刹那の量子の震えだというのです。最も小さなものが最も大きなものをかたちづくったというこの物語は、宇宙がわたしたちに語りかける、最も詩的な真実のひとつです。
そして、まさにこの模様が、先ほど見た宇宙背景放射の十万分の一ほどの微細な温度差として、わたしたちの目の前に残っています。つまり宇宙背景放射のむらの地図は、インフレーションが残した指紋であり、銀河が生まれる場所をあらかじめ描いておいた設計図というわけです。プランク衛星が描き出したあの精巧な温度地図が、科学者たちにとってそれほど貴重である理由が、ここにあります。
138億年という数字
宇宙の年齢は、およそ138億年と推定されています。どうしてこれほど正確な数字が出てきたのでしょうか。
いくつもの独立した方法が、似たような答えを指し示します。宇宙が膨張する速度を測定して逆に計算する方法、宇宙背景放射の微細な模様を精密に分析する方法、そしてわたしたちの天の川銀河で最も古い星たちの年齢をはかる方法まで。たがいに異なる道から出発したこれらの方法が、すべて138億年あたりにたどり着くという事実は、その数字がただの当て推量ではないことを物語っています。
この時間の規模を実感するのは容易ではありません。宇宙の138億年の歴史を1年分のカレンダーに圧縮した、宇宙カレンダーという有名なたとえがあります。1月1日0時にビッグバンが起きたとすると、太陽と地球は9月になってようやく生まれます。恐竜は12月下旬に登場しては消え、人類のすべての文明史は、12月31日の最後の数秒のなかに圧縮されます。わたしたち一人の一生は、その最後の1秒のまばたきにも及びません。
このカレンダーの前に立つと、不思議な感情がわいてきます。一方でわたしたちは、宇宙の巨大な時間のなかで、限りなく小さく短い存在です。人類文明の全体が、一年のうち最後の数秒にすぎないとは、つつしまずにはいられません。しかし他方で、まさにその最後の数秒のなかに生きるわたしたちが、一年全体の歴史を解き明かしたという事実は、限りなく偉大に感じられます。小ささと偉大さが同じ場所に共存すること、もしかするとそれが、宇宙の前に立つ人間の本来の姿なのかもしれません。
宇宙の距離はしご
138億年という年齢を求めるには、まず銀河までの距離を正確にはかることができなければなりません。ところが、宇宙の距離をはかる仕事は、思いのほか厄介です。ものさしを持って行くわけにはいかないのですから。天文学者たちは、距離はしごと呼ばれる賢い方法を使います。近い距離はひとつの方法ではかり、その結果で、もう少し遠い距離をはかる別の方法を補正し、ふたたびそれでさらに遠い距離をはかる、というふうに、はしごを一段ずつのぼるように距離を広げていくのです。
はしごの下のほうの段には、先ほど見たセファイド変光星があります。その上のほうの段には、ある特定の種類の超新星があるのですが、この超新星は爆発するときの最大の明るさがほぼ一定なので、標準ろうそくのように使うことができます。ある銀河でこのような超新星が爆発すると、その見かけの明るさから、銀河までの距離を見積もることができます。こうして一段一段積み上げた距離の測定があったからこそ、ハッブルの法則も、宇宙の加速膨張も、そして宇宙の年齢もはかることができたのです。
興味深いことに、最近では宇宙の膨張速度、すなわちハッブル定数をめぐって、小さな謎が生まれました。距離はしごをとおして測定した値と、宇宙背景放射を分析して得た値が、微妙に食い違うのです。この違いをハッブル緊張と呼びます。単なる測定誤差かもしれませんし、あるいはわたしたちがまだ知らない新しい物理学の手がかりかもしれません。この小さな食い違いが何を意味するのかは、現在の宇宙論で最も熱く議論されている主題のひとつです。科学では、こうしてよく合うはずの二つの数字がわずかに食い違うとき、しばしば次の大きな発見の扉が開かれます。
宇宙の歴史のタイムライン
ビッグバン直後 ~ 1秒にも満たない刹那
インフレーション。宇宙が爆発的にふくらみ上がる。
ビッグバン後 およそ3分まで
原始核合成。水素とヘリウムがつくられる。
ビッグバン後 およそ38万年
宇宙が冷えて原子が形成。光が自由になる。
このとき解き放たれた光が、今日の宇宙背景放射。
ビッグバン後 およそ1億 ~ 2億年
最初の星と銀河が生まれる。宇宙の最初の夜明け。
ビッグバン後 およそ91億年 (今からおよそ46億年前)
太陽と地球が形成される。
ビッグバン後 およそ138億年 (現在)
わたしたちが夜空を見上げて、この問いを投げかける今。
宇宙の最初の夜明け
タイムラインを見ると、ビッグバン後およそ38万年に光が自由になったあとも、しばらくのあいだ宇宙には輝く星がありませんでした。この時期を科学者たちは宇宙の暗黒時代と呼びます。原子がやっとつくられたものの、まだ星が灯っていない、暗く静かな霧のような時間でした。
やがて重力がゆっくりと仕事を始めました。インフレーションが刻んでおいた微細な密度の模様にしたがって、少しだけ密だった場所に物質が集まり、また集まりました。ガスの雲が自分の重さでだんだん収縮しながら、中心部が熱くなり、ついに核融合が点火する臨界点に達しました。その瞬間、宇宙で最初の星が光を放ちました。ビッグバン後およそ1億年から2億年のあいだの出来事だと考えられています。長く長い暗黒時代を終わらせたこの最初の灯火を、宇宙の最初の夜明けと呼びます。
この最初の星たちは、今日の星とはずいぶん違っていたと推定されています。重い元素がまだなかった時代なので、水素とヘリウムだけでつくられたこれらの星は、とても大きく明るく燃え上がっては、短い生を終えて超新星として爆発しました。そしてその爆発が、宇宙にはじめて重い元素をまき散らしました。次の世代の星と惑星、そしていつか生命が生まれる材料は、まさにこの最初の星たちの死から生まれたのです。最初の夜明けの星たちは、自らを燃やして、のちに来るすべてのもののための種を残しました。
星と星のあいだには、こうして一種の受け継ぎが流れています。一世代の星が死んでまき散らした灰が、次の世代の星をかたちづくり、その星もまた死んで、より豊かな元素を残します。わたしたちの太陽は、少なくともこのような受け継ぎを何度も経たあとに生まれた、比較的おそく生まれた星です。おかげで、太陽のそばの地球には、炭素や酸素や鉄のように生命に必要な元素が、十分にそろうことができました。わたしたちがここに存在できるのは、わたしたちより先に生き、死んでいった数多くの星たちの長い物語のおかげなのです。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のような最新の観測装置が、それほど遠い過去をのぞき込もうと努めている理由が、まさにここにあります。宇宙の最初の夜明けを直接目撃することは、わたしたちみんなの最も古い故郷をたずねていくことと同じなのです。
宇宙の見えない部分 — 暗黒物質と暗黒エネルギー
わたしたちが星と銀河で満ちていると思っている宇宙には、じつはわたしたちが見ることのできる物質が、全体のたった5パーセントにすぎません。残りの95パーセントは、目に見えない何かです。
暗黒物質 — 見えない手
20世紀半ば、天文学者たちは奇妙な点に気づきました。銀河たちがあまりに速く回転していたのです。わたしたちが見ることのできる星やガスの重力だけでは、その速い回転に耐えられず、銀河はばらばらに散らばってしまうはずでした。それなのに銀河は、平然と形を保っていました。
何か見えない物質が、追加で重力を加えているという意味でした。光を放つことも吸収することもなく、望遠鏡には見えませんが、たしかに重力で自分の存在を現すこの何かを、暗黒物質と呼びます。宇宙全体のおよそ27パーセントを占めると推定されていますが、その正体が何なのかは、まだだれにもわかりません。現代物理学の最も大きなミステリーのひとつです。
ここで、ひとつの思考実験をしてみましょう。風の吹く日、見えない風の存在を、わたしたちはどうやって知るのでしょうか。風そのものは目に見えませんが、木の枝が揺れ、旗がはためく姿を見て、わたしたちは風があることを知ります。暗黒物質も同じです。わたしたちはそれを直接見ることはできませんが、銀河が散らばらずに速く回転する姿、遠くにある光が巨大な天体のまわりで曲がる姿をとおして、その存在を読み取ります。見えないからといって、ないわけではないということを、宇宙はわたしたちに繰り返し教えてくれます。
暗黒物質の証拠は、銀河の回転だけではありません。巨大な銀河団が光を曲げる程度、宇宙背景放射に残った模様の細部、宇宙の巨大構造が編まれた様子まで、まったく異なるいくつもの観測が、すべて同じ結論を指し示します。見えない物質が宇宙に豊富に存在するということです。たがいに独立した証拠たちが声をそろえるとき、その結論はそうそう崩れません。
暗黒エネルギー — 加速する膨張
さらに驚くべき話は、1998年に登場しました。天文学者たちは、遠くにある超新星を観測して、宇宙の膨張が時間とともにどう変わってきたのかを追いました。だれもが予想した結果はこうでした。重力が万物をたがいに引き寄せるのだから、宇宙の膨張は時間がたつほど遅くなっているはずだ、と。
ところが観測の結果は正反対でした。宇宙の膨張は遅くなるどころか、だんだん速くなっていました。何かが重力に逆らって、宇宙をより速く押し広げていたのです。この正体不明の力を暗黒エネルギーと呼びます。宇宙全体のおよそ68パーセントを占めるように見えますが、やはりその本質は深い謎です。
この発見にまつわるひとつの印象的な点は、研究チームたちがはじめ、自分たちの観測結果を信じられなかったということです。彼らは宇宙の膨張がどれほど遅くなっているのかを測定しようとしたのですが、データは何度も正反対の答え、つまり膨張が速くなっているという答えを指し示しました。はじめはどこかに間違いがあるはずだと疑い、繰り返し点検しました。しかし、いくら見なおしても結果は同じで、ついに彼らはこの驚くべき事実を受け入れました。自分が期待していた答えでなくても、自然が見せてくれる結果の前に、素直に頭を下げること、それが科学者の最も難しく、そして最も重要な徳目です。この発見は2011年のノーベル物理学賞へとつながりました。
興味深い点は、この暗黒エネルギーが、先ほどアインシュタインが後悔したというまさにその宇宙定数と、深くつながっているということです。静的な宇宙をつくろうとして付け加え、廃棄したあの項が、形を変えて加速膨張を説明する核心の候補としてよみがえったのです。自分が生涯の過ちと呼んだアイデアが、じつは宇宙の最も大きな秘密を指し示していたということを、アインシュタインは知るよしもありませんでした。科学の歴史では、こうしてかつて捨てられた考えが、思いがけない姿で戻ってくることが、めずらしくありません。
宇宙の構成の比較
通常の物質 (星、惑星、ガス、そしてわたしたち) : およそ5パーセント
暗黒物質 (見えないが重力として作用) : およそ27パーセント
暗黒エネルギー (膨張を加速させる力) : およそ68パーセント
この表が語ってくれるのは、つつましい真実です。わたしたちが見て、触れて、知っているすべては、宇宙のたった5パーセントです。残りの95パーセントについて、わたしたちはそれがあるという事実を知るだけで、それが何なのかはまだわかりません。宇宙は今なお、人類にとって巨大な未知の領域です。
このくだりで、ひとつ強調したいことがあります。暗黒物質と暗黒エネルギーという名前に入った暗黒は、恐ろしいものや不吉な何かを意味するのではありません。ただわたしたちがまだそれを見ておらず、その正体を知らないという、素直な告白にすぎません。科学は、知らないことを知らないと正直に名づけるところから出発します。無知を隠さずにはっきりと印をつけておくこと、それが次の世代がその場所を埋めていけるようにする、科学のやり方です。もしかすると、今この文章を読んでいるだれかが、いつかこの95パーセントの正体を明らかにする人になるかもしれません。
世界中の科学者たちは、今も暗黒物質の正体をつかまえるために、ありとあらゆる努力をかたむけています。深い地下の実験室で、暗黒物質の粒子が残すかもしれない微細な痕跡を待つ検出器、巨大な粒子加速器、そして空全体を精密に測量する大型の望遠鏡たちが、すべてこの謎へと向けられています。まだ決定的な答えは出ていませんが、人類はこの闇に向かって、しつこく問いを投げかけつづけています。
時間をさかのぼる望遠鏡
宇宙を研究する仕事には、ほかの科学にはない特別な贈り物がひとつあります。それは過去を直接見ることができるということです。地質学者は土を掘って過去の痕跡を読み、古生物学者は化石で消えた生命をよみがえらせます。しかし天文学者は、空を見つめるだけで、文字どおり過去を目で直接見るのです。
光はどんなに速くても、無限に速いわけではありません。光がわたしたちに届くまでには時間がかかるので、遠くにある天体を見るということは、すなわちその天体の過去を見る仕事なのです。太陽を見ることはおよそ8分前の太陽を見ることであり、数百万光年離れた銀河を見ることは、数百万年前のその銀河を見ることです。より遠くを見るほど、わたしたちはより遠い過去をのぞき込むことになります。
だから天文学者たちは、より遠くを見る望遠鏡をとおして、宇宙が若かった時代の姿を直接観測しようと努めてきました。ハッブル宇宙望遠鏡は数十億年前の銀河たちを写しとり、最近活躍するジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、赤外線でさらに遠い過去を、宇宙最初の星と銀河がまさに生まれていた時期に近づいてのぞき込んでいます。遠くにある光ほど、宇宙の膨張のために波長が長く伸びて赤外線へ偏るのですが、ウェッブ望遠鏡は、まさにこの伸びた光をとらえるように設計されました。
このような観測は、単なる写真の収集ではありません。ビッグバン理論は、初期の宇宙にどんな種類の銀河がどんな姿であるべきかを予測するのですが、望遠鏡が実際にその時期をのぞき込むと、理論の予測を試すことができます。ある観測は理論とよく合い、ある観測は予想より早い時期に銀河があまりに速く育ったような意外な姿を見せて、科学者たちを楽しく悩ませることもあります。こうして理論と観測がたがいに押し引きしながら磨いていく過程が、生きている科学の姿です。宇宙論は、博物館に剥製にされた完成した知識ではなく、今この瞬間にも望遠鏡の前で更新されている、現在進行形の物語なのです。
ビッグバンをめぐる誤解と真実
ビッグバンについて、よく広まっている誤解を整理してみましょう。
まず、ビッグバンはある一点で起きた爆発ではありません。先ほど申し上げたように、空間そのものがあらゆるところで同時に膨張しはじめた出来事です。爆発が広がっていく空っぽの空間のようなものは、ありませんでした。
また、ビッグバン以前に何があったのかという問いは、少なくとも現在の物理学のなかでは答えにくいものです。時間そのものがビッグバンとともに始まったのなら、その以前という表現が意味を持ちにくいからです。北極からさらに北はどこかとたずねるのと、似たような状況かもしれません。北極に立てば、どの方向へ行っても南でしかなく、さらに北という方向は、ただ存在しません。ビッグバン以前という言葉も、それと似て、問いそのものが成り立たない可能性があります。もちろんこれは活発に議論されている主題であり、いくつもの仮説が提案されています。
だからといって、この問いが無意味だという意味ではありません。ある理論は、わたしたちの宇宙が以前の宇宙の収縮から生まれたと考え、また別の理論は、時間がビッグバンからなめらかに始まって、以前という概念そのものが消えてしまうと考えます。これらはみな真剣な科学的探究ですが、まだ観測でふるい分ける方法を見つけられていません。人類がこの問いにいつか答えられるのか、それとも永遠に届かない地平線として残るのかは、だれにもわかりません。答えを知らないということを正直に認めながらも、問いをあきらめないこと、それがこの巨大な問いの前で科学がとる態度です。
最後に、ビッグバン理論は、宇宙がどのように進化してきたのかを説明する非常に成功した科学理論であって、無から有が生まれた究極の起源を完全に説明するものではありません。科学は、観測可能な証拠が届くところまでわたしたちを連れて行き、その向こうについては正直に、わからないと言います。その正直さこそが、科学の力です。
二つの理論がぶつかり合った時代
ビッグバン理論が、はじめから定説だったわけではありません。20世紀半ばには、ビッグバン理論と定常宇宙論という二つの競合する理論が、互角に張り合っていました。定常宇宙論は、宇宙が膨張しても、その空いた場所に物質がたえず新しく生まれ、宇宙はつねに似たような姿を保つと主張しました。始まりも終わりもない宇宙という絵は、多くの人に魅力的に見えました。どちらが正しいのかは、結局は観測が決着をつけました。二つの理論の核心となる違いをまとめると、次のとおりです。
| 項目 | ビッグバン理論 | 定常宇宙論 |
| --- | --- | --- |
| 宇宙の始まり | およそ138億年前の熱い一状態から出発 | 始まりがなく永遠 |
| 宇宙の変化 | 時間とともに冷えて進化する | 大きな規模でつねに似た姿を保つ |
| 宇宙背景放射 | 必ず存在しなければならない | 自然に説明するのが難しい |
| 軽い元素の比率 | 正確に予測する | 説明が厄介 |
| 現在の位置 | 観測によって標準理論として確立 | 決定的な証拠の前に押しのけられる |
宇宙背景放射の発見と、軽い元素の比率の一致は、この競争でビッグバン理論にはっきりと軍配を上げました。興味深いことに、ビッグバンという名前をつけたフレッド・ホイルは、最後まで定常宇宙論を支持した側でした。科学は、だれの声が大きいかではなく、どちらが観測とよりよく合うかで勝負が決まるということを、この歴史がよく示しています。
まだ答えられていない問いたち
ビッグバン理論は、人類が持つ最も成功した宇宙の物語ですが、その周りには、いまだ解けない巨大な問いたちがぶら下がっています。これらの問いを正直に広げてみせることは、恥ずかしいことではなく、むしろ科学がどれほど正直で、またどれほど生きているのかを示すことです。
第一に、ビッグバンのまさにその最初の刹那には、何が起きたのでしょうか。先ほど申し上げたように、その極端な瞬間を説明するには、重力と量子理論をひとつに結ぶ新しい物理学が必要です。ひも理論やループ量子重力のようないくつもの候補が提案されていますが、まだ観測で確認された最終的な答えはありません。
第二に、暗黒物質と暗黒エネルギーの正体は何でしょうか。宇宙の95パーセントを占めるこの二つの存在の本質を知らないということは、わたしたちが宇宙という本の表紙と数ページだけを読んだだけで、本文の大部分はまだ開いて見ていないという意味でもあります。
第三に、わたしたちの宇宙がすべてなのでしょうか。一部の理論は、インフレーションがただ一度ではなく、いくつもの場所でたえず起こって、わたしたちの宇宙が数多くの宇宙のなかのひとつかもしれないという、多元宇宙の可能性を提起します。これはとても興味深い発想ですが、ほかの宇宙を直接観測することはきわめて難しいため、まだ検証を待つ仮説の領域にとどまっています。科学は、このような大胆な想像も歓迎しつつ、証拠なしには結論を出さないという原則を守ります。
これらの未解決の問いは、宇宙論が終わった学問ではなく、今まさに興味深い章へと入りはじめた学問であることを物語っています。わたしたちが知っていることよりも知らないことのほうがはるかに多いという事実は、挫折ではなく、ときめきの理由です。これから広がっていく発見が、わたしたちをどこへ連れて行くのか、まだだれにもわからないのですから。
宇宙の未来 — いくつもの枝に分かれた結末
始まりを語ったのですから、終わりも気になってきます。宇宙はこれからどうなるのでしょうか。今のところ断定はできませんが、科学者たちはいくつかのシナリオを示します。暗黒エネルギーがこれからどうふるまうかによって、宇宙の運命が分かれます。
宇宙の未来を語るとき、わたしたちは正直になる必要があります。これはビッグバンの証拠のように観測で確認された事実ではなく、現在の知識をもとにした慎重な予測です。とりわけ宇宙の95パーセントを占める暗黒エネルギーの本質を知らないかぎり、どんな結末も確定することはできません。以下のシナリオたちは、決まった運命ではなく、わたしたちが今描くことのできる可能性の地図として、受け取っていただきたいと思います。
大凍結 (熱的死)
現在の観測に最もよく合うシナリオです。暗黒エネルギーが今のように宇宙を加速膨張させつづけるなら、銀河たちはだんだん遠ざかり、ついにたがいの視界から消えてしまいます。星たちはひとつ、またひとつと燃料を使い果たして消えていき、新しい星が生まれる材料も底をつきます。とても遠い未来の宇宙は、だんだん暗く冷たく、がらんとした空間になっていきます。すべてのエネルギーが均等に散らばって、もはや何の出来事も起こりえない状態、これを熱的死、あるいは大凍結と呼びます。時間でいえば、想像することさえ難しい、はるかかなたの未来の出来事です。
このシナリオには、ひとつ妙にもの寂しい面があります。遠い未来にある知的な存在が宇宙を見上げたなら、そのときは加速膨張のために、ほかの銀河がすでに視界の外へ消えてしまったあとかもしれません。彼らは自分の銀河の向こうには何もないと、宇宙ははじめからずっとこれくらいだったと結論づけるかもしれません。宇宙が膨張するという事実も、ビッグバンの証拠である宇宙背景放射も、そのときには届かないでしょう。わたしたちが今、宇宙の歴史を読み解くことができるのは、もしかすると宇宙の時間のなかで、証拠がまだわたしたちのそばにとどまっている、運のよい時期に生きているからかもしれません。この事実は、今わたしたちが見ている夜空を、このうえなく貴い贈り物のように感じさせます。
大収縮
もし未来のある時点で重力がふたたび優勢になれば、宇宙の膨張が止まって、逆に収縮しはじめるかもしれません。すべてがふたたび近づいて熱くなり、結局はビッグバンを逆に回したように、一点に集まります。これを大収縮と呼びます。ただし、現在の加速膨張の観測を見ると、このシナリオの可能性は低いほうだと考えられています。
大分裂
もうひとつの可能性は、暗黒エネルギーが時間とともにいっそう強力になる場合です。そうなると、膨張の力がだんだん激しくなって、銀河と星、惑星、ついには原子までもずたずたに引き裂いてしまいます。宇宙のすべての構造がばらばらに砕けるこの極端な結末を、大分裂と呼びます。ただし、これもまた、いくつもの仮説のひとつにすぎません。
この三つのシナリオを並べて見ると、宇宙の運命が結局はただひとつの未知数、すなわち暗黒エネルギーの性質にかかっていることがわかります。暗黒エネルギーが変わることなく一定なら大凍結へ、弱まって重力に場所をゆずるなら大収縮へ、だんだん強まるなら大分裂へと向かいます。宇宙の始まりを明らかにした人類が、今度はその終わりを分ける鍵を探しているわけです。その鍵は、宇宙の95パーセントという巨大な闇のなかに隠れています。
どのシナリオが真実なのかは、暗黒エネルギーの本質をもっと深く理解しなければわかりません。宇宙の終わりを問う問いは、すなわち宇宙の95パーセントを占める未知の存在を問う問いでもあります。
これらのシナリオのなかのどれも、わたしたちが生きているあいだに、いや人類という種が存在しているあいだに起こることではありません。宇宙の終末は、数百億年、あるいはそれよりはるかにはるかな時間の向こうの出来事です。ですから恐れる必要は、まったくありません。むしろ興味深いのは、わたしたちがそれほど遠い未来を真剣に計算し、想像できるようになったという事実そのものです。138億年の時間をさかのぼって始まりをはかり、ふたたび想像することも難しい未来へ向かって結末を描いてみること、その広大な時間の両端を一人の頭のなかに収めることができるというのは、人間の知性の驚くべき能力です。
ちょっと考えてみるクイズ
読んだ内容を整理してみるついでに、いくつかの問いを差し上げます。まずは自分で答えを思い浮かべてみたあと、下の解説を確かめてみてください。正解を当てることよりも、なぜそうなのかを自分で説明してみる過程のほうが、はるかに価値があります。
問題1。すべての銀河がわたしたちから遠ざかるなら、わたしたちの天の川銀河が宇宙の中心だという意味でしょうか。
問題2。ペンジアスとウィルソンが1964年に偶然発見した雑音の正体は、何だったのでしょうか。
問題3。わたしたちの目に見える通常の物質は、宇宙全体でだいたい何パーセントを占めるのでしょうか。
問題4。宇宙の年齢は、およそ何年と推定されるのでしょうか。
問題5。ビッグバンは、がらんとした空間のどこかで起きた爆発だったのでしょうか。
問題6。炭素、酸素、鉄のような重い元素は、どこでつくられたのでしょうか。
それでは解説です。
解説1。いいえ。レーズンパンのたとえのように、空間そのものがあらゆるところで伸びるため、どの銀河から見ても、ほかの銀河が遠ざかるように見えます。宇宙には特別な中心がありません。
解説2。それは宇宙マイクロ波背景放射、すなわち宇宙背景放射でした。ビッグバン後およそ38万年が過ぎた時点で解き放たれた、宇宙で最も古い光の残熱です。この発見は、ビッグバン理論の決定的な証拠となりました。
解説3。およそ5パーセントです。残りのうちおよそ27パーセントは暗黒物質、およそ68パーセントは暗黒エネルギーで、どちらもまだ正体が明らかになっていません。
解説4。およそ138億年です。膨張速度、宇宙背景放射の分析、最も古い星の年齢など、いくつもの独立した方法が、すべて似たような値を指し示します。
解説5。いいえ。ビッグバンは、ある空っぽの空間のなかで起きた爆発ではなく、空間と時間そのものの始まりでした。爆発が広がっていく外側の空間のようなものは、存在しませんでした。
解説6。ビッグバンではなく、その後に生まれた星たちの内部と、超新星の爆発の過程でつくられました。ビッグバン直後には主に水素とヘリウムだけがつくられ、重い元素たちは星の一生をとおしてかたちづくられ、宇宙へまき散らされました。わたしたちの体が星の塵だという言葉は、ここから出てきます。
解説を読みながら、いかがでしたか。一つや二つ間違えたとしても、だいじょうぶです。これらの問いはじつは、百年前まではまだ人類全体が答えられなかったものなのですから。わたしたちが今その答えを知っているということ自体が、数多くの科学者たちが積み上げてきた努力の贈り物です。
ビッグバンの物語がわたしたちに残すもの
宇宙の起源を語る仕事は、結局はわたしたち自身を語る仕事でもあります。ビッグバン理論が人類に与えた最も大きな贈り物は、ただ宇宙が138億歳だという数字ではありません。それは、わたしたちがどこから来たのか、わたしたちをかたちづくる物質がどんな旅路を経て、今ここに集まったのかについての、検証可能な本当の物語です。
この物語は、わたしたちに謙虚さを教えます。わたしたちは宇宙の5パーセントしか知らず、広大な時間のなかの刹那を生きる小さな存在です。同時にこの物語は、わたしたちに誇りを与えます。その小さな存在が、望遠鏡と方程式、そしてしつこい好奇心だけで、宇宙全体の歴史を読み解いたのですから。謙虚さと誇り、この二つをともに抱くことこそが、科学がわたしたちに育ててくれる、心のバランスなのかもしれません。
また、ビッグバンの物語は、科学がどのように働くのかを一目で見せてくれる、よい手本です。ひとつの大胆な仮説が示され、検証可能な予測がそれに続き、その予測が観測で確認され、残された疑問が次の研究を導くこの循環。宇宙背景放射の予測と発見、軽い元素の比率の一致、宇宙の加速膨張の思いがけない観測まで、このすべての過程が、まさにその循環の生きた実例です。ビッグバンを理解するということは、宇宙のひとつのことを知るにとどまらず、人類が真理に近づいていく方法そのものを学ぶことでもあります。
そして、この物語はまだ終わっていません。暗黒物質の正体、暗黒エネルギーの本質、ビッグバンの最初の刹那、宇宙の究極の運命まで、巨大な問いたちが、いまだにわたしたちを待っています。その答えを見つける仕事は、次の世代の役目として残されています。今夜、夜空を見上げる幼いだれかが、いつかこの空欄を埋める人になるかもしれません。
おわりに — 宇宙を理解しようとする心
ふたたび、はじめの夜空に戻ってみます。わたしたちは今、あの星の光が単なる点ではなく、138億年という時間を渡ってきた物語であることを知っています。ある星の光は、その星がすでに消えたあとでも、宇宙を横切ってわたしたちの目に届きます。わたしたちが夜空を見るということは、じつは宇宙の過去を見る仕事なのです。
この文章をたどりながら、わたしたちはかなり遠い道を歩いてきました。静止していると信じられていた宇宙が、じつは膨張していて、時間をさかのぼると熱い始まりがあり、その始まりは、宇宙を満たす冷たいこだまと、軽い元素たちの比率として、自らの痕跡を残しました。宇宙は138億歳で、わたしたちが見て触れるものはそのうちのたった5パーセントであり、残りはいまだ闇のなかにあります。そして宇宙の終わりは、いくつもの枝に開かれています。このすべてを、人類はわずか百年あまりのあいだに解き明かしました。
さらに驚くべき事実は、宇宙の片すみで生まれたわたしたちという存在が、宇宙全体の歴史をはかることができるようになったということです。138億年の宇宙の時間のなかで、宇宙自身を理解しようとする心が生まれたということは、それ自体が驚くべきことです。星の塵からつくられたわたしたちが、自分をつくったその星と宇宙を問いなおしているのですから。
考えてみれば、このすべての物語は、望遠鏡の前で夜通し座っていた一人の人、消えない雑音を最後まで見過ごさなかった二人の技術者、方程式が告げる不都合な真実を受け入れた物理学者たちから始まりました。宇宙の起源という巨大な物語は、結局は小さな好奇心を最後まで追いかけた、ふつうの人々の粘り強さによって書かれたのです。彼らにはひとつの共通点がありました。知らないということを認め、それでもなお問うことをやめなかったということです。
ビッグバン理論は、完成した正解ではなく、人類がこれまでにたどり着いた、最も正直で強力な物語です。わたしたちは宇宙の5パーセントしか知らず、その始まりと終わりには、いまだに巨大な疑問符がかかっています。けれども、知らないということを知ること、そしてその未知に向かって望遠鏡を持ち、問いをやめないこと、それが人類が星に向かって歩んできた道です。
もしかすると、宇宙の最も大きな神秘は、宇宙そのものではなく、その宇宙を理解できる存在が、宇宙のなかから生まれたという事実なのかもしれません。星の塵が集まって考える存在になり、その存在がふたたび星と宇宙の起源を問うというこの循環は、どんな神話よりも、いっそう驚くべき本当の物語です。わたしたちが宇宙の始まりを問うかぎり、その問いのなかで宇宙は、自分自身を知っていくわけです。
考えるための材料
今夜、空を一度見上げてみることをおすすめします。そして、こんな問いを思い浮かべてみてください。わたしたちが見る星の光のなかには、すでに消えた星の最後のあいさつであるものも、あるかもしれません。その事実は、時間と距離についてのわたしたちの感覚を、どう変えるでしょうか。宇宙の95パーセントが未知のまま残っているという事実は、人間の知識について、どんな態度を持たせるでしょうか。そして、もし宇宙に終わりがあるとしたら、その終わりを知ることは、今日わたしたちが生きていく生き方に、どんな意味を与えるでしょうか。
答えが決まっていない問いの前に立つこと、それこそが宇宙がわたしたちに与えてくれる、最も大きな贈り物なのかもしれません。
最後に、もうひとつおすすめしたいことがあります。次にだれかといっしょに夜空を見る機会があったら、今日読んだ話のなかからひとつを分かち合ってみてください。あの星の光が138億年を渡ってきた物語だということ、わたしたちの体が星の塵からできているということ、そして宇宙の95パーセントがまだ未知のまま残されているということ。科学の最も大きな喜びは、ひとりで知ることにあるのではなく、その驚きを分かち合うことにあります。宇宙の物語は、いっしょに見上げるとき、最も輝きます。
参考資料
- NASA, Universe and Big Bang overview: https://science.nasa.gov/universe/
- NASA, Cosmic Microwave Background (WMAP): https://wmap.gsfc.nasa.gov/
- ESA, Planck mission: https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Planck
- Encyclopaedia Britannica, Big Bang: https://www.britannica.com/science/big-bang-model
- Stanford Encyclopedia of Philosophy, Cosmology: https://plato.stanford.edu/entries/cosmology/
- Nature, cosmology research and news: https://www.nature.com/subjects/cosmology
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