工業数学シリーズ 第14回:対角化と動的システム
固有値と固有ベクトルを学ぶ本当の理由は対角化にあります。対角化ができれば、複雑な行列問題を互いに独立な1次元の問題に分けて考えることができます。
対角化とは何か
行列$A$が十分な数の線形独立な固有ベクトルを持てば
$$A = PDP^{-1}$$
と書けます。
ここで
- $P$は固有ベクトルを列ベクトルとして並べた行列
- $D$は固有値が対角線上に置かれた対角行列
です。
対角行列はべき乗、指数関数、反復適用が非常に簡単です。そのため動力学システム分析で強力です。
なぜ動的システムに重要なのか
連立微分方程式
$$\mathbf{x}' = A\mathbf{x}$$
の解は
$$\mathbf{x}(t) = e^{At}\mathbf{x}(0)$$
の形で書かれます。もし$A$が対角化されれば
$$e^{At} = Pe^{Dt}P^{-1}$$
で、$e^{Dt}$は対角線要素にそれぞれ指数関数を適用すればよいです。
つまりシステムが各固有方向でどれだけ速く大きくなったり小さくなったりするかをすぐに読み取れます。
手で解く例題
次の行列を見てみましょう。
$$
A =
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
-2 & -3
\end{pmatrix}
$$
特性方程式は
$$
\det
\begin{pmatrix}
-\lambda & 1 \\
-2 & -3-\lambda
\end{pmatrix}
= \lambda^2 + 3\lambda + 2 = 0
$$
なので
$$\lambda = -1, \quad -2$$
です。
固有値が互いに異なるので対角化可能です。この事実だけでもシステムが2つの減衰モードを持つことがわかります。
解はおおよそ
$$\mathbf{x}(t) = c_1 e^{-t}\mathbf{v}_1 + c_2 e^{-2t}\mathbf{v}_2$$
の形になります。時間が長くなると$e^{-2t}$の項はより速く消え、結局より遅く減少する$e^{-t}$モードが長期的な振る舞いを支配します。
これがまさに動力学で「支配モード」を読む方法です。
工学応用
制御工学の安定性
状態行列の固有値の実部がすべて負であれば、線形システムは安定な方向に収束します。
ネットワークと拡散
接続構造を表す行列のスペクトルは情報伝播速度、拡散モード、収束特性と結びつきます。
機械と構造システム
複数の自由度を持つ振動システムはモード別に分けて解析するのが基本です。
対角化ができない場合
すべての行列が対角化可能なわけではありません。しかし入門段階ではまず「対角化ができる場合」がなぜ良いのかを理解することが重要です。その後、ジョルダン標準形や数値的分解でより一般的な状況を扱います。
よくある間違い
対角化の公式を暗記するだけ
$A=PDP^{-1}$は計算記号ではなく、座標を固有ベクトル方向に変える過程です。
固有値だけ見て初期条件を無視する
どのモードが実際にどれだけ現れるかは初期条件が決めます。
速く減少するモードと遅く減少するモードを区別しない
動的システムでは長期的な振る舞いを支配するモードを読む練習が非常に重要です。
一行まとめ
対角化は連立システムを独立なモードに分解して動的な振る舞いを読ませてくれる核心ツールです。
次回予告
次のバッチからは空間内の変化と流れを扱う**ベクトルとベクトル微積分**に移ります。
参考資料
- Erwin Kreyszig, _Advanced Engineering Mathematics_, 10th Edition
- Gene H. Golub, Charles F. Van Loan, _Matrix Computations_
- Hassan K. Khalil, _Nonlinear Systems_
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固有値と固有ベクトルを学ぶ本当の理由は対角化にあります。対角化ができれば、複雑な行列問題を互いに独立な1次元の問題に分けて考えることができます。