工業数学シリーズ 第13回:固有値と固有ベクトル
固有値と固有ベクトルは最初は抽象的に感じますが、実は行列が空間をどのように変えるかを最も凝縮して教えてくれる概念です。変換を経ても方向が変わらずに大きさだけ変わるベクトルがあり、その方向がまさに固有ベクトルです。
定義
行列$A$と0でないベクトル$\mathbf{v}$に対して
$$A\mathbf{v} = \lambda \mathbf{v}$$
を満たせば、$\lambda$を固有値、$\mathbf{v}$を対応する固有ベクトルと呼びます。
つまり行列がある特別な方向に対しては回転させずに、単に伸ばしたり縮めたりするだけという意味です。
なぜ重要なのか
固有値はシステムの核心モードを示します。
- 動力学システムの成長と減衰
- 振動システムの固有モード
- データの主要な方向
これらすべてが固有値問題と結びつきます。
どう求めるか
定義式から
$$A\mathbf{v} = \lambda \mathbf{v}$$
を移項すると
$$ (A - \lambda I)\mathbf{v} = 0 $$
となります。自明でない解があるためには
$$\det(A - \lambda I) = 0$$
でなければなりません。この式を**特性方程式**と呼びます。
手で解く例題
行列
$$
A =
\begin{pmatrix}
2 & 1 \\
0 & 3
\end{pmatrix}
$$
を見てみましょう。
特性方程式は
$$
\det
\begin{pmatrix}
2-\lambda & 1 \\
0 & 3-\lambda
\end{pmatrix}
= (2-\lambda)(3-\lambda)=0
$$
なので固有値は
$$\lambda_1 = 2, \quad \lambda_2 = 3$$
です。
$\lambda = 2$のとき
$$
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
0 & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x \\
y
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0 \\
0
\end{pmatrix}
$$
なので$y=0$で、固有ベクトルは
$$
\mathbf{v}_1 =
\begin{pmatrix}
1 \\
0
\end{pmatrix}
$$
の倍数です。
$\lambda = 3$のとき
$$
\begin{pmatrix}
-1 & 1 \\
0 & 0
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x \\
y
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0 \\
0
\end{pmatrix}
$$
なので$y=x$で、固有ベクトルは
$$
\mathbf{v}_2 =
\begin{pmatrix}
1 \\
1
\end{pmatrix}
$$
の倍数です。
解釈
この行列はあるベクトルは2倍、あるベクトルは3倍しながら方向はそのまま維持します。一般のベクトルは複数の固有方向の組み合わせとして見ることができ、そのため行列の作用をはるかに構造的に理解できます。
工学応用
振動解析
構造物の固有振動数とモード形状は固有値問題として現れます。
制御システム
線形システム行列の固有値は安定性と応答速度を決定します。
機械学習
PCAは共分散行列の固有値と固有ベクトルを利用してデータの主要な方向を見つけます。
よくある間違い
固有値だけ求めて終わる
固有ベクトルまで求めてこそシステムの実際の方向構造を理解できます。
すべての行列がきれいに分解されると思う
一部の行列は十分な固有ベクトルを持たず対角化できません。この点は次の記事で続けます。
計算と解釈を分離する
固有値が正か負か、大きいか小さいかはシステムの意味と直接結びつきます。
一行まとめ
固有値と固有ベクトルは行列が特別な方向をどのように伸ばし縮めるかを示す核心概念です。
次回予告
次の記事では固有値のアイデアをもう一段階進めて、**対角化と動的システム解析**に結びつけます。
参考資料
- Erwin Kreyszig, _Advanced Engineering Mathematics_, 10th Edition
- Gilbert Strang, _Linear Algebra for Everyone_
- Carl D. Meyer, _Matrix Analysis and Applied Linear Algebra_
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