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ライブコーディング音楽 2026 — Sonic Pi・TidalCycles・Strudelで開発者がミュージシャンになる方法(Algorave 深掘りガイド)

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プロローグ — 開発者だってミュージシャンになれる

深夜。モニター二枚。片方にエディタ、もう片方に波形。キーボードを叩くとスピーカーからベースが鳴る。一行直してCmd+Enterを押すと、次の小節からビートが変わる。

これは魔法ではない。ライブコーディング音楽(live coding music) だ。

DAW(Digital Audio Workstation)に触ったことのないバックエンド開発者でも、コードを打てる人なら30分で最初のビートを作れる。音楽理論はいらない。楽器も習わなくていい。必要なのはテキストエディタ、スピーカー、そしてほんの少しの好奇心だけだ。

ライブコーディングは2000年代初頭、英国シェフィールドで始まった。Alex McLeanらが「コードで音楽を即興演奏できないか?」という問いから出発し、2004年にTOPLAP(The (Temporary | Transnational | Terrestrial | Transdimensional) Organisation for the (Promotion | Proliferation | Permanence | Purity) of Live Algorithm Programming)というふざけた名前の運動として整理された。TOPLAP宣言(manifesto)の核心はシンプルだ — アルゴリズムは思考であり、思考は見えるべきだ。 ライブコーダーは自分の画面を観客に公開する。ビートがどう作られ、どこで失敗し、どう立て直したか、全部見える。

本記事はライブコーディングの三つの主要システムを一気に整理する。

  • Sonic Pi — Ruby ベース、入門に最適、英国の教室数百か所で使われている。
  • TidalCycles — Haskell の上のパターン言語、テクノ・IDM・ブレイクコアの本場。
  • Strudel — TidalCycles の JavaScript 移植、ブラウザで即実行。

加えて FoxDot・Csound・ORCA といった派生、Algorave というシーン、そして30分で最初のビートを作るチュートリアルまで。


1章 · 「ライブコーディング」とは何か

ライブコーディングは二つのことを同時に指す。

(1) 行為としてのライブコーディング。 ステージ上でリアルタイムにコードを書きながら音楽(または映像)を作るパフォーマンス。空のエディタから始めて一時間でビートを積み上げる。失敗も全部見える。それが魅力だ。

(2) ツールとしてのライブコーディング。 音楽を作るための環境。DAW の GUI ではなくテキストでパターンを記述し、実行すると即音が鳴り、直してまた実行すると次の小節から音が変わる。

両者は一緒に語られるが、どちらか片方だけでもいい。ステージに上がらなくてもライブコーディングで音楽は作れる。逆に、ステージでやるからといってクラブミュージックに縛られる必要もない — クラシック系のライブコーダーもいればノイズ系のライブコーダーもいる。

Algorave — クラブに入ったアルゴリズム

Algorave は「algorithm + rave」の合成語。2012年に英国で始まった。ライブコーダーがクラブに行き、DJ ブースの代わりにコードを投影し、観客はその前で踊る。

コードが画面に見えるのは単なるギミックではない。観客は一行が変わってビートがどう変化するかを見る。料理人が厨房を公開するオマカセに似ている — 結果だけを楽しむのではなく、作る過程ごと味わう。

2026年現在、Algorave は世界的な定期イベントだ。ロンドン・ベルリン・東京・ソウル・メキシコシティ・サンパウロ・ニューヨーク — 毎年数十のイベントが開かれる。ライブコーディングはもはや学術実験ではなく、音楽シーンの一ジャンルだ。

TOPLAP 宣言の6原則

ライブコーダーが大事にしているもののまとめ。

  1. 画面を見せろ(give us access to the performer's mind)。 ノートPCに布をかけるな。
  2. アルゴリズムは思考だ。 思考が音楽になる。
  3. コードは道具であり楽器だ。 ライブコーディングは道具を作る行為でもある。
  4. ジャンルに縛られるな。 テクノだけがライブコーディングではない。
  5. 上手かろうが下手だろうが人前でコーディングしろ。 失敗していい。
  6. マウスを使うな(半分冗談)。 テキストだけで全部やる。

もちろん6番は冗談で、実際には OSC・MIDI コントローラも自由に使う。核心は「テキストが第一級市民(first-class citizen)である」という精神だ。


2章 · Sonic Pi — Ruby から始めるライブコーディング

ライブコーディング入門で多くの人が躓くのは「Haskell ですか?」のあたり。だから Sam Aaron は Ruby を選んだ。

Sonic Pi とは

Sam Aaron(ケンブリッジ計算機研究所出身)が2012年から作り始めたライブコーディング環境。Ruby DSL で音楽を記述し、バックエンドは SuperCollider(C++ ベースの音楽エンジン)。macOS・Windows・Linux・Raspberry Pi で動く。

Sonic Pi が他のツールと違う点は二つ。

  1. 教育に向く。 英国 BBC の micro:bit キャンペーン、Raspberry Pi Foundation の教室コーディング、Aaron 本人のケンブリッジ学校巡回 — 数万人のティーンエイジャーが Sonic Pi で初めてコーディングを学ぶ。
  2. タイミングモデルが明示的。 sleep 0.5 のような命令が「壁時計時間」ではなく「音楽時間」として動く。重い関数呼び出しがあってもビートが遅れない。

インストール(30秒)

https://sonic-pi.net/ で OS 別のインストーラを取る。macOS は dmg、Windows は msi、Linux は AppImage。Raspberry Pi では sudo apt install sonic-pi だけで終わり。

起動すると左にエディタ・右にログ・下にトラックビジュアライザが表示される。v5 は2024年末にリリースされ、新しいシンセエンジン、より精確なタイミングモデル、M シリーズ Mac でのネイティブビルドが含まれた。

最初のビート — kick・snare・hat

以下をエディタに貼り付けて Cmd+R(Run)を押す。

# Sonic Pi — 4-on-the-floor 基本ビート
use_bpm 120

live_loop :kick do
  sample :bd_haus
  sleep 1
end

live_loop :snare do
  sleep 1
  sample :sn_dolf
  sleep 1
end

live_loop :hat do
  16.times do
    sample :drum_cymbal_closed, amp: 0.4
    sleep 0.25
  end
end

読み方。

  • use_bpm 120 — 1分120拍。1拍 = sleep 1
  • live_loop — ライブコーディングの核心。無限ループだが、コードを直して再度 Run すると 次のサイクルから 新しいコードが適用される。切れ目なく変わる。
  • sample :bd_haus — 組み込みサンプル。:bd_* がキック、:sn_* がスネア、:drum_cymbal_* がハイハット。
  • sleep — 次のイベントまで待つ音楽時間。

これを走らせると即四つ打ちが鳴る。次に hat ループの 0.250.125 に変えて Run し直してみる。次の小節から16分が32分になる。これがライブコーディングだ。

メロディを一行追加

live_loop :bass do
  use_synth :tb303
  play (ring :c2, :c2, :eb2, :g2).tick, release: 0.4, cutoff: rrand(70, 110)
  sleep 0.5
end

(ring :c2, :c2, :eb2, :g2) は4音を巡る環状リスト。.tick が呼び出しごとに次のインデックスを取り出す。rrand(70, 110) は拍ごとに70〜110の乱数でフィルタカットオフを揺らす — 同じパターンなのに毎回少し違って聞こえる。

Sonic Pi の魅力はまさにこの「一行ずつ積み上げる」流儀にある。「曲を作る」ではなく 「ビートをライブで彫り上げる」 のほうが正確だ。

Sonic Pi が合う人

  • ライブコーディングが初めての人。
  • Ruby あるいは OOP 言語に親しんでいる人。
  • 学生・教室で教える人。
  • Raspberry Pi・micro:bit のような SBC と組み合わせたい人。

3章 · TidalCycles — Haskell の上で育ったパターン言語

TidalCycles はライブコーディング世界の本場であり、「ライブコーディングはなぜ単なるシーケンサーではないのか」を示す代表作だ。

Tidal とは

2009年、Alex McLean(英国・音楽と計算機科学の博士)が作った Haskell ライブラリ。バックエンドは SuperDirt(SuperCollider の上のサンプル再生エンジン)。macOS・Windows・Linux で動くが、入門ハードルが最も高い — Haskell・SuperCollider・エディタ(VS Code・Pulsar・Atom・Emacs)の三点セットを揃える必要がある。

それでも人々が Tidal を使う理由はひとつ — ミニ記法(mini-notation) というパターン言語のためだ。

ミニ記法 — 言語の中の言語

Tidal は Haskell の中で動くが、パターンを記述するときは Haskell ではなく独自の小さな言語を使う。それがミニ記法だ。

-- TidalCycles — 4-on-the-floor 基本ビート
d1 $ s "bd bd bd bd"            -- キック、1サイクルで4回
d2 $ s "~ sd ~ sd"              -- スネア、2拍目と4拍目
d3 $ s "hh*16" # gain 0.6       -- ハイハット、16分割

読み方。

  • d1d2d3 — 9本のオーケストラチャンネル(ストリーム)。それぞれ独立に回る。
  • s "..." — サンプルパターン。クォート内がミニ記法。
  • "bd bd bd bd" — bd サンプルを1サイクルで4等分。
  • チルダ記号は休符(silence)。つまり「休 sd 休 sd」はバックビート。
  • アスタリスク — hh*16 は hh を16回反復。
  • # gain 0.6 — ゲイン60%。

この短いコードで本格的なビートが作れる。だがミニ記法が本当に光るのは次のような表現力だ。

-- 変化のあるミニ記法
d1 $ s "bd(3,8)"                -- 8ステップ中3パルス、ユークリッド分配
d2 $ s "[bd, ~ sd] [hh*4]"      -- 同時発音と入れ子パターン
d3 $ slow 2 $ s "rim*8"         -- パターンを2倍ゆっくり
d4 $ every 4 (rev) $ s "cp*4"   -- 4サイクルごとにパターンを反転
  • bd(3,8) — ユークリッドリズム(Euclidean rhythm)。8ステップを3パルスで最も均等に配置。自然なポリリズムが自動で出る。
  • 角括弧 — パターンのグルーピングと入れ子。
  • slowfastrevevery — 時間軸でパターンを変形する関数。

ミニ記法が「単なるシーケンサ表記」ではない理由がここにある。パターンが第一級値(first-class value)で、関数がパターンを変形する。だから関数型プログラミングを愛する者ほど Tidal にハマる。

インストール — 一番難しい部分

Tidal のインストールはライブコーディング入門で最大の障壁だ。手順はこうだ。

  1. SuperCollider をインストール(音楽エンジン)。
  2. SuperDirt をインストール(SuperCollider 内で Quarks.install("SuperDirt"))。
  3. Haskell と GHC をインストール(ghcup 推奨)。
  4. Tidal パッケージをインストール(cabal install tidal)。
  5. エディタプラグイン — VS Code の TidalCycles 拡張が現実的な選択。

この5ステップで初挑戦者の約70%はどこかで詰まる。だからこそ Strudel が生まれた。

それでも Tidal を使う理由

インストールが大変なのに人々が Tidal から離れない理由は、表現力の天井が事実上ない ことだ。Haskell の上にあるからパターンを関数化し、関数を合成し、自分のライブラリを書ける。そして SuperDirt の上にあるから SuperCollider の全シンセ・エフェクトが触れる。

テクノ・ブレイクコア・IDM・ノイズ — クラブで速いビートをコードしながら鳴らすには、Tidal が最も強力だ。


4章 · Strudel — TidalCycles がブラウザにやってきた

Tidal のインストール地獄を一発で解決したのが Strudel だ。

Strudel とは

Felix Roos が主導して2022年から開発している TidalCycles の JavaScript 移植https://strudel.cc/ を開けば即コーディング開始。インストールも SuperCollider も Haskell もいらない。

Strudel は Tidal のミニ記法をほぼそのまま受け継いだ。だから Tidal を知っていれば数分で適応できる。違いはホスト言語が JavaScript なので、関数合成はメソッドチェーンで書く点だ。

最初のビート — ブラウザで

https://strudel.cc/ を開き、以下を貼り付けて Ctrl+Enter を押す。

// Strudel — 4-on-the-floor 基本ビート
stack(
  s("bd bd bd bd"),               // キック
  s("~ sd ~ sd"),                 // スネア
  s("hh*16").gain(0.5),           // ハイハット
  note("c2 c2 eb2 g2").s("sawtooth").cutoff(800).resonance(15)
)

読み方。

  • stack(...) — 複数のパターンを同時再生。
  • s("...") — サンプルパターン。ミニ記法構文は Tidal と同一。
  • .gain(0.5) — メソッドチェーンでゲインを調整。
  • note("c2 c2 eb2 g2") — 音高(MIDI ノート)パターン。
  • .s("sawtooth") — ノコギリ波シンセで再生。
  • .cutoff(800).resonance(15) — ローパスフィルタ。

以上だ。インストールもサインアップも不要。URL を開いた瞬間ライブコーディングが始まる。

Strudel が起こした変化

2022年以降に Strudel が起こした変化は三つ。

  1. 入門ハードルがゼロ。 Tidal インストール5ステップが「URL を開く」1ステップになった。Algorave 入門者の80%以上が今や Strudel から始める。
  2. 共有が簡単。 Strudel REPL はコードを URL にエンコードして共有リンクを作る。一行ビートをツイッターにリンクで貼れる。
  3. Web オーディオ + ビジュアル。 ブラウザ内なので Canvas・WebGL と自然に結合する。Hydra(ライブコーディング向け映像ツール)と Strudel が同じページで一緒に動く。

Strudel vs Tidal — 何が違う?

ほぼ同じだが、次が異なる。

  • バックエンド。 Tidal は SuperDirt(デスクトップシンセ)、Strudel は Web Audio と独自シンセ・サンプル。
  • 表現力。 Tidal がやや豊か — SuperCollider 全シンセが使えるため。Strudel は着実に追いついている。
  • 本番パフォーマンス。 ステージライブではいまだに Tidal の利用率が高い。レイテンシ・シンセ品質で優位。ただし2025〜2026年で Strudel をステージに乗せるライブコーダーが急増した。
  • OSC・MIDI。 Tidal は自由に使える。Strudel も Web MIDI API で外部シンセ・ドラムマシンを駆動できる。

入門は Strudel、本格的なステージは Tidal — そう始めて徐々に移行する人が多い。


5章 · 派生 — FoxDot・Csound・ORCA

三大ツールが主流だが、面白い派生も多い。

FoxDot — Python ライブコーディング

Ryan Kirkbride(英国リーズ大学)が作った Python ベースのライブコーディング環境。バックエンドは SuperCollider、DSL は Python。

# FoxDot — 4-on-the-floor
Clock.bpm = 120
d1 >> play("x x x x")        # キック
d2 >> play("  o   o")        # スネア
d3 >> play("-" * 16, dur=0.25)  # ハイハット
b1 >> bass([0, 0, 3, 5], dur=0.5, oct=3)

d1 >> play("x x x x") という記法は「d1 チャンネルにこのパターンを送る」の意味。視覚的に流れが読みやすい。

FoxDot は Sonic Pi より豊かで Tidal より軽い。Python エコシステムと自然に結合するので、NumPy・SciPy でパターンを生成して流せる。コミュニティ規模は Tidal・Strudel・Sonic Pi より小さい。

Csound — コンピュータ音楽の祖父

1986年に MIT の Barry Vercoe が作った音楽合成言語。ライブコーディングの始祖格だが、もともとはテキストベースの音響合成ツールとして始まった。

; Csound — 単純なサイン波
instr 1
  asig oscili 0.5, 440, 1
  out asig
endin

i1 0 1

Csound はライブコーディングツールというより サウンドデザインツール だ。ライブで使うには Cbbage やライブコーディングモードを通す。だがシンセをゼロから作りたい、あるいはクラシック・実験音楽寄りなら、Csound はいまだに最強だ。

ORCA — 格子の上のエソテリック

派生の中で最も奇妙で最も魅惑的なのが ORCA。遊牧アーティストデュオ Hundred Rabbits の Devine Lu Linvega が作った。

ORCA はテキストエディタではなく 2D 格子(grid) だ。格子上に一文字のオペレータを配置すると、それらが互いに信号を交わし、MIDI・OSC・UDP を流す。

.....D8....
...........
.aT5...4Cc4
.....b.....
...........

各文字が一つの「オペレータ」。D はディレイ、C はカウンタ、T はトラッカ、ab は変数。ORCA 自身は音を出さない — 外部シンセに MIDI を送るだけだ。

ORCA は音楽ツールというより セルオートマトン(cellular automaton) に近い視覚的プログラミング環境。ライブコーダーは「エソテリック(esoteric)」な道具として愛している。一時間眺めていると格子が生きて動いて見える。


6章 · 30分で最初のビート — Strudel が最速

最速で最初のビートを作るコース。30分あれば十分。

0〜5分:環境を開く

https://strudel.cc/ を開く。画面はコードエディタになっている。右上の Play ボタンでデフォルトデモが鳴る。

デモを止めて(Stop)、コードを全削除する。

5〜10分:最初の一行

次の一行を打つ。

s("bd*4")

Ctrl+Enter(Mac は Cmd+Enter)。キックが4回鳴る。最初のビート完成だ。

10〜15分:スネアとハイハットを追加

stack(
  s("bd*4"),
  s("~ sd ~ sd"),
  s("hh*8").gain(0.5)
)

Ctrl+Enter。四つ打ちビートが完成する。

15〜20分:ベースライン

stack(
  s("bd*4"),
  s("~ sd ~ sd"),
  s("hh*8").gain(0.5),
  note("c2 c2 eb2 g2").s("sawtooth").cutoff(800)
)

c2eb2g2 は C マイナーコードの根音・3度・5度。その上に何を重ねてもそれなりに聴ける。

20〜25分:バリエーション

ベースに動きを加える。

stack(
  s("bd*4"),
  s("~ sd ~ sd"),
  s("hh*8").gain(0.5).sometimes(x => x.fast(2)),
  note("c2 c2 eb2 g2")
    .s("sawtooth")
    .cutoff(sine.range(400, 1200).slow(8))
    .resonance(10)
)
  • sometimes(x => x.fast(2)) — 約50%の確率でパターンを2倍速に。
  • sine.range(400, 1200).slow(8) — サイン波で400〜1200Hz の間でカットオフを8サイクルかけて揺らす。クラブ音楽の定番「フィルタスイープ」だ。

25〜30分:共有

Strudel REPL の左上の Share ボタンを押すと、コードがエンコードされた URL が生成される。ツイッター・Discord に貼ればその URL を開いた相手も同じビートを聴ける。

30分で最初のビートを作り、変化させ、共有まで完了した。 これがライブコーディングが開発者の趣味として強い理由だ。


7章 · Algorave シーン — コミュニティへの入り方

一人でビートを作るのも楽しいが、ライブコーディングの本当の楽しさはコミュニティにある。

どこで会えるか

  • TOPLAP 公式チャンネルhttps://toplap.org/ と Discord。世界中のライブコーダーの本場。
  • Algorave イベントhttps://algorave.com/ に世界中のイベントカレンダーがある。2026年現在、月平均5〜10件のイベントが世界各地で開かれている。
  • Strudel Discord — Strudel REPL から直接入れる。最も活発なライブコーディングコミュニティ。
  • TidalCycles Club — tidalcycles.org フォーラムと Discord。
  • Sonic Pi フォーラムhttps://in-thread.sonic-pi.net/。教育者・教室ユーザが多く、雰囲気が穏やか。

日本・韓国・アジアのシーン

  • 東京 — Algorave Tokyo が定期的に開かれる。日本はメディアアートシーンと結びついたライブコーダー人口が厚い。
  • ソウル — Algorave Seoul が2023年から不定期に開かれる。Postech・KAIST の学部生が主導した回もあった。
  • 台北・香港・クアラルンプール — それぞれ小さなシーンがある。

初ステージへの上がり方

ライブコーディングシーンのパフォーマンス参入障壁は意外と低い。多くの Algorave は「新人スロット(open slot)」を用意している。Discord に一行のコードと短い動画を投稿して「次のイベントで10分だけやってみたい」と頼めば、たいてい OK が出る。

準備物は少ない。

  • ノートPC(Sonic Pi・Strudel・Tidal のうち慣れているもの一つ)。
  • ヘッドホンまたはモニタースピーカ。
  • 大画面に映すための HDMI・USB-C アダプタ。
  • 10〜15分の セット(set)。初回は予め書いたコードベースを持ち込んでも構わない(ライブコーディング精神的には推奨されないが、初回は緊張軽減を優先)。

8章 · ライブコーディング + ビジュアル — Hydra・TouchDesigner との組み合わせ

音楽だけのライブコーダーもいるが、多くは ビジュアルも一緒に やる。音楽がライブで変わるなら画面もライブで変わるべき、というわけだ。

Hydra — ビジュアルのライブコーディング

Olivia Jack が作ったブラウザベースのビジュアルライブコーディング。https://hydra.ojack.xyz/ を開いてコードを打つ。

// Hydra — 音楽に反応するビジュアル
osc(20, 0.1, 1.2)
  .color(1, 0.5, 0.3)
  .rotate(0.1)
  .modulate(noise(3, 0.5))
  .out()

osc は画面全体にサイン波を描くシェーダ一行。modulate でノイズを混ぜる。Strudel と同じページ(同じタブ)で動かせるので、Strudel のビートが Hydra の画面を揺らすライブセットが自然に組める。

TouchDesigner・VVVV — ノードベースのビジュアル

もっと重い作品なら TouchDesigner(macOS・Windows)や VVVV(Windows)。OSC でライブコーディングツールと通信する。Tidal のパターンが TouchDesigner のビジュアルパラメータを直接揺らす。


9章 · ライブコーディングを真剣にやっている人々

代表的なライブコーダーを三人、簡単に。

Alex McLean — TidalCycles の創始者

英国シェフィールド・ロンドン拠点。ケンブリッジ・コンピュータ音楽研究室出身。TidalCycles と Algorave 運動の中心人物。彼のセットは学術的でありながらクラブで通用する。YouTube に彼のフルセットが複数本上がっている。

Sam Aaron — Sonic Pi の創始者

英国ケンブリッジ。Aaron のセットは「親しみやすいライブコーディング」のお手本。Sonic Pi の全デモは本人が書いている。教室で教える動画も多数公開。

Renick Bell・CNDSD・char stiles など

シーンは小さく、毎年新しい顔が登場する。Algorave YouTube チャンネルを30分ほど眺めれば、自分の好みに合う人をすぐ見つけられる。


10章 · パターン抽象の魅力 — 関数型プログラマがなぜハマるのか

TidalCycles と Strudel を少し深く触れば気づくはずだ。ミニ記法では パターンが第一級値 で、関数がパターンを変形する。つまり関数型プログラミングだ。

// Strudel — 関数合成でビートを変形する
const basicKick = s("bd*4")

basicKick
  .every(4, x => x.fast(2))           // 4サイクルごとに2倍速に
  .sometimes(x => x.degradeBy(0.3))   // 時々30%の音を抜く
  .jux(rev)                           // 左右ステレオに順方向と逆方向を配置

これは単なる音楽ではなく パターンという抽象 だ。everysometimesjuxfastslowrevpalindromeshuffle — ライブコーダーがよく使うコンビネータ群。関数合成が音楽表現になる。

関数型プログラマがライブコーディングにハマる理由はここだ。音楽を作ることがそのまま関数を合成する行為になる。言語こそが楽器だ。


エピローグ — なぜこれが開発者の最高の趣味なのか

ライブコーディングを始めた人がほぼ全員口を揃えて言うことがある。

「コードを書いたら音が出るのが、本当に楽しい。」

職場ではコードを書いても即は何も起きない。ビルドを待ち、テストが走り、デプロイされ、そこでようやく実物が動く。その間に PR レビュー・承認・ロールアウトが挟まる。

ライブコーディングはその全てを0秒にする。Ctrl+Enter を押した瞬間、書いたコードが即音になる。失敗していれば即聞こえ、上手くいけば即聞こえる。プログラミングで最もフィードバックループが短い環境だ。

しかも結果が 面白い。 CI のグリーンバッジではなく、いいビートだ。

職業開発者にとってこれ以上の趣味があるだろうか。会社のノートPCではなく自分のノートPCで、会社のコードベースではなく自分のパターンで、会社のビルドを待つのではなく自分のビートを聴く。失敗しても誰も怒らない。それどころかクラブの観客は拍手する。

スタートチェックリスト

  1. https://strudel.cc/ を開く。
  2. 6章の30分チュートリアルをやる。
  3. 自分のビート一本を作る。
  4. URL を友達に送る。
  5. TOPLAP Discord に入る。
  6. 1か月以内に Algorave 動画を合計30分聴く。
  7. 6か月以内に5分の公開セット(友達の前でも Discord ボイスチャンネルでも)。
  8. 1年以内に自分の都市の Algorave 新人スロットに応募。

アンチパターン — こう始めると失敗する

  1. Tidal から入れようとする。 入門は Strudel・Sonic Pi。Tidal は慣れてから。
  2. DAW のマインドで臨む。 ライブコーディングは「トラックを完成させる」ではなく「パターンを彫る」。
  3. 音楽理論を全部学んでから始めようとする。 一つのスケール(C マイナーペンタトニック)だけ知っていれば始められる。
  4. 初セットを完璧にしようとする。 ライブコーダーのセットは9割即興。完璧なセットはライブコーディングではない。
  5. マウスで GUI 操作に頼る。 キーボードショートカットとテキストだけで全部やる。
  6. サンプルを自分で作ろうとする。 Strudel・Sonic Pi には数百のサンプルが内蔵されている。
  7. 自前ライブラリを最初から書こうとする。 半年使ってから。
  8. 一人でやる。 コミュニティに入る方が速く上達する。TOPLAP・Algorave・Strudel Discord。
  9. 録音だけに集中する。 ライブコーディングはライブが本質。録音は副産物。
  10. Algorave 動画を観ない。 毎日30分を1か月続けるだけで自分のスタイルが固まる。

次回予告

次回候補:Hydra ビジュアルライブコーディング — シェーダ一行でクラブ映像を作るSuperCollider シンセを自作する — サウンドデザイン入門音楽理論30分 — ライブコーダー向けコード進行12選

「コードを打つ。ビートが鳴る。一行直す。次の小節が変わる。これがライブコーディングだ。これが最も楽しいプログラミングだ。」

— ライブコーディング音楽 2026、おわり。


参考 / References