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ライブコーディング音楽 2026 — Sonic Pi・TidalCycles・Strudelで開発者がミュージシャンになる方法(Algorave 深掘りガイド)
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- Youngju Kim
- @fjvbn20031
プロローグ — 開発者だってミュージシャンになれる
深夜。モニター二枚。片方にエディタ、もう片方に波形。キーボードを叩くとスピーカーからベースが鳴る。一行直してCmd+Enterを押すと、次の小節からビートが変わる。
これは魔法ではない。ライブコーディング音楽(live coding music) だ。
DAW(Digital Audio Workstation)に触ったことのないバックエンド開発者でも、コードを打てる人なら30分で最初のビートを作れる。音楽理論はいらない。楽器も習わなくていい。必要なのはテキストエディタ、スピーカー、そしてほんの少しの好奇心だけだ。
ライブコーディングは2000年代初頭、英国シェフィールドで始まった。Alex McLeanらが「コードで音楽を即興演奏できないか?」という問いから出発し、2004年にTOPLAP(The (Temporary | Transnational | Terrestrial | Transdimensional) Organisation for the (Promotion | Proliferation | Permanence | Purity) of Live Algorithm Programming)というふざけた名前の運動として整理された。TOPLAP宣言(manifesto)の核心はシンプルだ — アルゴリズムは思考であり、思考は見えるべきだ。 ライブコーダーは自分の画面を観客に公開する。ビートがどう作られ、どこで失敗し、どう立て直したか、全部見える。
本記事はライブコーディングの三つの主要システムを一気に整理する。
- Sonic Pi — Ruby ベース、入門に最適、英国の教室数百か所で使われている。
- TidalCycles — Haskell の上のパターン言語、テクノ・IDM・ブレイクコアの本場。
- Strudel — TidalCycles の JavaScript 移植、ブラウザで即実行。
加えて FoxDot・Csound・ORCA といった派生、Algorave というシーン、そして30分で最初のビートを作るチュートリアルまで。
1章 · 「ライブコーディング」とは何か
ライブコーディングは二つのことを同時に指す。
(1) 行為としてのライブコーディング。 ステージ上でリアルタイムにコードを書きながら音楽(または映像)を作るパフォーマンス。空のエディタから始めて一時間でビートを積み上げる。失敗も全部見える。それが魅力だ。
(2) ツールとしてのライブコーディング。 音楽を作るための環境。DAW の GUI ではなくテキストでパターンを記述し、実行すると即音が鳴り、直してまた実行すると次の小節から音が変わる。
両者は一緒に語られるが、どちらか片方だけでもいい。ステージに上がらなくてもライブコーディングで音楽は作れる。逆に、ステージでやるからといってクラブミュージックに縛られる必要もない — クラシック系のライブコーダーもいればノイズ系のライブコーダーもいる。
Algorave — クラブに入ったアルゴリズム
Algorave は「algorithm + rave」の合成語。2012年に英国で始まった。ライブコーダーがクラブに行き、DJ ブースの代わりにコードを投影し、観客はその前で踊る。
コードが画面に見えるのは単なるギミックではない。観客は一行が変わってビートがどう変化するかを見る。料理人が厨房を公開するオマカセに似ている — 結果だけを楽しむのではなく、作る過程ごと味わう。
2026年現在、Algorave は世界的な定期イベントだ。ロンドン・ベルリン・東京・ソウル・メキシコシティ・サンパウロ・ニューヨーク — 毎年数十のイベントが開かれる。ライブコーディングはもはや学術実験ではなく、音楽シーンの一ジャンルだ。
TOPLAP 宣言の6原則
ライブコーダーが大事にしているもののまとめ。
- 画面を見せろ(give us access to the performer's mind)。 ノートPCに布をかけるな。
- アルゴリズムは思考だ。 思考が音楽になる。
- コードは道具であり楽器だ。 ライブコーディングは道具を作る行為でもある。
- ジャンルに縛られるな。 テクノだけがライブコーディングではない。
- 上手かろうが下手だろうが人前でコーディングしろ。 失敗していい。
- マウスを使うな(半分冗談)。 テキストだけで全部やる。
もちろん6番は冗談で、実際には OSC・MIDI コントローラも自由に使う。核心は「テキストが第一級市民(first-class citizen)である」という精神だ。
2章 · Sonic Pi — Ruby から始めるライブコーディング
ライブコーディング入門で多くの人が躓くのは「Haskell ですか?」のあたり。だから Sam Aaron は Ruby を選んだ。
Sonic Pi とは
Sam Aaron(ケンブリッジ計算機研究所出身)が2012年から作り始めたライブコーディング環境。Ruby DSL で音楽を記述し、バックエンドは SuperCollider(C++ ベースの音楽エンジン)。macOS・Windows・Linux・Raspberry Pi で動く。
Sonic Pi が他のツールと違う点は二つ。
- 教育に向く。 英国 BBC の micro:bit キャンペーン、Raspberry Pi Foundation の教室コーディング、Aaron 本人のケンブリッジ学校巡回 — 数万人のティーンエイジャーが Sonic Pi で初めてコーディングを学ぶ。
- タイミングモデルが明示的。
sleep 0.5のような命令が「壁時計時間」ではなく「音楽時間」として動く。重い関数呼び出しがあってもビートが遅れない。
インストール(30秒)
https://sonic-pi.net/ で OS 別のインストーラを取る。macOS は dmg、Windows は msi、Linux は AppImage。Raspberry Pi では sudo apt install sonic-pi だけで終わり。
起動すると左にエディタ・右にログ・下にトラックビジュアライザが表示される。v5 は2024年末にリリースされ、新しいシンセエンジン、より精確なタイミングモデル、M シリーズ Mac でのネイティブビルドが含まれた。
最初のビート — kick・snare・hat
以下をエディタに貼り付けて Cmd+R(Run)を押す。
# Sonic Pi — 4-on-the-floor 基本ビート
use_bpm 120
live_loop :kick do
sample :bd_haus
sleep 1
end
live_loop :snare do
sleep 1
sample :sn_dolf
sleep 1
end
live_loop :hat do
16.times do
sample :drum_cymbal_closed, amp: 0.4
sleep 0.25
end
end
読み方。
use_bpm 120— 1分120拍。1拍 =sleep 1。live_loop— ライブコーディングの核心。無限ループだが、コードを直して再度 Run すると 次のサイクルから 新しいコードが適用される。切れ目なく変わる。sample :bd_haus— 組み込みサンプル。:bd_*がキック、:sn_*がスネア、:drum_cymbal_*がハイハット。sleep— 次のイベントまで待つ音楽時間。
これを走らせると即四つ打ちが鳴る。次に hat ループの 0.25 を 0.125 に変えて Run し直してみる。次の小節から16分が32分になる。これがライブコーディングだ。
メロディを一行追加
live_loop :bass do
use_synth :tb303
play (ring :c2, :c2, :eb2, :g2).tick, release: 0.4, cutoff: rrand(70, 110)
sleep 0.5
end
(ring :c2, :c2, :eb2, :g2) は4音を巡る環状リスト。.tick が呼び出しごとに次のインデックスを取り出す。rrand(70, 110) は拍ごとに70〜110の乱数でフィルタカットオフを揺らす — 同じパターンなのに毎回少し違って聞こえる。
Sonic Pi の魅力はまさにこの「一行ずつ積み上げる」流儀にある。「曲を作る」ではなく 「ビートをライブで彫り上げる」 のほうが正確だ。
Sonic Pi が合う人
- ライブコーディングが初めての人。
- Ruby あるいは OOP 言語に親しんでいる人。
- 学生・教室で教える人。
- Raspberry Pi・micro:bit のような SBC と組み合わせたい人。
3章 · TidalCycles — Haskell の上で育ったパターン言語
TidalCycles はライブコーディング世界の本場であり、「ライブコーディングはなぜ単なるシーケンサーではないのか」を示す代表作だ。
Tidal とは
2009年、Alex McLean(英国・音楽と計算機科学の博士)が作った Haskell ライブラリ。バックエンドは SuperDirt(SuperCollider の上のサンプル再生エンジン)。macOS・Windows・Linux で動くが、入門ハードルが最も高い — Haskell・SuperCollider・エディタ(VS Code・Pulsar・Atom・Emacs)の三点セットを揃える必要がある。
それでも人々が Tidal を使う理由はひとつ — ミニ記法(mini-notation) というパターン言語のためだ。
ミニ記法 — 言語の中の言語
Tidal は Haskell の中で動くが、パターンを記述するときは Haskell ではなく独自の小さな言語を使う。それがミニ記法だ。
-- TidalCycles — 4-on-the-floor 基本ビート
d1 $ s "bd bd bd bd" -- キック、1サイクルで4回
d2 $ s "~ sd ~ sd" -- スネア、2拍目と4拍目
d3 $ s "hh*16" # gain 0.6 -- ハイハット、16分割
読み方。
d1・d2・d3— 9本のオーケストラチャンネル(ストリーム)。それぞれ独立に回る。s "..."— サンプルパターン。クォート内がミニ記法。"bd bd bd bd"— bd サンプルを1サイクルで4等分。- チルダ記号は休符(silence)。つまり「休 sd 休 sd」はバックビート。
- アスタリスク —
hh*16は hh を16回反復。 # gain 0.6— ゲイン60%。
この短いコードで本格的なビートが作れる。だがミニ記法が本当に光るのは次のような表現力だ。
-- 変化のあるミニ記法
d1 $ s "bd(3,8)" -- 8ステップ中3パルス、ユークリッド分配
d2 $ s "[bd, ~ sd] [hh*4]" -- 同時発音と入れ子パターン
d3 $ slow 2 $ s "rim*8" -- パターンを2倍ゆっくり
d4 $ every 4 (rev) $ s "cp*4" -- 4サイクルごとにパターンを反転
bd(3,8)— ユークリッドリズム(Euclidean rhythm)。8ステップを3パルスで最も均等に配置。自然なポリリズムが自動で出る。- 角括弧 — パターンのグルーピングと入れ子。
slow・fast・rev・every— 時間軸でパターンを変形する関数。
ミニ記法が「単なるシーケンサ表記」ではない理由がここにある。パターンが第一級値(first-class value)で、関数がパターンを変形する。だから関数型プログラミングを愛する者ほど Tidal にハマる。
インストール — 一番難しい部分
Tidal のインストールはライブコーディング入門で最大の障壁だ。手順はこうだ。
- SuperCollider をインストール(音楽エンジン)。
- SuperDirt をインストール(SuperCollider 内で
Quarks.install("SuperDirt"))。 - Haskell と GHC をインストール(ghcup 推奨)。
- Tidal パッケージをインストール(
cabal install tidal)。 - エディタプラグイン — VS Code の TidalCycles 拡張が現実的な選択。
この5ステップで初挑戦者の約70%はどこかで詰まる。だからこそ Strudel が生まれた。
それでも Tidal を使う理由
インストールが大変なのに人々が Tidal から離れない理由は、表現力の天井が事実上ない ことだ。Haskell の上にあるからパターンを関数化し、関数を合成し、自分のライブラリを書ける。そして SuperDirt の上にあるから SuperCollider の全シンセ・エフェクトが触れる。
テクノ・ブレイクコア・IDM・ノイズ — クラブで速いビートをコードしながら鳴らすには、Tidal が最も強力だ。
4章 · Strudel — TidalCycles がブラウザにやってきた
Tidal のインストール地獄を一発で解決したのが Strudel だ。
Strudel とは
Felix Roos が主導して2022年から開発している TidalCycles の JavaScript 移植。https://strudel.cc/ を開けば即コーディング開始。インストールも SuperCollider も Haskell もいらない。
Strudel は Tidal のミニ記法をほぼそのまま受け継いだ。だから Tidal を知っていれば数分で適応できる。違いはホスト言語が JavaScript なので、関数合成はメソッドチェーンで書く点だ。
最初のビート — ブラウザで
https://strudel.cc/ を開き、以下を貼り付けて Ctrl+Enter を押す。
// Strudel — 4-on-the-floor 基本ビート
stack(
s("bd bd bd bd"), // キック
s("~ sd ~ sd"), // スネア
s("hh*16").gain(0.5), // ハイハット
note("c2 c2 eb2 g2").s("sawtooth").cutoff(800).resonance(15)
)
読み方。
stack(...)— 複数のパターンを同時再生。s("...")— サンプルパターン。ミニ記法構文は Tidal と同一。.gain(0.5)— メソッドチェーンでゲインを調整。note("c2 c2 eb2 g2")— 音高(MIDI ノート)パターン。.s("sawtooth")— ノコギリ波シンセで再生。.cutoff(800).resonance(15)— ローパスフィルタ。
以上だ。インストールもサインアップも不要。URL を開いた瞬間ライブコーディングが始まる。
Strudel が起こした変化
2022年以降に Strudel が起こした変化は三つ。
- 入門ハードルがゼロ。 Tidal インストール5ステップが「URL を開く」1ステップになった。Algorave 入門者の80%以上が今や Strudel から始める。
- 共有が簡単。 Strudel REPL はコードを URL にエンコードして共有リンクを作る。一行ビートをツイッターにリンクで貼れる。
- Web オーディオ + ビジュアル。 ブラウザ内なので Canvas・WebGL と自然に結合する。Hydra(ライブコーディング向け映像ツール)と Strudel が同じページで一緒に動く。
Strudel vs Tidal — 何が違う?
ほぼ同じだが、次が異なる。
- バックエンド。 Tidal は SuperDirt(デスクトップシンセ)、Strudel は Web Audio と独自シンセ・サンプル。
- 表現力。 Tidal がやや豊か — SuperCollider 全シンセが使えるため。Strudel は着実に追いついている。
- 本番パフォーマンス。 ステージライブではいまだに Tidal の利用率が高い。レイテンシ・シンセ品質で優位。ただし2025〜2026年で Strudel をステージに乗せるライブコーダーが急増した。
- OSC・MIDI。 Tidal は自由に使える。Strudel も Web MIDI API で外部シンセ・ドラムマシンを駆動できる。
入門は Strudel、本格的なステージは Tidal — そう始めて徐々に移行する人が多い。
5章 · 派生 — FoxDot・Csound・ORCA
三大ツールが主流だが、面白い派生も多い。
FoxDot — Python ライブコーディング
Ryan Kirkbride(英国リーズ大学)が作った Python ベースのライブコーディング環境。バックエンドは SuperCollider、DSL は Python。
# FoxDot — 4-on-the-floor
Clock.bpm = 120
d1 >> play("x x x x") # キック
d2 >> play(" o o") # スネア
d3 >> play("-" * 16, dur=0.25) # ハイハット
b1 >> bass([0, 0, 3, 5], dur=0.5, oct=3)
d1 >> play("x x x x") という記法は「d1 チャンネルにこのパターンを送る」の意味。視覚的に流れが読みやすい。
FoxDot は Sonic Pi より豊かで Tidal より軽い。Python エコシステムと自然に結合するので、NumPy・SciPy でパターンを生成して流せる。コミュニティ規模は Tidal・Strudel・Sonic Pi より小さい。
Csound — コンピュータ音楽の祖父
1986年に MIT の Barry Vercoe が作った音楽合成言語。ライブコーディングの始祖格だが、もともとはテキストベースの音響合成ツールとして始まった。
; Csound — 単純なサイン波
instr 1
asig oscili 0.5, 440, 1
out asig
endin
i1 0 1
Csound はライブコーディングツールというより サウンドデザインツール だ。ライブで使うには Cbbage やライブコーディングモードを通す。だがシンセをゼロから作りたい、あるいはクラシック・実験音楽寄りなら、Csound はいまだに最強だ。
ORCA — 格子の上のエソテリック
派生の中で最も奇妙で最も魅惑的なのが ORCA。遊牧アーティストデュオ Hundred Rabbits の Devine Lu Linvega が作った。
ORCA はテキストエディタではなく 2D 格子(grid) だ。格子上に一文字のオペレータを配置すると、それらが互いに信号を交わし、MIDI・OSC・UDP を流す。
.....D8....
...........
.aT5...4Cc4
.....b.....
...........
各文字が一つの「オペレータ」。D はディレイ、C はカウンタ、T はトラッカ、a と b は変数。ORCA 自身は音を出さない — 外部シンセに MIDI を送るだけだ。
ORCA は音楽ツールというより セルオートマトン(cellular automaton) に近い視覚的プログラミング環境。ライブコーダーは「エソテリック(esoteric)」な道具として愛している。一時間眺めていると格子が生きて動いて見える。
6章 · 30分で最初のビート — Strudel が最速
最速で最初のビートを作るコース。30分あれば十分。
0〜5分:環境を開く
https://strudel.cc/ を開く。画面はコードエディタになっている。右上の Play ボタンでデフォルトデモが鳴る。
デモを止めて(Stop)、コードを全削除する。
5〜10分:最初の一行
次の一行を打つ。
s("bd*4")
Ctrl+Enter(Mac は Cmd+Enter)。キックが4回鳴る。最初のビート完成だ。
10〜15分:スネアとハイハットを追加
stack(
s("bd*4"),
s("~ sd ~ sd"),
s("hh*8").gain(0.5)
)
Ctrl+Enter。四つ打ちビートが完成する。
15〜20分:ベースライン
stack(
s("bd*4"),
s("~ sd ~ sd"),
s("hh*8").gain(0.5),
note("c2 c2 eb2 g2").s("sawtooth").cutoff(800)
)
c2・eb2・g2 は C マイナーコードの根音・3度・5度。その上に何を重ねてもそれなりに聴ける。
20〜25分:バリエーション
ベースに動きを加える。
stack(
s("bd*4"),
s("~ sd ~ sd"),
s("hh*8").gain(0.5).sometimes(x => x.fast(2)),
note("c2 c2 eb2 g2")
.s("sawtooth")
.cutoff(sine.range(400, 1200).slow(8))
.resonance(10)
)
sometimes(x => x.fast(2))— 約50%の確率でパターンを2倍速に。sine.range(400, 1200).slow(8)— サイン波で400〜1200Hz の間でカットオフを8サイクルかけて揺らす。クラブ音楽の定番「フィルタスイープ」だ。
25〜30分:共有
Strudel REPL の左上の Share ボタンを押すと、コードがエンコードされた URL が生成される。ツイッター・Discord に貼ればその URL を開いた相手も同じビートを聴ける。
30分で最初のビートを作り、変化させ、共有まで完了した。 これがライブコーディングが開発者の趣味として強い理由だ。
7章 · Algorave シーン — コミュニティへの入り方
一人でビートを作るのも楽しいが、ライブコーディングの本当の楽しさはコミュニティにある。
どこで会えるか
- TOPLAP 公式チャンネル —
https://toplap.org/と Discord。世界中のライブコーダーの本場。 - Algorave イベント —
https://algorave.com/に世界中のイベントカレンダーがある。2026年現在、月平均5〜10件のイベントが世界各地で開かれている。 - Strudel Discord — Strudel REPL から直接入れる。最も活発なライブコーディングコミュニティ。
- TidalCycles Club — tidalcycles.org フォーラムと Discord。
- Sonic Pi フォーラム —
https://in-thread.sonic-pi.net/。教育者・教室ユーザが多く、雰囲気が穏やか。
日本・韓国・アジアのシーン
- 東京 — Algorave Tokyo が定期的に開かれる。日本はメディアアートシーンと結びついたライブコーダー人口が厚い。
- ソウル — Algorave Seoul が2023年から不定期に開かれる。Postech・KAIST の学部生が主導した回もあった。
- 台北・香港・クアラルンプール — それぞれ小さなシーンがある。
初ステージへの上がり方
ライブコーディングシーンのパフォーマンス参入障壁は意外と低い。多くの Algorave は「新人スロット(open slot)」を用意している。Discord に一行のコードと短い動画を投稿して「次のイベントで10分だけやってみたい」と頼めば、たいてい OK が出る。
準備物は少ない。
- ノートPC(Sonic Pi・Strudel・Tidal のうち慣れているもの一つ)。
- ヘッドホンまたはモニタースピーカ。
- 大画面に映すための HDMI・USB-C アダプタ。
- 10〜15分の セット(set)。初回は予め書いたコードベースを持ち込んでも構わない(ライブコーディング精神的には推奨されないが、初回は緊張軽減を優先)。
8章 · ライブコーディング + ビジュアル — Hydra・TouchDesigner との組み合わせ
音楽だけのライブコーダーもいるが、多くは ビジュアルも一緒に やる。音楽がライブで変わるなら画面もライブで変わるべき、というわけだ。
Hydra — ビジュアルのライブコーディング
Olivia Jack が作ったブラウザベースのビジュアルライブコーディング。https://hydra.ojack.xyz/ を開いてコードを打つ。
// Hydra — 音楽に反応するビジュアル
osc(20, 0.1, 1.2)
.color(1, 0.5, 0.3)
.rotate(0.1)
.modulate(noise(3, 0.5))
.out()
osc は画面全体にサイン波を描くシェーダ一行。modulate でノイズを混ぜる。Strudel と同じページ(同じタブ)で動かせるので、Strudel のビートが Hydra の画面を揺らすライブセットが自然に組める。
TouchDesigner・VVVV — ノードベースのビジュアル
もっと重い作品なら TouchDesigner(macOS・Windows)や VVVV(Windows)。OSC でライブコーディングツールと通信する。Tidal のパターンが TouchDesigner のビジュアルパラメータを直接揺らす。
9章 · ライブコーディングを真剣にやっている人々
代表的なライブコーダーを三人、簡単に。
Alex McLean — TidalCycles の創始者
英国シェフィールド・ロンドン拠点。ケンブリッジ・コンピュータ音楽研究室出身。TidalCycles と Algorave 運動の中心人物。彼のセットは学術的でありながらクラブで通用する。YouTube に彼のフルセットが複数本上がっている。
Sam Aaron — Sonic Pi の創始者
英国ケンブリッジ。Aaron のセットは「親しみやすいライブコーディング」のお手本。Sonic Pi の全デモは本人が書いている。教室で教える動画も多数公開。
Renick Bell・CNDSD・char stiles など
シーンは小さく、毎年新しい顔が登場する。Algorave YouTube チャンネルを30分ほど眺めれば、自分の好みに合う人をすぐ見つけられる。
10章 · パターン抽象の魅力 — 関数型プログラマがなぜハマるのか
TidalCycles と Strudel を少し深く触れば気づくはずだ。ミニ記法では パターンが第一級値 で、関数がパターンを変形する。つまり関数型プログラミングだ。
// Strudel — 関数合成でビートを変形する
const basicKick = s("bd*4")
basicKick
.every(4, x => x.fast(2)) // 4サイクルごとに2倍速に
.sometimes(x => x.degradeBy(0.3)) // 時々30%の音を抜く
.jux(rev) // 左右ステレオに順方向と逆方向を配置
これは単なる音楽ではなく パターンという抽象 だ。every・sometimes・jux・fast・slow・rev・palindrome・shuffle — ライブコーダーがよく使うコンビネータ群。関数合成が音楽表現になる。
関数型プログラマがライブコーディングにハマる理由はここだ。音楽を作ることがそのまま関数を合成する行為になる。言語こそが楽器だ。
エピローグ — なぜこれが開発者の最高の趣味なのか
ライブコーディングを始めた人がほぼ全員口を揃えて言うことがある。
「コードを書いたら音が出るのが、本当に楽しい。」
職場ではコードを書いても即は何も起きない。ビルドを待ち、テストが走り、デプロイされ、そこでようやく実物が動く。その間に PR レビュー・承認・ロールアウトが挟まる。
ライブコーディングはその全てを0秒にする。Ctrl+Enter を押した瞬間、書いたコードが即音になる。失敗していれば即聞こえ、上手くいけば即聞こえる。プログラミングで最もフィードバックループが短い環境だ。
しかも結果が 面白い。 CI のグリーンバッジではなく、いいビートだ。
職業開発者にとってこれ以上の趣味があるだろうか。会社のノートPCではなく自分のノートPCで、会社のコードベースではなく自分のパターンで、会社のビルドを待つのではなく自分のビートを聴く。失敗しても誰も怒らない。それどころかクラブの観客は拍手する。
スタートチェックリスト
https://strudel.cc/を開く。- 6章の30分チュートリアルをやる。
- 自分のビート一本を作る。
- URL を友達に送る。
- TOPLAP Discord に入る。
- 1か月以内に Algorave 動画を合計30分聴く。
- 6か月以内に5分の公開セット(友達の前でも Discord ボイスチャンネルでも)。
- 1年以内に自分の都市の Algorave 新人スロットに応募。
アンチパターン — こう始めると失敗する
- Tidal から入れようとする。 入門は Strudel・Sonic Pi。Tidal は慣れてから。
- DAW のマインドで臨む。 ライブコーディングは「トラックを完成させる」ではなく「パターンを彫る」。
- 音楽理論を全部学んでから始めようとする。 一つのスケール(C マイナーペンタトニック)だけ知っていれば始められる。
- 初セットを完璧にしようとする。 ライブコーダーのセットは9割即興。完璧なセットはライブコーディングではない。
- マウスで GUI 操作に頼る。 キーボードショートカットとテキストだけで全部やる。
- サンプルを自分で作ろうとする。 Strudel・Sonic Pi には数百のサンプルが内蔵されている。
- 自前ライブラリを最初から書こうとする。 半年使ってから。
- 一人でやる。 コミュニティに入る方が速く上達する。TOPLAP・Algorave・Strudel Discord。
- 録音だけに集中する。 ライブコーディングはライブが本質。録音は副産物。
- Algorave 動画を観ない。 毎日30分を1か月続けるだけで自分のスタイルが固まる。
次回予告
次回候補:Hydra ビジュアルライブコーディング — シェーダ一行でクラブ映像を作る、SuperCollider シンセを自作する — サウンドデザイン入門、音楽理論30分 — ライブコーダー向けコード進行12選。
「コードを打つ。ビートが鳴る。一行直す。次の小節が変わる。これがライブコーディングだ。これが最も楽しいプログラミングだ。」
— ライブコーディング音楽 2026、おわり。
参考 / References
- TOPLAP — ライブコーディング運動の本場
- Sonic Pi 公式サイト
- Sonic Pi GitHub リポジトリ
- Sam Aaron ライブコーディングトーク
- TidalCycles 公式サイト
- TidalCycles ドキュメント — ミニ記法
- Tidal GitHub
- SuperCollider 公式
- SuperDirt — Tidal のバックエンド
- Strudel REPL — ブラウザでライブコーディング
- Strudel GitHub
- Strudel Learn チュートリアル
- Algorave イベントカレンダー
- Algorave YouTube チャンネル
- FoxDot — Python ライブコーディング
- FoxDot GitHub
- Csound 公式
- ORCA — Hundred Rabbits
- Hydra — ビジュアルライブコーディング
- TouchDesigner 公式
- Alex McLean のミニ記法論文
- TOPLAP 宣言(manifesto)
- Sonic Pi in-thread フォーラム
- Live Coding Research Network