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DeepSeek V4 Flashが実際に変えるもの — リーダーボードではなく能力あたり単価の問題
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- Youngju Kim
- @fjvbn20031
- はじめに — プレビューが公開ベータになった日、モデルそのものは変わっていなかった
- スペック — 284Bのうち13Bだけが点灯するモデル
- 公開されたスコアは誰が、どのハーネスで測ったのか
- 価格表の本当の項目はヘッドラインではなくキャッシュヒット単価
- 能力あたり単価で計算し直すと
- Flashはレイテンシの話ではなくティア名である
- ルーティングの判断ルール — そしてまだ分かっていないこと
- おわりに — 順位表は一か月でひっくり返るが、価格表の形は長く残る
はじめに — プレビューが公開ベータになった日、モデルそのものは変わっていなかった
2026年7月31日、DeepSeekがV4-Flash APIを公開ベータに切り替えました。公式チェンジログの書き方が正確で、今回のリリースは「DeepSeek-V4-Flash-Previewとモデルアーキテクチャとサイズをそのまま維持し、ポストトレーニングだけをやり直した」と述べています。パラメータもコンテキストも価格もそのままです。変わったのはポストトレーニング一層と、Responses API・Codexフレームワークのネイティブ対応だけです。
ところが公開されたスコアはかなり大きく動きました。Terminal Bench 2.1で82.7、Toolathlon verifiedで70.3です。Hacker Newsのスレッドでプレビュー時代の数値と並べた人たちは、それぞれ56.9から82.7へ、51.8から70.3へ上がったと指摘しました。同じ重みサイズのままポストトレーニングだけでエージェントベンチマークが20点以上動いた、という主張です。
この記事はそのスコアの順位を争いません。順位表は一か月あればひっくり返りますし、ほとんどのチームにとって実際にかかっている問いは「これは何位か」ではなく「自分のトラフィックのどの部分をここへ移せば請求書はどれだけ減り、品質はどれだけ悪くなるのか」です。ですからここでは能力あたり単価で計算し、どの数字がベンダー自身の測定値なのかを毎回明示します。
スペック — 284Bのうち13Bだけが点灯するモデル
まず物理的な事実から整理します。DeepSeek V4 Flashは総パラメータ284Bのうちトークンごとに13Bだけが活性化するsparse MoEです。コンテキストは1,048,576トークン、最大出力は384Kトークン。テキスト専用でビジョンもオーディオもありません。このスペックはOpenRouterのモデルページとDeepSeek公式の価格ドキュメントで相互に確認できます。
同系列の上位モデルであるV4 Proは、1.6Tの総パラメータにトークンあたり約49Bアクティブとされています。二つのモデルの関係を理解するにはこの数字のペアが鍵です — FlashはProを蒸留したり削ったりしたモデルというより、アクティブパラメータを4分の1程度まで下げてサービング単価を構造的に落とした別アーキテクチャに近いのです。だから価格もちょうどその比率に従います。出力で見るとFlashは100万トークンあたり0.28ドル、Proは0.87ドルで、約3.1倍の差です。
ここでよく誤解が生まれます。アクティブ13Bという数字は演算量を指すのであって、メモリ要求量ではありません。セルフホスティングを考えるなら284B全体をどこかに載せておく必要があり、4ビットに潰しても140GB台が要ります。アクティブパラメータが小さいというのは「小さなGPUで動く」ではなく「同じGPUからずっと多くのトークンを引き出せる」という意味です。この区別がぼやけるとセルフホスティングの見積もりが丸ごと狂います。ローカル実行側の算数はローカルでLLMを動かすにはVRAMがどれだけ必要かで数式として扱いました。
公開されたスコアは誰が、どのハーネスで測ったのか
チェンジログが公開した0731のスコアは次の通りです。Terminal Bench 2.1が82.7、NL2Repoが54.2、Cybergymが76.7、DeepSWEが54.4、Toolathlon verifiedが70.3、Agent Last Exam 25.2、Automation Bench(Public) 25.1、DSBench-FullStack 68.7、DSBench-Hard 59.6。
これらの数字には条件が付いており、その条件が重要です。チェンジログは測定方法を「DeepSeek Harness minimalモード、max effortレベル、top_p 0.95、temperature 1.0」と明示しています。つまり自社ハーネスで、最大推論強度で測ったベンダー自身の測定値です。HNスレッドで出た指摘もまさにこの点でした。エージェントベンチマークはスキャフォールディングに極端に敏感で、同じモデルでもハーネスを変えれば二桁動きます。他のベンダーが自社ハーネスで発表した数字と並べて順位を付けた瞬間、その表は意味を失います。
独立した測定のほうはどうでしょうか。Artificial AnalysisはV4 Flash 0731を最大推論強度でIntelligence Index 50と集計しています。同じ指数でGPT-5.6 Solは59、Terraは55、Lunaは51です。つまり総合的な知能指標だけを見ればFlashはOpenAIの最も安いティアと近い位置にいます。コーディング側の第三者集計としてはSWE-bench VerifiedでFlashが79.0%、Proが80.6%という数値が出回っていますが、これはllm-stats系の集計を引用した二次資料であり、元の測定条件を私は確認できませんでした。そのまま信じずに自分の課題で測ったほうがよいです。
一つの独立測定がとりわけ実務的です。Artificial Analysisはこのモデルが指数を走り切るのに210Mトークンを使ったと記録しており、全モデルの中央値は62Mです。答えを出すまでに思考トークンを非常に多く使います。ベンチマークスコアではこれが長所として拾われますが、請求書では出力トークンとして拾われます。後でまた計算します。
価格表の本当の項目はヘッドラインではなくキャッシュヒット単価
公式の価格ドキュメントを基準に各モデルの100万トークンあたり単価を整理するとこうなります。OpenAI側は7月30日の値下げを反映した値で、キャッシュヒット単価は公表された90%の割引率を入力価格に適用した値です。
| モデル | キャッシュヒット入力 | キャッシュミス入力 | 出力 | 出力対入力の倍率 |
|---|---|---|---|---|
| DeepSeek V4 Flash | 0.0028ドル | 0.14ドル | 0.28ドル | 2倍 |
| DeepSeek V4 Pro | 0.003625ドル | 0.435ドル | 0.87ドル | 2倍 |
| GPT-5.6 Luna | 0.02ドル | 0.20ドル | 1.20ドル | 6倍 |
| GPT-5.6 Terra | 0.20ドル | 2ドル | 12ドル | 6倍 |
| GPT-5.6 Sol | 0.50ドル | 5ドル | 30ドル | 6倍 |
この表でヘッドラインの数字より長く見るべき列は一番右です。DeepSeekは出力が入力の2倍なのに、OpenAI系列は6倍です。価格表の形そのものが違います。
そして一番左の列がさらに劇的です。Flashのキャッシュヒット入力は100万トークンあたり0.0028ドルで、キャッシュミスの50分の1です。GPT-5.6 Lunaのキャッシュヒット単価と比べると約7倍安いことになります。HNスレッドではあるユーザーが30日間に3,467件のAPIリクエストで323Mトークンを使い4.55ドルを払ったと報告していましたが、この程度の数字はキャッシュヒット率が非常に高いワークロードでなければ出ません。長いシステムプロンプトと固定されたコードベースのコンテキストを繰り返し送るコーディングエージェントが、まさにその形です。
注意すべき落とし穴が二つあります。第一に、キャッシュの割引率がそのまま請求書の削減率になるわけではありません — 出力がすでにコストの大きな部分を食っているなら、入力側の90%割引は総額を90%削れません。この計算はLLM APIコストを実際に下げる方法で詳しく扱いました。第二に、DeepSeekの価格ドキュメントにはピーク・オフピークの差額料金プランが予告されています。北京時間の午前9時から正午、午後2時から6時の区間で料金が2倍になる方針ですが、ドキュメントは発効日をまだ公式に発表していないと書いています。韓国のタイムゾーンと重なる区間なので、見積もりを出すときは必ず計算に入れる必要があります。
能力あたり単価で計算し直すと
同じワークロードを二つのモデルに載せて実際の算数をしてみます。値下げ後のGPT-5.6 LunaとDeepSeek V4 FlashはIntelligence Indexで51対50と事実上同じ位置にいるので、能力を固定して価格だけを比べるのに向いたペアです。
ワークロードA — 入力偏重(長文要約、RAG応答)
リクエストあたり入力50,000トークン / 出力500トークン
Luna : 50,000 x 0.20 / 1e6 = 0.01000
+ 500 x 1.20 / 1e6 = 0.00060 -> 0.01060 ドル
V4 Flash : 50,000 x 0.14 / 1e6 = 0.00700
+ 500 x 0.28 / 1e6 = 0.00014 -> 0.00714 ドル
Flashが約1.5倍安い
ワークロードB — 出力偏重(推論、コーディングエージェント)
リクエストあたり入力2,000トークン / 出力10,000トークン(思考トークンを含む)
Luna : 2,000 x 0.20 / 1e6 = 0.00040
+ 10,000 x 1.20 / 1e6 = 0.01200 -> 0.01240 ドル
V4 Flash : 2,000 x 0.14 / 1e6 = 0.00028
+ 10,000 x 0.28 / 1e6 = 0.00280 -> 0.00308 ドル
Flashが約4.0倍安い
同じ二つのモデルなのに、差が1.5倍から4倍へ広がります。ヘッドラインの入力価格だけを見れば0.14対0.20で30%の差ですが、実際の請求書の差はワークロードの入出力ミックスが決めます。出力対入力の倍率が2倍の価格表は出力が長くなるほど有利になり、6倍の価格表はその逆です。
ここで先ほどの観測が戻ってきます。Flashは思考トークンを多く使うモデルです。つまりワークロードBのほうへ自然に押し流されます。出力単価が低い価格表と出力を多く使うモデルが出会うと二つが相殺されるので、出力が安いのだから好きなだけ考えさせてよい、という結論は実測なしでは危険です。推論強度をmaxにして測ったベンチマークスコアと、実サービスで使う強度でのコストは別の話です。強度を下げたときにスコアがどれだけ落ちるかはベンダーが公開しておらず、私も確認できませんでした。
Flashはレイテンシの話ではなくティア名である
名前のせいで生じる誤解を一つ押さえておきます。他のベンダーのFlashティアはおおむね「速い応答」を意味しますが、DeepSeekのFlashはレイテンシの等級ではなく、アクティブパラメータが小さいモデル系列の名前です。実際に応答が速いかどうかはまったく別の、しかもプロバイダーによって大きく分かれる問題です。
Artificial Analysisのプロバイダー別集計を見ると、同じ重みをサービングしているのに出力速度が毎秒100トークン台から200トークン台後半まで散らばり、最初のトークンまでの時間もプロバイダー間の偏差が非常に大きいです。別のベンチマークでは中央値スループット毎秒164.7トークン、中央値TTFT 1,924ミリ秒という数値が報告されています。推論モードでは「最初のトークン」と「最初の回答トークン」が違うという点も重要です — 思考トークンが先に流れるので、ユーザーが実際の答えを見るまでの体感遅延はTTFTよりずっと長くなります。リアルタイムの対話型UIにこのモデルを付ける計画なら、TTFTではなく最初の回答トークンまでの時間を測ってください。
もう一つ。公式APIの同時リクエスト上限はFlashが2500、Proが500とドキュメントに書かれています。バッチ的な処理を流し込むときの実質的な上限になる数字なので、キャパシティプランに入れておくとよいです。
ルーティングの判断ルール — そしてまだ分かっていないこと
ここまでの数字を判断ルールに圧縮するとこうなります。
- 出力が長く、繰り返しのプレフィックスが大きいトラフィックは、ここへ送る明確な理由があります。コードレビュー、大量分類、ログ要約、社内ツール用エージェントがこれに当たります。キャッシュヒット単価と出力単価が同時に有利に働く唯一の区間です。
- 入力だけが長く出力が短いトラフィックは差が1.5倍程度まで縮みます。すでに他のベンダーに乗っていて移行コストがあるなら、移す理由は弱いです。
- 品質の上限が結果を支配するトラフィックは移さないでください。SWE-bench Proや長期エージェント課題で最上位モデルとの差は依然として実在し、失敗一回のコストがトークン代よりはるかに大きいワークロードでは単価比較そのものが誤ったフレームです。
- データガバナンスの制約があるトラフィックは価格と無関係に別途の判断が必要です。HNスレッドでも、コードベースがどこへ流れるのかという懸念と、個人の購読者には無保存ポリシーが提供されないという指摘が繰り返し出ていました。重みがMITライセンスで公開されているのでセルフホスティングという選択肢があり、それがこのモデルの実質的な差別化点です。ただし284Bを載せるハードウェアコストがすぐに返ってきます。
確認できなかったことも明記しておきます。プレビュー比のスコア上昇幅(Terminal Bench 56.9から82.7など)は公式チェンジログの一つの表ではなく、コミュニティが二時点の発表値をつなぎ合わせたものであり、私は二つの値が同じハーネスから出たのかを確認できませんでした。推論強度を下げたときのスコアとコストの曲線、1Mコンテキストの実際の有効長(最後のトークンまで性能が保たれるのか)、ピーク料金プランの発効日もすべて未公開です。そして自社ハーネスで測ったエージェントスコアは、そのハーネスが公開されるまでは比較可能な数字ではなくベンダーの主張です。
おわりに — 順位表は一か月でひっくり返るが、価格表の形は長く残る
今回のリリースで長く残る情報は82.7というスコアではなく、価格表の構造です。出力対入力の倍率が2倍の価格表と6倍の価格表は、同じ能力でも別のワークロードを引き寄せます。そしてキャッシュヒット単価がキャッシュミスの50分の1という項目は、プレフィックスを固定できるチームとできないチームの請求書を一桁分だけ引き離します。
ですから順位表を読み直す代わりに自分のログを開いてください。リクエストあたりの入力トークンと出力トークンの中央値、プレフィックスの再利用率、失敗一回のコスト — この三つの数字さえあれば、どのモデルへ送るかは計算で出ます。ベンチマークはその計算の入力の一つにすぎず、それすら誰がどのハーネスで測ったのかを確認したうえでなければ使えません。