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- Youngju Kim
- @fjvbn20031
はじめに — Hy3 とは実際に何か
2026年7月6日、Tencent の Hy(旧 Hunyuan)チームが Hy3 をオープンウェイトとして公開しました。4月23日に出たプレビューの正式版です。まず誤解を一つ解いておきます。名前から3D生成モデルに見えがちですが、Hy3 はテキストベースの推論・エージェント向け 大規模言語モデル です。3Dアセットを生成する Hunyuan3D とは別系統です。
要点を先に述べます。総計295BパラメータのMoE(Mixture-of-Experts)構造ですが、1トークンを処理する際に実際に点灯するのは21Bだけです。コンテキスト長は256K、重みは BF16 で配布されます。ライセンスは Apache 2.0 で、地域制限も利用分野の制限もありません。重みは Hugging Face(tencent/Hy3)と ModelScope に上がっており、OpenRouter・Cline・OpenCode などのサードパーティにも順次展開されています。
アーキテクチャで実際に注目すべき点
いくつかの数字がこのモデルの性格をよく説明します。エキスパートは192個あり、そのうち top-8 だけが活性化します。そこから「ディスク上は295B、計算は21B」という構図が生まれます。推論の演算量は21B級の密(dense)モデルに近いのですが、メモリには295Bをすべて載せる必要があります。BF16 基準で単純計算しても重みだけで約590GB(2バイト × 295B)になるため、Tencent も「GPU 8枚、H20-3e 以上の大容量メモリ」を推奨しています。推奨カードが中国市場向けの H20 系列である点も、正直に触れておく価値があります。
主要な仕様を一か所にまとめます。
- 総パラメータ 295B / 活性 21B(エキスパート192個中 top-8)
- MTP(Multi-Token Prediction)レイヤー 3.8B — 投機的デコーディング用
- コンテキスト 256K、精度 BF16
- アテンション 64ヘッド(GQA、KV 8ヘッド、head dim 128)
- 推論制御
reasoning_effort:no_think(既定)・low・high - 配信スタック: vLLM・SGLang、量子化は AngelSlim ツールキット
3.8Bの MTP レイヤーは vLLM・SGLang で投機的デコーディング(speculative decoding)に使われ、トークン生成を高速化します。推論の深さを reasoning_effort で切り替える設計も実用的です。簡単な要求には既定値の no_think で即答し、難しい問題だけ high にして思考過程を長く出力する。必要のない推論に遅延とトークンを払わないという考え方です。
現実的な運用にも触れておきます。約590GBを載せる必要があるため、これはノートPCではなくサーバーで配信するモデルです。ただし AngelSlim による低ビット量子化を使えばメモリ要件が下がり、マルチGPUのワークステーションで試す余地が出てきます。活性パラメータが21Bである点が、ここでも有利に働きます。
オープンウェイトの地形とライセンスの話
Hy3 は真空から生まれたわけではありません。DeepSeek、Zhipu の GLM、Alibaba の Qwen へと続く中国系オープンウェイトの流れの最新項目です。この陣営に共通するのは、フラッグシップに近い性能を寛容なライセンスで公開することです。
ここで Apache 2.0 という選択が見た目以上に効いてきます。これまで中国系の「オープン」モデルは、利用制限や地域条項が付いた独自のコミュニティライセンスで出ることが多くありました。Hy3 のプレビュー自体がそうでした。対して正式版の Apache 2.0 はその負担がなく、法務レビューを経る必要がある組織にとって採用の障壁がはっきり下がります。
だからこそ、韓国の開発者にとって本当に興味深いのはライセンスの経緯です。複数のメディア報道によると、4月のプレビューは「Tencent Hy Community License」という制限的なライセンスで出され、そこで EU・英国・韓国を利用対象から明示的に除外 していました。7月の正式版はこの条項をまるごと外し、Apache 2.0 へ切り替えました。この経緯は一次資料(公式告知・モデルカード)ではなく二次報道で確認されるものなので、その出所は明記しておきます。ただし事実だとすれば、数か月のうちに韓国が「使ってはいけない対象」から「制限なく商用利用可能」へと変わったことになります。
能力の主張をどこまで信じるか
公開されたベンチマーク(すべてベンダー自身の計測)は華やかです。
- GPQA Diamond 90.4
- SWE-Bench Verified 78.0 / SWE-Bench Pro 57.9
- HLE(Humanity's Last Exam)53.2
- USAMO 2026 72.0 / IMOAnswerBench 90.0
- Deep SWE 28 / Apex Agents 25.6
Tencent は「自身の2〜5倍大きいフラッグシップに匹敵する知能」と表現します。GLM-5.2・DeepSeek-V4-Pro と「同等の水準」だとしつつ、パラメータがそれぞれ753B・1.6Tの相手よりはるかに小さい点を強調します。文書処理で GLM-5.2 よりトークンを47.4%少なく使ったという効率の数値もあります。
さらに Deep SWE・Apex Agents のような項目は比較的新しいエージェント系のベンチマークで、競合モデルの公開された基準点が多くありません。数値だけでは相対的な位置を測りにくいということです。
ここで冷静になる必要があります。 これらの数値はすべてベンダーが自ら公表したものであり、本稿執筆時点で独立した第三者による検証は出ていません。 そしてベンダー自身のデータの中でも弱点は見えます。コーディングでは GLM-5.2 に劣ります — SWE-Bench Verified は78.0 対 84.2 です。GPT-5.5 を上回ったという主張は FrontierScience-Olympiad という特定の科学課題一つについての範疇的な記述にすぎず、スコアの比較表はありません。逆に Deep SWE 28、Apex Agents 25.6 のような低い項目までモデルカードに併記されているのは、むしろ信頼を与えます。
おわりに
Hy3 について最も確かな事実は、ベンチマーク順位ではなくアクセスしやすさです。21Bの活性パラメータなので推論コストが低く、Apache 2.0 なので法的な摩擦がなく、標準スタック(vLLM・SGLang)ですぐに動きます。
ベンチマークは検証されるまでベンダーの主張として読むのが妥当です。しかし「十分に良く、かつ制約なく使える」オープンモデルの選択肢が一つ増えたという事実そのものは、検証を要しない利得です。実際の採用は順位表ではなく、それぞれのワークロードで数日回してみた結果が決めるでしょう。